2005-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「らくだ」くらべ

ケーブルテレビとHDD/DVDレコーダーを導入して2週間も経っていないというのに、録りためたDVD-Rが十数枚に達し、この山が日ましに高くなっている。「こんなに録っていつ見るの?」という、およそ積ん読常習者の同居人とは思えぬ、だからこそ自覚的で意地の悪…

名古屋にとってのシャチホコ

井上章一さんの新著『名古屋と金シャチ』*1(NTT出版)を書店で目にしたとき、「おっ、ついに井上さんは名古屋に進出したか」と自然に頬がゆるんだ。 私はこの本の内容をどのように想像し、何を期待したかのか。『「あと一球っ!」の精神史―阪神ファンとして…

薄められた「お酒の文壇史」

思いがけず、「あの」吉行淳之介編『酒中日記』が中公文庫に入るという情報に接し、心が躍った。いまわざわざ「あの」としたのは、この本に因縁があるからだ。 かつて『BOOKISH』6号戸板康二特集*1で、わたしとふじたさん(id:foujita)が担当し、戸板さんの単…

商店街の横の路地には

世田谷美術館に行くため小田急線祖師谷大蔵駅で降り、改札口を出たら、またまた目の前にブックオフがあるではないか。やはり立ち寄らずにはいられない。ここでもまた単行本500円セールをやっていたので、目を皿のようにして棚をチェック。 ブックオフ祖師谷…

堀江敏幸の眼を追いかけて

「瀧口修造 夢の漂流物―同時代・前衛美術家たちの贈物1950s-1970s」@世田谷美術館 気になりつつも、積極的に見に行こうというつもりではなかった、というより、見送ろうと考えていたのだけれど、『芸術新潮』4月号*1に「堀江敏幸が選ぶ瀧口修造の19の夢」と…

巨人ファンである理由

奥田英朗さんの文庫新刊『野球の国』*1(光文社文庫)を読み終えた。奥田さんの本を読んだのは初めてだが、もっと前に読むチャンスがなかったわけではない。 昨年『空中ブランコ』が直木賞を受賞したとき、さまざまなメディアで紹介されるその内容に惹かれ、…

売文は賭けだ

わたしの属する職業的社会でも、原稿料は無縁というわけではない。ただし、一般的な学術雑誌(学会誌)に論文を書いても、原稿料をもらうことはまずない。例外は、その雑誌が学会の「自費出版」ではなく、出版社を通して発行されている場合で、こういう雑誌…

不安はいつでもつきまとう

黒井千次さんの連作短篇集『日の砦』*1(講談社)を読み終えた。本書はいまのところ黒井さんのもっとも新しい作品集である。去年8月に出た本だが、出たときから気になっていた。ならば新刊で買えばいいものを、タイミングを逸したこともあって、古本で気長に…

三島由紀夫の体内時計

ふしぎなもので、引用されている三島由紀夫の文章を目にすると、なぜか三島作品を読みたくなってくる。ただし引用はせめて旧かなづかいでなければならない。旧かなづかいでの、仮名の使い方(見ばえまで含めて)が読者に与える印象というものを三島は計算し…

梅酒はなるべく寝かせたい

このところ毎月のようにちくま文庫新刊に古本関係の本が含まれている。ちょっと前までは律儀に買いつづけていたけれど、このところもてあまし気味になりつつあるので、手にとっても躊躇するようになった。これは供給者側(筑摩書房)の問題でなく、あくまで…

紙一重の体験

大げさかもしれないけれど、生と死は紙一重だ、自分がこうして生きているのも偶然の積み重なりだと感じ、背筋が寒くなった体験がある。 私の勤務先のある大学キャンパスでは、台風や大雨といった悪天候に見舞われると、太い木の枝が落ち、キャンパス内の道路…

集英社文庫コバルトシリーズの収穫

古本市場保木間店 ★源氏鶏太『死神になった男』(角川文庫) カバー、100円。幽霊・妖怪物の短篇集。『別冊幻想文学6 日本幻想作家名鑑』の「源氏鶏太」項を見るとこの本が別立てて紹介されているから、それなりに評価のある短篇集ということだろう。 ★阿刀…

東京と映画への愛情

むかしの日本映画を見ていて「おっ」と思わず身を乗り出すように注目してしまうのは、出演者たちが織りなすドラマ(筋)ではなく、その背景となっている町並である。川本三郎さんの影響に違いないが、川本さんのように映画をたくさん見た果てに細部に注目す…

