2004-09-01から1ヶ月間の記事一覧

東京の破片

堀切直人さんの『浅草』*1(栞書房、本書については別の場所で書く予定)を読み終えた直後2泊3日で京都出張に行ってきた。出張前にいつも迷うのが携えてゆく本のことだが、今回はあっさり決まったのである。種村季弘編『東京百話 天の巻』*2(ちくま文庫)が…

思い出し方の上手な人

ちくま文庫から井伏鱒二のエッセイ選集(全4巻)の刊行が開始された。第一回配本は『井伏鱒二文集1 思い出の人々』*1ということで、肉親、先輩や知友の思い出話についての文章が収められている。 読書に身を入れるようになった頃から、気がついたときに少し…

換骨奪胎の魔術師

佐野洋さんの作品は昨年から読み始め、いまやいっぱしの佐野ファンを自認している。このあたりの経緯は昨年の12/17条に書いているが、そのおり私は佐野さんを“連作短篇の魔術師”と呼んだ。 今回、新しく文庫に入った連作短篇集『兎の秘密―昔むかしミステリー…

新刊なのに古本

八重洲古書館 ★吉川潮『流行歌はやりうた―西條八十物語』(新潮社) カバー・帯、1100円。そういえば新刊で出ると聞いていたが、新刊書店で出会う前に古本屋で遭遇してしまった。奥付は9月25日。明日だぞ。いつ出たんだ? 装幀は平野甲賀さん。直後に観た「…

可愛い田中絹代

「映画女優 高峰秀子(1)」@東京国立近代美術館フィルムセンター 「花籠の歌」(1937年、松竹大船) 監督五所平之助/田中絹代/佐野周二/徳大寺伸/高峰秀子/河村黎吉/笠智衆 もともと観に行こうと思っていた一本だったが、先日高峰秀子さんの『わたしの…

驚いて、読む

いま洲之内徹さんの『セザンヌの塗り残し―気まぐれ美術館』(新潮社)を読んでいて、まだ読み終えていないのだけれど、このうちの一篇「前線停滞」を読みながら思わず「ええっ!」と驚きの声をあげてしまい、近くにいた妻から訝しがられてしまった。それは、…

セックス・コメディ

JR池袋駅構内の古本屋 ★都筑道夫『猫の目が変るように』(集英社文庫) カバー、200円。「セックス・コメディは、艶笑小説という意味ではない。セックスを通じて、男と女のあいだに起る喜劇である」(カバー裏に引用された「単行本あとがき」)、という短篇…

池袋モンパルナスの香り

「小熊秀雄と画家たちの青春―池袋モンパルナス―」@練馬区立美術館 過日書友ふじたさん(id:foujita)とメールを交わしたとき、現在練馬区立美術館にて上の特別展があることを教えていただいた。いや、「教えていただいた」というのは正確ではない、「意識しな…

第60 池内紀を読んで練馬に行こう

練馬区立美術館で開催中の特別展「小熊秀雄と画家たちの青春」展を観に行こうと思い立ち(詳しくは下記参照)、同美術館のある中村橋付近でほかに見るべき、歩くべき場所はないかと地図を開いたところ、すぐ北側に豊島園を見つけた。もっともそれ以上に気に…

精興社と活版印刷

一目見て他と区別できる独自の風格ある印刷書体で、本好きなら嫌いな人はいないだろうと思われる印刷会社精興社は、東京都八王子市にある。活版印刷は平成7年(1995)でもって廃止されたものの、その独特の「精興社書体」は写植文字に移され、いまなお群を抜…

小沼丹全集補巻発売!

