2004-10-01から1ヶ月間の記事一覧

お見事!

ここ一週間ばかり、私の読書生活ははっきりと二つの傾向に固着してしまっている。ひとつは、昨日(30日条)一昨日(29日条)および出張前の24日条に書いた山口瞳さんの流れ。いまひとつは、出張中に読んだ北村薫さんの『ミステリ十二か月』*1(中央公論新社…

名文を書かせる人

“ヤスlog”の10/27条(id:yasulog:20041027)に対するコメントとして、“読書日記@川崎追分町”のid:kokada_jnetさんが「山口正介は山口瞳について書くときだけ、名文なんですよ、残念ながら」と書いておられる。私は山口正介さんの著書は、そこでもあげられてい…

早くも『ミステリ十二か月』の影響

大学堂書店@本郷三丁目 ★横溝正史『夜歩く』(角川文庫) カバー、100円。カバーイラストは“横溝正史エンサイクロペディア”によれば最初期のバージョン。何ヶ月か前にこの角川横溝文庫のたぶんどれも最初期バージョンのものが大量に入っていたのに出くわし…

私小説とフィクションのはざまは暗闇

山口瞳『旦那の意見』(中公文庫、→10/23条)の、とりわけ「下駄と背広(私小説的田中角栄論)」を読み、いよいよ読むべきタイミングが到来したと、一冊の本が頭に浮かんできた。いまを逃せば、またいつになるかわからない。それは山口さんの長篇小説『家族…

質が高い京都のブックオフ

ブックオフ京都三条駅ビル店 ★殿山泰司『三文役者の無責任放言録』(角川文庫) カバー、200円。60年代前半に書かれたエッセイ集。こんな本が手に入るなんて嬉しー、と、その後数日幸せな気分に。 ★都筑道夫『びっくり博覧会』(集英社文庫) カバー、250円…

出張で読むべきでない本

4泊5日という比較的長めの出張で京都に行ってきた。いつものごとく持って行く本を選ぶため、ウキウキ気分で(私は帰省・出張に持って行く時の本選びが好きなのだ)数日前から積ん読本の山を崩したり、書棚のいつもは見ない場所を丹念に眺めたりしながら、3冊…

折り畳み傘不所持の論理

山口瞳さんのエッセイ集『旦那の意見』*1(中公文庫)を読み終えた。 ここにまとめられたエッセイ(山口さんは「随筆」とする)は、文壇デビューから15年ほどの間にいろいろなところに発表された文章を集めたものである。『男性自身』とほぼ並行しているとい…

点か線か面か

坂崎重盛さんの新著『TOKYO 老舗・古町・お忍び散歩』*1(朝日新聞社)を読み終えた。 朝日新聞夕刊連載中から愛読してはいたけれど、毎回これを目当てに夕刊を広げるというほど熱心に追いかけていたわけではない。まさかこの連載が単行本になるとは思っても…

書物をめぐる二つの指向

私の勤務する職場は多少特殊なところで、ごくふつうの刊本(洋装本)に加え、おびただしい数の古文書や和本などを所蔵している。常日頃と言ってしまうと古文書の場合語弊があるが、和本はほとんど毎日仕事で接して(めくって)いる。 それゆえ、そうした古文…

両高峰の共演

「映画女優 高峰秀子(2)」@東京国立近代美術館フィルムセンター 「子供の眼」(1956年、松竹大船) 川頭義郎監督/佐多稲子原作/高峰秀子/高峰三枝子/芥川比呂志/丹阿弥谷津子/笠智衆/大木実/滝花久子/設楽幸嗣 商事会社の係長(?)の男(芥川)は…

杉山茂丸・其日庵と杉山泰道・夢野久作

今日の朝日新聞朝刊に目を通していたら、文化欄に杉山其日庵(そのひあん)の『浄瑠璃素人講釈』が岩波文庫に入る*1ことについて、大きく取り上げられていた。この本について私は何も知らないのだけれど、文楽に詳しい書友ふじたさん(id:foujita)が前々から…

パリは書物でたくさんだ

先日10日に日本テレビ系で放送されたドラマ「あの日に帰りたい。―東京キャンティ物語」が面白かった。 麻布にあるイタリア料理店「キャンティ」を舞台とし、この店に中学生の頃から通ってデビューのきっかけをつかんだというユーミンを語り部に、文化の発信…

こんなに安くていいの?

アンダーグラウンド・ブック・カフェ(地下室の古書展)@東京古書会館 若手の古書店主さんたちが企画した新感覚の古書展第二弾。今回は初日に駆けつけることができた。購入したのはすべて西秋書店のブースからのみ。心が動いて本に手を伸ばし、売価を確認す…

「雁」から広がる拾い読み

映画を観終えてから、鴎外「雁」(ちくま文庫版『森鴎外全集4』所収、ISBN:4480029249)の残り半分を読み終えた。原作を読むと、映画がいかに原作のアウトラインを崩さずに登場人物一人一人をうまく活かしているかがわかる。お玉と岡田(高峰秀子・芥川比呂…

満席になった「雁」

「映画女優 高峰秀子(2)」@東京国立近代美術館フィルムセンター 「雁」(1953年、大映) 豊田四郎監督/森鴎外原作/高峰秀子/芥川比呂志/東野英治郎/宇野重吉/浦辺粂子/飯田蝶子/三宅邦子 この作品を観にゆくので、朝起きてから慌てて鴎外の原作(テ…

