2005-09-01から1ヶ月間の記事一覧

第77 秋冷の候菊坂散歩

すっかり涼しく、空気も爽やかさが増し、長袖シャツ一枚で歩くのがちょうどいい季節になった。喜ばしいことである。暑い時期は、忙しさも多少あったが、精神的にもあまり出歩く気持ちになれなかった。昼休みも建物のなかに籠もりきりで外に一歩も出ず、家か…

長澤まさみに夢中

TBS 「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004年、「世界の中心で、愛をさけぶ」製作委員会・東宝) 監督行定勲/大沢たかお/柴咲コウ/長澤まさみ/森山未来/天海祐希/杉本哲太/宮藤官九郎/田中美里/山崎努 いつ頃からだったか、「この女の子可愛いなあ」…

評釈的文体と連句的書評

このあいだ読んだ谷沢永一・向井敏『読書巷談 縦横無尽』*1(講談社文庫、→9/5条)のなかで、安東次男『花づとめ』が取り上げられていることは少し触れた。 二人の激賞ぶりが尋常でないため、猛烈に読みたくなる。この本は一昨年11月講談社文芸文庫*2に入っ…

寒いよ寒いよ寒いのよ〜

立ち読みすらほとんどしないという“雑誌趣味”に乏しいわたしの買う雑誌は、いまや『東京人』ただ一種類と言ってよい*1。まれに『芸術新潮』を購うこともあるけれど、近年は年に一度あるかないか。『東京人』すら毎月買っているわけではない。特集次第だから…

そして「稲妻」へ(後編)

日本映画名作劇場@衛星劇場(録画DVD) 「稲妻」(1952年、大映)※三度目 監督成瀬巳喜男/原作林芙美子/脚色田中澄江/高峰秀子/三浦光子/浦辺粂子/村田知英子/丸山修/小沢栄太郎/植村謙二郎/中北千枝子/杉丘毬子/根上淳/香川京子/滝花久子 前…

そして「稲妻」へ(前編)

昨日触れた阿部嘉昭『成瀬巳喜男―映画の女性性』*1(河出書房新社)や、先日敢行した「稲妻」の舞台のひとつ(新)新田橋探訪などがきっかけとなって、にわかに身辺成瀬熱が高まったかのようである。ここ数日、手もとにある成瀬関係本を座右に掻き集めてきて…

異色ずくめの「驟雨」

「4ヶ月まるごと成瀬巳喜男劇場」@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「驟雨」(1956年、東宝)※二度目 監督成瀬巳喜男/原作岸田國士/脚色水木洋子/撮影玉井正夫/美術中古智/佐野周二/原節子/香川京子/小林桂樹/根岸明美/加東大介/長岡輝子/中…

「稲妻」の前に「驟雨」

近所にある区立図書館分館の新着図書コーナーにこんな本が入っていたと、阿部嘉昭さんの『成瀬巳喜男―映画の女性性』*1(河出書房新社)を妻が目の前に差し出した。 この本なら大学生協書籍部にも並んでいた。買おうか迷いつつ、そこまで成瀬論に深入りする…

十朱久雄の禿頭、山田耕筰の禿頭

日本映画名作劇場@衛星劇場(録画HDD) 「ここに泉あり」(1955年、独立映画・松竹) 監督今井正/脚本水木洋子/音楽團伊玖磨/小林桂樹/岡田英次/岸恵子/加東大介/三井弘次/大滝秀治/中村是好/十朱久雄/東野英治郎/千石規子/原ひさ子/沢村貞子…

新刊を待ちきれず

べつにわたしだけに限るまいが、自宅で読む本と電車で読む本は別にしている。先日読んだ浅田次郎『椿山課長の七日間』のように、ときたま、電車で読んでいてやめられなくなり、家でそのまま読みつぐような本もないわけではない。 自宅本にしろ電車本にしろ、…

東京都現代美術館を堪能す

「常設展示 MOTコレクション 1920年代の東京」@東京都現代美術館 今回の常設展示のうちの一企画「1920年代の東京」は、企画展「東京府美術館の時代 1926-1970」展にちなんだものだという。府美術館が開館した大正末期は、震災復興の気運が盛り上がり、新し…

第76 「閑々亭」で酒気を抜け!

ひさしぶりの二日酔い 東北の産ゆえか、黙々と呑むからか、よく人からは酒がいける口だと見られる。しかし自分では必ずしもそう思っていない。もちろん下戸ではないが、酒量は多くない。外で呑むと、自然にリミッターが作動するのか、二日酔いが前倒しできた…

校訂表好き宣言

エッセイ集などの初出一覧が充実していると、何となく嬉しい。これ“初出一覧派”なり(→2004/6/11条)。これに加え、テキストが綿密な校訂を経てわたしたち読者に提供されていることを保証する校訂表が詳しければ詳しいほど、また嬉しからずや。これ“校訂表派…

死んでからわかること

外出先から帰宅のメールを出したら、折り返し最寄駅前のスーパーで待ち合わせして買い物しようという返事が来た。家族と合流するまで、スーパーのなかにある新刊書店で時間をつぶしていたとき、手持ち無沙汰なのでそれまでまったく意識すらしなかった新刊文…

一部屋古本市

南陀楼綾繁さん(id:kawasusu)のお誘いで、南陀楼さんの蔵書処分イベント「一部屋古本市」に参加させていただく機会を得た。 この間練馬区立美術館を訪れたときには、その北にある向山の住宅地に足を伸ばしたのだった(→2004/9/23条)。そこで今回は美術館の…

