2005-02-01から1ヶ月間の記事一覧

旅のなかの平凡な日常

紀行文を書くことはむずかしい。読むだけの立場でいたときにはそんなことは思いもしなかったのだけれど、ホームページで「平成日和下駄」と題する町歩き(町歩きルポも一種の紀行文だろう)の記を書くようになると、そのむずかしさを痛感した。 町歩きでの見…

寄席に行くかわりに

先日の昼休み、湯島天神境内の梅を見にぶらぶら出歩き、そのまま足を上野広小路まで伸ばした。鈴本演芸場の前を久しぶりに通ったら、落語を聞きたいという気持ちが勃然とわき上がってきた。林家こぶ平の林家正蔵襲名がもうすぐで、そういう機会でもないとな…

しゃべくり独演会

これだけ毎日のように夕刊フジ連載本に執着していると、夕刊フジ連載本かどうかのカンも研ぎ澄まされてくる。生島治郎さんや高橋三千綱さんの本がそうだった。古本屋に入り、それっぽいタイトルの本に目をつける。ページをめくってみて目次が二段組みでびっ…

批評の王道

夕刊フジ連載山藤挿絵シリーズを探している過程で見つけた副産物に、都筑道夫さんのエッセイ集『目と耳と舌の冒険』(晶文社)があった。いかにも都筑さんも夕刊フジに連載しそうな作家だから、最初はこの本も夕刊フジ連載本かと期待を抱いたが、結論から言…

夕刊フジ連載山藤挿絵本の第一作

はじめて「夕刊フジ」から仕事(梶山季之さんのエッセイの挿絵)の依頼が来たとき、山藤章二さんは返事を渋ったという。百回連載というハードさに加え、「当時大流行作家の梶山氏とあらば、位まけということもあって」という理由だった。 このとき編集者から…

となりの町にブックオフができた!

わが隣町綾瀬に、今日ブックオフがオープンした。これまでわが家からもっとも近いブックオフといえば北千住駅前か松戸駅前だったが、いずれも最寄り駅から2駅離れていた場所にある。今度の綾瀬駅前店は一つ隣、しかも手前の駅なので、ここで下車して歩いて帰…

第64 まぼろしの根津・弥生

朝の通勤で時間(と気持ち)に余裕があれば、地下鉄をひとつ手前の千駄木で降り、根津神社の境内を通って職場に歩いてゆく。先日も思い立って千駄木で降り、いつものとおり根津神社に入った。 根津神社を抜けると、たいていS字坂をのぼって本郷台地上に出る…

四文字の言語遊戯

夕刊フジ連載山藤挿絵本シリーズをリストアップし、ひととおり見渡したうえで、既読の山口瞳『酒呑みの自己弁護』・吉行淳之介『贋食物誌』を除き、もっとも読みたいと思っていたのは、実は井上ひさしさんの『巷談辞典』*1(文春文庫)だった。 あの匠気に富…

不易の東京肯定論

先日近所の古本屋で、川本三郎さんの『雑踏の社会学』*1(ちくま文庫)の帯付本を見つけた。もともと持ってはいたのだけれど、帯が無くおまけに小口が削れているものだったので、これ幸いとダブり購入したのである。持ってはいたが未読だったから、この機会…

大島古書店めぐり

大島に買い物に行く妻に同伴して、私は長男と西大島から大島にかけての古本屋をめぐることにした。野村宏平『ミステリーファンのための古書店ガイド』*1(光文社文庫)で紹介されていたお店をたどる。訪れた順番に、たなべ書店西大島店→風書房→ブックセンタ…

絵と文章、涙の再会

年頭「山藤章二強化年間宣言」(→1/9条)を打ち上げて以来、主として山藤さんが「夕刊フジ」で作家と組んだ100回連載のシリーズを手始めに蒐集を開始した。一覧は1/20条にまとめている。 「夕刊フジ」連載エッセイ15本のうち、唯一手元になかったのが渡辺淳…

本郷・根津で飲み会

西秋さん・ふじたさんと恒例の飲み会。本郷・東大農学部前のおでん屋「呑喜」にて、おでん(里芋が美味かった!)と日本酒で身体を暖め、根津の裏通りにある蕎麦屋「三里」に移動。三里で呑んでいるとき、突然お店が暗くなった。お店のブレーカーが落ちたの…

戦後の劇評家戸板康二の出発点

ずいぶん以前にふじたさん(id:foujita)から、戸板康二『歌舞伎の話』(角川新書)を頂戴していながら、読む機会を逸したまま、同書が講談社学術文庫に入ることを知った。結局同文庫版*1で読んだ。 いまは亡きシリーズとはいっても、新書というスタイル、おま…

鈍感なマジョリティ

新潮文庫の今月の新刊が平積みされているなかに、「魚は飛んではいけないので、トビウオは食べられない」という帯の惹句がある一冊が目に止まった。どういうことだろうと手に取ったのが、中島義道さんの『偏食的生き方のすすめ』*1という本である。運の尽き…

断簡零墨趣味

「断簡零墨」という言葉がある。『広辞苑』(第四版)をひいてみると、あいにく「断簡」という単語しか採られておらず、「きれぎれになった書きもの」という語釈のあとに「―零墨」という成語があることが示されているのみだった。 この言葉は、たとえば小説…

ひろいよみ夢声日記(1)

昭和17年1月31日条 岩田牡丹亭と錦城出版社を訪れ、ブラブラ清水谷から四谷へ出る。松葉屋でニッカ一本手に入れる。牡丹亭は葡萄酒を一本。元日約束のサント十二年をとりに牡丹亭荻窪まで来る。仏印コーヒーを入れる。「南の風」に仏印コーヒー礼讃を書いた…

社会派推理作家の晩節

先日読んだ水上勉『文壇放浪』*1(新潮文庫、→1/21条)のなかで、「雁の寺」で直木賞を受賞し文壇デビューを果たした水上さんが、文壇の諸先輩から「これからは社会派推理小説じゃなく人間を書かなければならない」という意味の激励を送られたというくだりが…