成城の古本屋とブックオフ

キヌタ文庫@成城学園 ★中古智・蓮實重彦『成瀬巳喜男の設計―美術監督は回想する』(筑摩書房) 上述。カバー、1500円。 ★庄野潤三『鉛筆印のトレーナー』(福武書店) カバー、200円。次男の長女にあたる「フーちゃん」との交流を中心に綴った長篇。近年の…

よみがえる横溝正史

「映画監督・成瀬巳喜男展」@世田谷文学館 「コレクションによる企画展 よみがえる横溝正史」@世田谷文学館 成瀬巳喜男展については上で触れたので、ここでは横溝展について。この展示は常設展の一スペースを使ってのもので、没後同館に寄贈された6000点も…

成瀬映画三昧に向けて

世田谷文学館で開催中の「映画監督・成瀬巳喜男展」を見てきた(4/10まで、一般300円)。成瀬家旧蔵の撮影台本や成瀬監督愛用の品々、映画スチール、美術監督中古智さんによる映画のセット図面などを中心とした興味深い展示だった。 初期から最後の作品「乱…

トリックスターの馬鹿囃子

今月の小学館文庫新刊の一冊、鈴木康允・酒井堅次『ベースボールと陸蒸気』*1は、副題に「日本で初めてカーブを投げた男・平岡熈」とあって、「おやっ」と思った。この平岡熈という名前、記憶の片隅にひっかかっていたからだ。 記憶の糸をたどってみると、去…

SFを読む資格なし?

瀬戸川猛資・北村薫両氏がそろって絶賛するSF長篇、J・P・ホーガン『星を継ぐもの』*1(池央耿訳、創元SF文庫)を、今回の3泊4日の出張の「課題図書」に決めた。毎度ながら出張は読書時間の確保がむずかしかったものの、物語の面白さに引っぱられ、読み終え…

第65 成瀬映画を訪ねて

今年は映画監督成瀬巳喜男の生誕100年にあたる。現在世田谷文学館で「成瀬巳喜男展」が開催中であるほか、作品上映などの企画もあるという。またCS放送の“日本映画専門チャンネル”では、全56作品を放映する予定とのこと。 小津安二郎生誕100年のときは現在の…

出張前に読むべきでない本

そもそも村上春樹『海辺のカフカ』(新潮文庫)を読んだことから始まったのだから、意図したわけではない。自分は謎をもつ小説が大好きなのだということにあらためて気づかされ、再確認する意味で、北村薫さんの『謎物語―あるいは物語の謎』*1(中公文庫)を…

気まぐれ度の大きさ

「画廊経営者による美術随想」という言葉だけ掲げ、この言葉を目にした人が抱くイメージの最大公約数があるとする。実際「画廊経営者による美術随想」と巷間認められている本がある。洲之内徹さんの『気まぐれ美術館』シリーズだ。しかしながら、冊を重ねる…

またしても北村本の誘惑

『海辺のカフカ』というある意味強烈な本を読んだせいか、次なる電車本を選ぼうとしたとき、はなはだしく迷った。続けて小説を読もうか、さすがに連続して小説を読むのは厳しいから、エッセイ集にしようか、エッセイを読むにしても、一篇が長めのものがいい…

役割として必然なもの

この週末、大学の恩師がめでたく定年を迎え開催された最終講義と記念パーティに出席するため、仙台に行った。いま私が口に糊している仕事の大先輩で、大学に入ってまもなく、学問の入り口のところで懇切な手ほどきを受けた。まだお若いと思っていた先生が定…

女性作家と夕刊フジ

地方に住んでいると、地元紙(私の郷里でいえば山形新聞)を購読しないかぎり夕刊という媒体になじみがない。東京に住んでわかったことだが、朝日・読売といった中央紙の場合夕刊の記事・情報は、按配されて翌日の朝刊に掲載される。 ましてや夕刊フジのよう…

素敵な日本語使い

堀江敏幸さんの待望の最新長篇『河岸忘日抄』*1(新潮社)が出た。発売日は2月25日とあったが、ちょうど前日の24日に大きな書店へ立ち寄る機会があったので、というより、大きな書店のある盛り場に出る機会があったので、わざわざそこの書店に立ち寄って、無…

伝統の相承

庄野潤三さんの『せきれい』*1(文春文庫、→1/23条)を読んで印象深いのは、老夫婦(庄野さん夫婦)の住む生田から離れ、南足柄の片田舎に住まう長女一家との交流である。もっと具体的に言えば、庄野さん夫婦と長女との物のやりとり(贈答)、および長女から…