2007-01-01から1年間の記事一覧

相撲を観る気分

今年は横綱朝青龍をめぐる一連の騒動や時津風部屋の不祥事により、大相撲が妙なかたちで話題になってしまった。それゆえか、大相撲の本質を問うような著作を書店で見かけるようになった。 たとえば舟橋聖一の『相撲記』*1(講談社文芸文庫)。両国橋近くに生…

歴史の動力としての県人会

川本三郎さんの最新著『ミステリと東京』*1(平凡社、→10/31条・11/12条)には、もともとの『東京人』連載分に加え、“ボーナストラック”として、むかしの東京を舞台にしたミステリの書評2本が収められている。このうち物集高音『大東京三十五区 冥都七事件』…

50年前をまるごと復刻

このあいだ歌舞伎座に歌舞伎を観に行った帰り、日比谷まで歩いた。いつも入る地下鉄入口の三信ビルが完全に取り壊されてしまったのを目の当たりにして、大きな衝撃を受ける。とうとうやってしまったか。あれだけの風格ある建物が、保存運動むなしくいとも簡…

年の瀬や水の流れと人の身は

十二月歌舞伎公演@国立劇場 清水一角 松浦の太鼓 忠臣蔵外伝とも言うべき三本(上記二本に加え、宇野信夫作「堀部彌兵衛」)を組むというユニークな企画。そのうえ吉右衛門が座頭で大好きな「松浦の太鼓」もあるとなれば、この公演情報を知ったときかならず…

常識が揺さぶられる

先日神保町に出る用事があったので、例によって東京堂書店に立ち寄り、鹿島茂さんの新刊『神田村通信』*1(清流出版)の署名本を買い求めた。 以前同じように東京堂で『ドーダの近代史』*2(朝日新聞社)を購入したときとシチュエーション(時間帯と所用)が…

四度目でも愉しめる

日活名画館・石原裕次郎シアター@チャンネルNECO 「紅の翼」(1958年、日活) ※四度目 監督中平康/原作菊村到/脚本中平康・松尾昭典/音楽佐藤勝/石原裕次郎/中原早苗/二谷英明/芦川いづみ/滝沢修/大坂志郎/芦田伸介/西村晃/小沢昭一/安部徹/…

八代目とのふたつの出会い

めぐりあわせの不思議さに驚くことがある。先日歌舞伎座に歌舞伎を観に行ったことを書いた(→12/16条)。切符を確保した当初は、この昼の部での期待は、勘三郎初役の「筆屋幸兵衛」だった。 ところが実際行ってみると、一番目の「鎌倉三代記」に惹かれるもの…

勝手な言いぐさ

荷風と谷崎@ラピュタ阿佐ヶ谷 「痴人の愛」(1949年、大映京都) 監督・脚本木村恵吾/原作谷崎潤一郎/脚本八田尚之/京マチ子/宇野重吉/森雅之/三井弘次/菅井一郎/清水将夫/島崎溌/近衛敏明 『痴人の愛』という作品は、原作を読んで真から苛立たさ…

型の魅力

十二月大歌舞伎・昼の部@歌舞伎座 鎌倉三代記 絹川村閑居の場 年に一、二度ある妻との観劇。一人のときは筋書を買うことがなくなったが、一緒のときは懐を直接痛めないこともあって、購入する。筋書を買った時熱心に読むのは、出演役者のインタビューと上演…

現代に甦る忠臣蔵

東宝娯楽シアター@日本映画専門チャンネル 「続サラリーマン忠臣蔵」(1961年、東宝) 監督杉江敏男/脚本笠原良三/森繁久弥/三船敏郎/東野英治郎/小林桂樹/宝田明/司葉子/新珠三千代/加東大介/有島一郎/三橋達也/志村喬/久慈あさみ/夏木陽介…

仮名手本忠臣蔵パロディの傑作

東宝娯楽シアター@日本映画専門チャンネル 「サラリーマン忠臣蔵」(1960年、東宝) 監督杉江敏男/脚本笠原良三/森繁久弥/三船敏郎/池部良/東野英治郎/小林桂樹/宝田明/司葉子/新珠三千代/加東大介/有島一郎/三橋達也/志村喬/久慈あさみ/夏…

卵一個の問題

名画 the NIPPON@チャンネルNECO(録画HDD) 「二人の息子」(1961年、東宝) 監督千葉泰樹/脚本松山善三/宝田明/加山雄三/藤原釜足/望月優子/藤山陽子/白川由美/志村喬/小泉博/浜美枝/東郷晴子/田浦正巳/沢村いき雄/原知佐子/堺左千夫/織…

たしかに「幻の本」だった

最近ブックオフに行く機会もめっきり少なくなってしまった。先日、非常勤出講の帰り道に、夜の表参道を歩いて久しぶりに原宿店を訪れたところ、閉店されていて呆然となった。並みいるブックオフのなかでもきわめて質の高い品揃えを誇っていた店であったが、…

第7 富山のまぼろし

仕事で富山市に出張した。同じ日本海側の県に生まれ育った者なのに、失礼ながら最初は、東京から飛行機で行かねばならないだろうと思い込んでいた。ところが上越新幹線と特急を乗り継いで3時間30分弱で行くことができるのである。 わたしの乗ったルートは、…

