2004-04-01から1ヶ月間の記事一覧

詩人の東京散歩

三好達治の『月の十日』*1(講談社文芸文庫)を読み終えた。三好達治なんて読むのは、中学校か、高校か、国語の教科書に載っていた作品以来ではあるまいか。昨年12月に新刊で出たとき、この本は紀行文集であり、なかに「東京雑記」という東京の散歩エッセイ…

編集者への鎮魂歌

大村彦次郎さんの“文壇三部作”の最後の巻『文壇挽歌物語』*1(筑摩書房)を読み終えた。 昨年12月に仙台のブックオフで前の二冊『文壇うたかた物語』『文壇栄華物語』(感想はそれぞれ12/12条・12/31条参照)を幸いにも入手し、その月のうちに読み終えていた…

大学堂書店@本郷三丁目 ★都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』(集英社文庫) カバー、100円。解説色川武大さん。 ★『芸術新潮』1994年11月号 特集「今こそ知りたい! 洲之内徹 絵のある人生」。500円。いつもながらふじたさん(id:foujita)に教えて…

貫禄がもたらすもの

泉麻人さんを知ったのは、本名朝井泉で出演されていた「テレビ探偵団」だろうと思われる。調べてみると同番組は1986年から92年までTBS系で放送されていた。たしか日曜夜8時、NHK大河ドラマの裏番組ではなかったか*1。その頃は熱心な大河ドラマ・ファンだった…

看板の裏切りかた

北村薫さんの最新作『語り女たち』*1(新潮社)を読み終えた。「かたりめたち」と読ませる。冒頭(2頁)がグリーン、末尾(1頁)が濃いピンク、本文全体はブラウンのインクで印刷され、間に謡口早苗さんによる幻想的なイラストが入るという凝った造りになっ…

増田彰久展「ニッポン西洋館の旅」@新宿パークタワー これまで様々な洋館の写真を撮り続けてきた増田さんの作品展。やはり本で見るのと、大きく引き伸ばされてパネルになった写真を見るのとでは印象が違う。まるでその建物のかたわらや内部にいるかのような…

新生堂奥村書店 ★丸谷才一・木村尚三郎・山崎正和『鼎談書評』(文藝春秋) カバー・帯、600円。ふじたさんが奥村書店でこの本を見たと日用帳(id:foujita)に書かれて以来、気になっていた本。というのも、この鼎談書評シリーズの2冊目3冊目(『鼎談書評 三…

戦中派三人組

小林信彦さんの『週刊文春』人気連載「人生は五十一から」の新刊本を書店で見かけた。小林さんのコラム集の新刊と旧刊の文庫化が年中行事化して、春になると「そろそろかな」と待ち遠しくなることがある。今年はその前に別の新刊エッセイ集『定年なし、打つ…

サワグチ書店@小川町 ★森銑三『瓢箪から駒―近世人物百話』(彌生書房) カバー・帯、500円。近世の主として名もない人びとの逸事異聞を百集めた人物スケッチ集。まだ私の職場に勤務しているときに本書を構想し、草稿を書きため、空襲を経てなお焼け残ったと…

国吉康雄展@東京国立近代美術館 ある方から招待券を頂戴しました。感謝申し上げます。金曜日は夜20時まで開館しており、ちょうど隣の国立公文書館(内閣文庫)に調査に行った帰りに立ち寄ることができた。 国吉康雄(1889-1953)という画家の名前はこの展覧…

驚きの装幀史・製本史

「読まずにホメる」(「書評のメルマガ」連載)で取り上げるとその本を読んだ気になってしまうのが困る。もっともこれは本のせいでなく自分の問題なのだが、読んだ気になると本もつい読了本と同じ扱いになってしまう。積ん読の山に読了本も一緒に積まれてい…

ゴールデンウィーク迷いの種

山本周五郎の『季節のない街』*1(新潮文庫)を読み終えた。 西願寺というお寺の崖下にひっそりと存在する貧乏長屋の町並とそこで暮らしたり接点をもつ極貧の人びと。月並みな表現ながら、そんな人びとが織りなすユーモアとペーソスに満ちたエピソードの連鎖…

大学堂書店@本郷三丁目 ★小林信彦『読書中毒―ブックレシピ61』(文春文庫)ISBN4167256096 カバー・帯、200円。いま小林さんの新刊エッセイ集を読んでいるところで、どうも小林さんの文章にはそれこそ「中毒」性があるらしい。困った困った。 ★宇佐美承『求…

散歩欲と散歩幻想

磯田和一さんの新著『東京遊歩東京乱歩―文士の居た町を歩く』*1(河出書房新社)を読み終えた。 磯田さんといえば、持ってはいないけれど、著名人の書斎のイラスト・ルポ『書斎曼荼羅』をまず思い浮かべる。ところが本書を読むと、もともとは童画家で絵本の…

本郷通り古本屋流し

萬葉堂書店@赤門前 ★阿川弘之『鮎の宿』(講談社文芸文庫)ISBN4061982591 カバー、700円。エッセイ集。「百間讃」「獅子文六」といったタイトルの一文に惹かれて。 第一書房@正門前(店頭本) ★『不意のことば―夏彦の写真コラム』(新潮社)ISBN410341303…