佐伯祐三のパリと下落合

「佐伯祐三―芸術家への道」展@練馬区立美術館 練馬区立美術館を訪れるのは約一年ぶり。昨秋は「小熊秀雄と画家たちの青春―池袋モンパルナス―」展を観たのだった(→2004/9/23条)。今回の佐伯祐三展は同美術館の開館20周年を記念してのものでもある。 佐伯祐…

サラリーマン小説の系譜

源氏鶏太さんのエッセイ集『わたしの人生案内』*1(中公文庫)を読み終えた。 本書は中公文庫のシリーズ「人生の一冊」として、昨年11月に出された。『わたしの人生案内』『わが文壇的自叙伝』の2冊の著書から編集されたエッセイ・アンソロジーである。「初…

新しい古本屋小説

先般第133回直木賞を受賞した朱川湊人さんについて、実は直木賞を受賞する前から気になってはいた。理由はきわめて単純で、わたしと同じ足立区在住(生まれは大阪)だからだ。区の広報だったろうか、たぶん『都市伝説セピア』が直木賞候補作となっていま注目…

ひろいよみ酔いざめ日記(1)

昭和39年2月29日条 辰野隆氏死去。二十八日午後十一時二十五分、虎ノ門共済病院で胃癌のため死亡。七十五歳。告別式は自宅練馬区立野町にて。(東京新聞)びっくりした。小生の近くで散歩の途上によく出逢ったが目礼するだけであった。足どりに少し元気がな…

追悼中北千枝子

「4ヶ月まるごと成瀬巳喜男劇場」@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「妻の心」(1956年、東宝) 監督成瀬巳喜男/脚本井出俊郎/美術中古智/高峰秀子/小林桂樹/三船敏郎/三好栄子/千秋実/中北千枝子/杉葉子/沢村貞子/加東大介 この映画が公開さ…

喜劇役者論の古典

映画を観て、あらためて伴淳三郎という喜劇役者に興味を持った(→9/7条)。そこで彼について書かれた本がないものか、たとえば色川武大さんや矢野誠一さんら、喜劇役者の評伝を書いている人の本を漁った結果、たどりついたのは、小林信彦さんの『日本の喜劇…

さらば「気まぐれ美術館」

とうとう洲之内徹『さらば気まぐれ美術館』*1(新潮社)を読み終えてしまった。申孝園歩きに照準を合わせ、この「気まぐれ美術館」最終冊を読み出したのだが、既読の文章の再読を楽しめばいいとはいえ(そしてその都度発見はあるだろうとはいえ)、未読の文…

第75 「最後の気まぐれ美術館」を歩く

「暑くなる前に」と考えているうち梅雨に入り夏に突入した。目標を「涼しくなってから」に切りかえる。歩きたくとも、どうにも夏の散歩はつらいから。9月に入りちょっぴりしのぎやすい日が多くなってきたので、いよいよ実行に移すことにする。目標は「一之江…

歴史を学ぶということ

ハリケーン・カトリーナによる米ニューオーリンズの水害は甚大だ。町から完全に水を抜くためには数ヶ月はかかるというから、ふつうに生活できるようになるまで復旧するには、どのくらいかかるのだろう。掠奪などの犯罪が発生し、犯人と警察、州兵との間で銃…

オイチニイの薬売り

名画 the NIPPON@チャンネルNECO 「足摺岬」(1954年、近代映画協会・北星映画) 監督吉村公三郎/脚本新藤兼人/原作田宮虎彦/木村功/津島恵子/砂川啓介/信欣三/内藤武敏/金子信雄/森川信/河原崎建三/原ひさ子/御橋公/殿山泰司/菅井一郎/芦田…

『エロトピア』小考

野坂昭如さんの『エロトピア2』(文春文庫)を読み終えた。 この本で一貫して主張されている「マスターベーション礼讃」と「セーラー服願望」は、とことんまで突きつめれば、ほとんど即物的、虚無的な思想になることがわかる。とりわけ前者にその傾向が顕著…

逆転する伴淳への評価

「監督 豊田四郎の世界」@日本映画専門チャンネル(録画HDD) 「喜劇 駅前百年」(1967年、東京映画) 監督豊田四郎/脚本八住利雄・広沢栄/森繁久彌/淡島千景/乙羽信子/松山英太郎/フランキー堺/名古屋章/池内淳子/大空真弓/山茶花究/三木のり平…

秋たつや川瀬にまじる風の音

「4ヶ月まるごと成瀬巳喜男劇場」@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「秋立ちぬ」(1960年、東宝) 監督成瀬巳喜男/脚本笠原良三/大沢健三郎/一木双葉/乙羽信子/夏木陽介/原知佐子/加東大介/河津清三郎/藤原釜足/賀原夏子/菅井きん/藤間紫 豊…

予告篇の魔力

「監督 豊田四郎の世界」@日本映画専門チャンネル 「豊田四郎監督作品劇場予告篇集」 「白夫人の妖恋」「雪国」「夕凪」「花のれん」「男性飼育法」「暗夜行路」「珍品堂主人」「墨東綺譚」「東京夜話」「明日ある限り」「如何なる星の下に」「憂愁平野」「…

「雑文史」をたどって

谷沢永一さんと向井敏さんによる書評対談『読書巷談 縦横無尽』*1(講談社文庫)を読み終えた。 本書はいわゆる新刊書評ではない。そもそも「書評」と呼ぶことが妥当かどうか異論があるかもしれない。要は名うての目ききである二人が設定されたテーマに関す…