名優渡辺謙を活かすため

レンタルDVD 「明日の記憶」(2006年、「明日の記憶」製作委員会・東映) 監督堤幸彦/原作荻原浩/脚本砂本量・三浦有為子/渡辺謙/樋口可南子/吹石一恵/坂口憲二/田辺誠一/袴田吉彦/水川あさみ/及川光博/香川照之/大滝秀治/木梨憲武/渡辺えり子…

記憶と人間社会

多少ペースが落ちたとはいえ、読書から遠ざかったわけではないのである。読んでいるのだが、感想を書く時間がない。いや、書く時間がないと言ってしまえば嘘になる。書く余裕がない、書くために読んだ本の内容をまとめ、それについてのあれこれを頭のひきだ…

短距離走的不倫サスペンス

昭和の銀幕に輝くヒロイン第37弾 桂木洋子@ラピュタ阿佐ヶ谷 「密会」(1959年、日活) 監督・脚本中平康/原作吉村昭/音楽黛敏郎/桂木洋子/伊藤孝雄/宮口精二/千代侑子/峯品子/細川ちか子/鈴木瑞穂 久々にラピュタで大入り満員に遭遇した。補助席…

芥川比呂志の狂気

リクエストアワー@衛星劇場(録画HDD→DVD) 「別れて生きるときも」(1961年、東宝) 監督・脚本堀川弘通/原作田宮虎彦/脚本松山善三・井手俊郎/美術中古智/音楽芥川也寸志/司葉子/小林桂樹/高島忠夫/児玉清/芥川比呂志/田中絹代/河津清三郎/沢…

名画が同時代にあった頃

[復刻版]銀座並木座ウィークリー編集委員会編『[復刻版]銀座並木座ウィークリー』*1(三交社)を読み終えた。 12日に丸善丸の内店で手に入れ、その日に川本三郎さんのサインを頂戴してから(→11/12条)、毎日ナイトキャップ代わりに枕元で読み、また、家…

別腹とは心で食べることなり

野村麻里編『作家の別腹―文豪の愛した東京・あの味』*1(知恵の森文庫)を読み終えた。 世の中にグルメ、グルマンをテーマにした食のアンソロジー本は数あれど、本書がユニークなのは、具体的な「東京にある店」の食べ物を取り上げた文章を選び、もしその店…

小林桂樹八十四歳の賀

演技者小林桂樹映画祭@新文芸坐 「めし」(1951年、東宝)※三度目 監督成瀬巳喜男/原作林芙美子/脚本田中澄江・井出俊郎/原節子/上原謙/島崎雪子/杉村春子/小林桂樹/杉葉子/二本柳寛/浦辺粂子/大泉滉/花井蘭子/滝花久子/中北千枝子/山村聰/…

「若天王」に泣かされる

吉例顔見世大歌舞伎・夜の部@歌舞伎座 宮島のだんまり 歌舞伎を見はじめた当初、この「だんまり」という芝居がよく理解できなかった。合理的解釈しようという余計な「理性」が、この「だんまり」にせよ、千本桜の「すし屋」にせよ、理解を阻むのである。 暗…

永久欠番が意味するもの

スポーツする映画たち@シネマヴェーラ渋谷 「不滅の熱球」(1955年、東宝) 監督鈴木英夫/原作鈴木惣太郎/脚本菊島隆三/池部良/司葉子/笠智衆/千秋実/清水将夫/滝花久子/藤原釜足/土屋嘉男/千葉一郎 池部さんの著書『21人の僕』*1(文化出版社)…

頭の中で空回りする文章

田中小実昌さんの文庫新刊『新編 かぶりつき人生』*1(河出文庫)を読み終えた。 カバー裏の紹介文や、井家上隆幸さんの解説によれば、何でも本書は小実昌さんの「幻の処女作」であり、長く入手困難で古書価も高かったのだそうだ。 本文庫版に「新編」と付い…

社会派と思いきや…

水上勉さんは、社会派推理小説の雄として、一時期松本清張と並び称された。その後創作活動の重心はミステリから離れ独自の世界を切り開いたことは周知のとおりである。松本清張作品が、現代的関心からなお色褪せない価値を有しているように、水上勉作品もま…

川本さんの講演を聴く喜び

『ミステリと東京』刊行記念 川本三郎さんトーク&サイン会@丸善・丸の内本店 熱が出て日曜日一日寝込み、明けて月曜日になると、熱こそ下がったものの、だるさは取れない。午前中そのまま横になって静養し、ようやく昼から仕事に復帰することができた。そ…

歴史と星空のコラボレーション

特別展「関東戦乱―戦国を駆け抜けた葛西城―」@葛飾区郷土と天文の博物館 暖かい陽気の関西出張から戻ったその日の夕方、長男を連れて冷たい時雨のなか自転車で博物館に向かった。 なぜそこまでして葛飾区郷土と天文の博物館までおもむいたかと言えば、これ…

たまには違うこともある

日活名画館・石原裕次郎シアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「今日に生きる」(1959年、日活) 監督舛田利雄/脚本山崎巌・江崎実生/石原裕次郎/二谷英明/北原三枝/南田洋子/宍戸錠/江木俊夫/武藤章生/金子信雄/高原駿雄/清水将夫/高野由美 あ…

植草甚一の雑食作法

「植草甚一 マイ・フェイヴァリット・シングス」@世田谷文学館

川瀬巴水の版画技法

特別展「川瀬巴水 旅情詩人と呼ばれた版画絵師―没後50年―」@大田区立郷土博物館