郷愁をさそう佐藤哲三

「[没後50年]佐藤哲三展」@東京ステーションギャラリー 新潟県長岡市に生まれ、没するまで郷里新潟を基盤に制作活動を続けた画家佐藤哲三(1910-1954)の名前は、洲之内徹さんの著作を読まなければ知ることはなかっただろう。洲之内さんに感謝するほかな…

食味エッセイストとしての吉田健一

角川春樹事務所から新しく「グルメ文庫」というシリーズが発刊され、その第一弾のなかに吉田健一『旨いものはうまい』*1(グルメ文庫)が入った。吉田健一の食味エッセイ集は、文庫に入ったものだけを数えればこれで6冊目だ。 『酒肴酒』(光文社文庫) 略称…

感想が書けない本

矢野誠一さんの文庫新刊『文人たちの寄席』*1(文春文庫)を読み終えた。本書については、先日書友ふじたさんが次のように書かれており(id:foujita:20041008)、深い共感をおぼえた。『文人たちの寄席』は白水社の元版を持っていて、西荻の音羽館で、こうい…

あの唄もこの唄も

次男が生まれて1年が過ぎた。彼が妻のお腹のなかにいるとき、もし女の子だったらと用意していた名前がある。いや、実は女の子の名前しか頭になく、男だと分かって慌てて名前を考えた。その名前とは「嫩」(ふたば)。義太夫狂言「熊谷陣屋」で有名な「一谷嫩…

最後の数頁で意図を知る

二日連続して種村季弘編『東京百話 天の巻』*1(ちくま文庫、→9/30条)がらみの話。同書を読み、はじめてその文章に触れ面白いと思ったのは、大宅壮一だった。同書に採られていたのは「円タク助手の一夜」という文章で、昭和4年『新潮』誌に発表されたもの。…

追憶の東京風俗詩

先日、種村季弘編『東京百話 天の巻』*1(ちくま文庫、→9/30条)を読んで「あっ」と驚いた。種村さんによる編者あとがき「野暮の効用」のなかに、こんな編集方針が述べられていたからだ。野暮でいこう、ときまった。いまさら知ったかぶりを気取ってもさまに…

坪内本中毒

坪内祐三さんの新著『まぼろしの大阪』*1(ぴあ)を読み終えた。 本書には、『ぴあ関西版』に足かけ3年連載されたコラム(現在も連載中とのこと)に加え、谷沢永一さん森村泰昌さんご両人と坪内さんの対談2本が収録されている。東京生まれの東京育ちで、大阪…

池波正太郎の日記を味わう

高校の頃「スター・ウォーズ ジェダイの復讐」が封切られ、夢中になった。スター・ウォーズ・ファンクラブなるものにも入会し*1、地元の映画館が組織した映画サークルにも入っていた。横溝映画三本立てを観切る体力もあった。 しかし「ジェダイ」旋風が過ぎ…

古書修復の愉しみ

大学堂書店@本郷三丁目 ★アニー・トレメル・ウィルコックス(市川恵理訳)『古書修復の愉しみ』(白水社) カバー・帯、1500円。9月に新刊で出たばかりで、買おうと思っているうちに古本で発見。多少高いので躊躇したけれど、定価が2400円だから、まあいい…

人生は楽しく美しい

「映画女優 高峰秀子(1)」@東京国立近代美術館フィルムセンター 「我が家は楽し」(1951年、松竹大船) ※二度目 中村登監督/田中澄江脚本/笠智衆/山田五十鈴/高峰秀子/岸惠子/佐田啓二/高堂国典 朝の時点では、いい映画だけれど一度観たことがあるし…

やっぱり涙が止まらない

重松清さんのいまのところ最新の短篇集『卒業』(新潮社)*1を読み終えた。帯の背の部分に「心が震える/家族小説の最高峰!」とあって、重松さんのこの手の小説に泣かされてきた私としては、目にしただけで性懲りもなく涙腺がゆるんでしまうフレーズなのだ…

小説としての種村漫遊記

先日読んだ種村季弘編『東京百話 天の巻』*1(ちくま文庫、→9/30条)のなかに、編者種村さんの文章がひとつ収録されていた。 それは「蝙蝠傘の使い方」という題名で、『好物漫遊記』*2(ちくま文庫)収録の一篇である。「まずいコーヒーの話ならいくらでも書…

子から見た名優・滝沢修

新刊注目本 ★滝沢荘一『名優・滝沢修と激動昭和』(新風舎文庫) 562円。著者は滝沢修の長男で、新聞記者を経て熊本大学で国際政治論を講じた方。子供の目からみた滝沢修の評伝というおもむき。

中年男と女子高生の物語

佐野洋さんの『兎の秘密―昔むかしミステリー』*1(講談社文庫、→9/25条)はそれにしても趣向を凝らした面白い連作短篇集だったなあと、本置き部屋に入ってこの文庫本が目に飛び込んでくるたびに思い返している。 お伽噺の翻案といえば、その先行作品として避…

ダブり本2冊

愛子開成堂書店 仙台駅から仙山線の快速に乗ると20分弱で愛子(あやし)駅に着く。かつては、仙台市内ではあるが、仙台の街というよりも山の中の作並温泉に近い雰囲気だったのだが、すっかり郊外住宅地化しつつある。愛子駅から旧国道48号線沿いに仙台方向に…