成田屋三代へのオマージュ

この5月、6月は歌舞伎座で十一代目市川海老蔵襲名披露が行なわれる。何かと話題の新之助が祖父・父と受け継がれた「海老蔵」を襲名する檜舞台ということで、5月のチケットは困難をきわめたすえ、昼の部・夜の部ともかろうじて確保できた。たぶん6月もたいへ…

第58 荻窪散歩に悔いあり

このところ中央線沿いの町に行くときはかならずといっていいほど好天で、頭上には気持ちいい青空が広がっている。まるで川本三郎さんの『東京の空、今日も町歩き』*1(講談社)の森英二郎さん描くカバーイラストにあるような空で、中央線沿いの町に対する憧…

千章堂@阿佐ヶ谷 ★阿川弘之『断然欠席』(講談社文庫)ISBN4061851659 カバー、100円。「私の履歴書」を含むエッセイ集。 ★安東次男『花づとめ―季節のうた百三章』(中公文庫)ISBN4122020301 カバー、180円。数ヶ月前たしか講談社文芸文庫に入ったはず。買…

「成瀬巳喜男 その、まなざし」@ラピュタ阿佐ヶ谷 「旅役者」(1940年、東宝映画) 成瀬巳喜男監督/藤原鶏太/柳谷寛/高勢実乗/清川荘司/御橋公/深見恭三/中村是好/山根寿子 「妻」(1953年、東宝) 成瀬巳喜男監督/上原謙/高峰三枝子/丹阿弥谷津…

デカダン文庫移転

綾瀬の奥まったところにあった古書肆デカダン文庫がこのほど綾瀬駅前のわかりやすい場所に移転した。東京メトロ千代田線綾瀬駅の西改札口を降り、北口に出てそのまま線路沿いの道路を北千住方向(西)まで戻るとすぐの場所だ。 店主さんは狭くなると言われて…

明治文豪たちと西洋音楽

先日読んだ宇佐美承『池袋モンパルナス』*1(集英社文庫)では、東京美術学校出身の画家たちが多く登場した。東京美術学校の後進はいうまでもなく現在の東京芸術大学。東京芸大にはいまひとつの柱音楽学部があり、こちらの前進は東京音楽学校である。美術と…

吉田健一は激賞する

水上勉さんの『雁の寺(全)』*1(文春文庫)を読み終えた。 「雁の寺」は第45回直木賞受賞作で、水上さんの代表作である。現在入手可能なテキストは、いまひとつの代表作「越前竹人形」と併録されている新潮文庫版*2のみであるようだが、新潮文庫版には「雁…

梶山季之と山口瞳

『男性自身 英雄の死』*1(新潮文庫)の帯、カバー裏の紹介文いずれにも梶山季之のことが書かれてある。柳原良平さんによる表紙イラストもおそらく(という言い方は失礼か)梶山の肖像だ。だから本書のタイトル「英雄の死」の「英雄」とはてっきり梶山のこと…

「田舎者」とは何か

たっぷりとあいだに時間をとって、ともすれば間隔をあけすぎてそのまま忘れ去ってしまうのではないかというくらいのペースで、山口瞳さんの文庫版『男性自身』を新しいほうから遡って読むことをしている。今回『男性自身 英雄の死』*1(新潮文庫)を読み終え…

「ごみ溜め」のなかの光

仙台に住んでいた頃、東京のなかでもっとも身近に感じていた町は池袋である。『書店風雲録』を読んだとき(→2003/12/22条)に書いたが、東京に住んでいた先輩から池袋リブロのすごさを教えてもらい、上京のたびに訪れた。その上階(セゾン美術館?)で開催さ…

この週末に買った古本

「講談社」書店@堀切菖蒲園 ★吉行淳之介『人工水晶体』(講談社文庫)ISBN406184296X 講談社エッセイ賞受賞作。本書収録の文章はほとんど中公文庫『淳之介養生訓』で読むことができる。ただ、本文庫版には、講談社エッセイ賞選考委員四氏(井上ひさし・大岡…

レンタルビデオ 「ゼロの焦点」(1961年、松竹) 野村芳太郎監督/橋本忍・山田洋次脚本/久我美子/高千穂ひづる/有馬稲子/南原宏治/西村晃/加藤嘉 ようやくレンタルビデオで借りることができた。原作を先に読んだが(→3/30日条)、私は配役を勘違いし…

『食味風々録』から弥助鮨へ

今日も阿川弘之『食味風々録』*1(新潮文庫)の話である。といっても今回は、この本と別の本がシンクロしてつながったという話。 本日配信された「書評のメルマガ」vol.159の連載「かねたくの読まずにホメる」で私は「千本桜を見直す」と題し、渡辺保さんの…

食って出してまた食う

阿川弘之さんの『食味風々録』*1(新潮文庫)を読み終えた。本書には昨日も4/3条も言及した。それでもなお読後こうして何かしら感想を書くことがある。それだけ内容豊かな面白い本だったということである。 本書は読売文学賞を受賞した食味エッセイ集で、思…

画期としての明治30年代

永嶺重敏さんの新著『〈読書国民〉の誕生―明治30年代の活字メディアと読書文化』*1(日本エディタースクール出版部)を読み終えた。本書の書評(いや「書評のような感想」にすぎないが)はしかるべき場所に書く予定になっているのでそちらに譲り*2、ここでは…