2003-08-01から1ヶ月間の記事一覧

70年代的サブカルチャーの一齣

最近「名」編集者もしくは「名物」編集者の本(彼ら自身が書いたものおよび彼らのことについて書かれたもの)が多く出版されているように思われる。この現象はどう理解すればいいのだろうか。 現役編集者たちが立てた企画だろうから、彼らは先輩たちの足跡が…

映画評論の方法

買われてすぐ読まれる幸福な本があるいっぽうで、昨日の『海軍』のように二年間寝かされる本もある。読むタイミングを失すると積ん読の海の底に沈んで浮上のチャンスがなかなかめぐってこない本の何と多いことか。 次に何を読もうかと書棚を見回したとき、ふ…

起承転結獅子文六

獅子文六の『海軍』*1(中公文庫)を読み終えた。この作品もまた、これまで読んできた獅子作品の面白さから外れるものではなかった。電車本にしていたのだが、電車に乗っている時間が短く感じられたほど。 奥付を見て驚いた。刊行されたのが一昨年の8月だっ…

誘涙的読書

重松清さんの新作『哀愁的東京』*1(光文社)を読み終えた。 本書は連作短篇集と銘打たれ、一貫した筋立てと人物配置をもつ全9章(編)から成る。主人公進藤宏は40歳。フリーライターとして週刊誌の無署名記事などを執筆しながら口に糊している。妻と娘がい…

散歩と旅のあいだ

「散歩」と「旅」はどう違うか。明らかに違うことはわかっていても、では違いを明確に説明せよと言われると、はたと困ってしまう。散歩は日常、旅は非日常。これが端的な違いだろうか。 東京散歩の達人の場合、散歩という行為に倦んだとき、次にどのような段…

阪神は民族の心

昨日永井良和・橋爪紳也『南海ホークスがあったころ―野球ファンとパ・リーグの文化史』*1(紀伊國屋書店)に触れたなかで、その先駆的著書として、井上章一さんの『阪神タイガースの正体』*2(太田出版)をあげた。 この本が出たのは一昨年のこと。阪神ファ…

野球を「見る」面白さ

前々からの持論であるが、巨人ファンと天の邪鬼もしくはひねくれ者は両立しうる。その例が私自身である。 小学生の頃、男の子はほとんどプロ野球球団の帽子をかぶった。私の育った東北地方は巨人戦しか中継しない土地柄だし、デパートなどで売られている帽子…

句会への憧れふたたび

俳句から遠ざかってしばらく経つ。といっても俳句を作ろうという気持ちで燃え上がっていたのは去年春頃からのわずかの期間だから、「遠ざかる」などという言葉を使うのは間違いで、客観的に見れば去年春頃に一時的に俳句に近づいたというのが正しい。 でもふ…

三ヶ月だけ同時代人

『江戸っ子だってねえ―浪曲師廣澤虎造一代』『江戸前の男―春風亭柳朝一代記』(新潮文庫)の刊行後、著者の吉川潮さんは、「深川に住む五十代の男性読者」から「江戸っ子芸人三部作の最後に、深川生まれの三亀松はどうか」という手紙をもらった。これが『浮…

人間観察家としての戸板康二

戸板康二さんの『泣きどころ人物誌』*1(文春文庫)を読んだ。「泣きどころ」とは「弁慶の泣きどころ」の「泣きどころ」のことであり、弱味、ウィークポイントの謂いである。 「後記」によれば一回15枚のポルトレであり、「泣きどころ」という切り口でまとめ…

教養主義の没落

二日連続私の大学時代の話からで恐縮だが、私の世代はおそらく大学の「教養部」で一般教養科目を学んだ最末期の世代にあたる。 私の大学の場合、2年間教養部に在籍し、3年から各研究室に所属して専門教育を受けた。私が3年に進級してほどなく教養部は解体さ…

関西の没落

いまでこそ完全に払拭されたが、大学に入ったばかりの頃の私には“関西人(弁)アレルギー”のようなものがあった。 これまでの36年の人生のうち、山形で生まれ育ったのが18年、大学入学後仙台で暮らしたのが12年。つまり30年間東北で暮らしたわけだが、東北地…

面白率100%

獅子文六の小説はなぜことごとく面白いのだろう。『てんやわんや』『コーヒーと恋愛』『自由学校』の三作に加えて、今回読んだ『青春怪談』(新潮文庫)も期待を裏切らなかった。四分の四、いまのところ100パーセントの面白率である。 今回は本書を原作とす…

変わらないのはどちらか

山本夏彦さんの『日常茶飯事』*1(新潮文庫)を読み終えた。もと中公文庫に入っていたが、このほど鹿島茂さんの解説が付され新潮文庫で復刊された。本書は、1962年に刊行された山本さんの処女コラム集であるという。いまから実に40年以上前に出た本であるわ…