美術館を出て、竹橋から歩いて神保町まで。久しぶりに東京堂書店に立ち寄る。『小沼丹全集』全四巻が完結していた。第四巻に挟み込まれていたリーフレットによれば、全集に漏れた長篇『風光る丘』は同じ版元(未知谷)から単行本として刊行され、また、同じ…

RIMPA展

RIMPA展@東京国立近代美術館 「今度の琳派は違う」という触れ込みで、クリムトやルドン、ウォーホルまでの作品を位置づけようとする意欲的な企画。とはいえ私はそもそも琳派なるものがどういう特徴を持つのかわかっていないので、純粋に展示された作品を観…

装幀再認識

臼田捷治さんの新書新刊『装幀列伝―本を設計する仕事人たち』*1(平凡社新書)を読み終えた。 メインサイトの購入本・読了本リストに装幀者の項目も入れているように、私はこれまで本の装幀や印刷を含めた造本というものについては関心を持ってきたし、気を…

型の魅力

歌舞伎とはつくづく不思議な演劇だと思う。ある演目を一回観てそれでおしまいということにはならないからだ。現代の人間ゆえ一回観ても話をすぐに理解できないという基本的素養の問題は無視しても、観れば観るほど理解が深まり面白味が増す。それがたとえ同…

暦の底で光る東京の思い出を探しに

水上勉さんがお亡くなりになった。ご冥福をお祈りしたい。先日の種村季弘さんほどではないけれども、名前を多少なりとも知る方が亡くなられるのはショックである。 とはいえ私は、水上作品は直木賞を受賞した「雁の寺」をはじめとする「雁」四部作しか読んで…

ウキウキ晴れ晴れ

「映画女優 高峰秀子(1)」@東京国立近代美術館フィルムセンター 「銀座カンカン娘」(1949年、新東宝) ※二度目 監督島耕二/高峰秀子/灰田勝彦/笠置シヅ子/古今亭志ん生/岸井明/服部早苗/浦辺粂子 「銀座カンカン娘」は今年1月にラピュタ阿佐ヶ谷で…

言論統制の虚説

「〈書評〉のメルマガ」に書かせてもらっている「読まずにホメる」は、読んで字のごとく対象の本を「読まず」に評するという大胆不敵な試みである。そのため、著者の他の著書や関連文献、その本との出会いといった外郭的な情報を総動員することはもちろん、…

『グリーン車の子供』と戸板ミステリ

戸板康二さんの『グリーン車の子供』*1(講談社文庫)をようやく読み終えた。そう、「ようやく」という言葉がふさわしいほど、読もうと思いつつ未読のままでいた本なのだった。「読み惜しみ」の極致のような本だ。 本書は中村雅楽物のミステリ短篇集として、…

マイ・高峰秀子・ブーム

現在東京国立近代美術館フィルムセンターにて、高峰秀子さん出演映画の特集上映「映画女優 高峰秀子」をやっている。これらの映画を観るからには、高峰さんの自伝『わたしの渡世日記』が気にかかっていた。だから先日偶然、荻窪のささま書店で同書の元版上下…

緑風荘という文化発信源

柳原一日いちひさんの『文士の素顔―緑風閣の一日いちじつ』*1(講談社)を読み終えた。 奥付の著者紹介によれば、著者柳原さんは「日本版ロマンス小説の旗手」なのだそうだ。寡聞にして知らなかったが、“ロマンス小説”とはハーレクイン系と理解してよいのだ…

俳句(の本)をたのしむ

古本屋で、それまで存在すらまったく知らなかった本が何かの拍子に目に入り、「あ、面白そうだ」と買ってみる。読むとやはり面白く、「ああ、買ってよかった」「大当たり」と胸をはってわが“選書眼”を自慢したくなる。そんな出会いが年に数回もあれば、本好…

飽きない地図眺め

私は地図を見ることは嫌いではない。こんな歯切れの悪い書き方をしたのは、大好きだと書くほどしょっちゅう見ているわけではなく、マニアと言うほど蒐集を趣味としているわけではないからだ。たまに何かのついでに地図を見ると、そのまましばし飽かずに眺め…

期待しすぎて

「映画女優 高峰秀子(1)」@東京国立近代美術館フィルムセンター 「孫悟空(前篇・後篇)」(1940年、東宝映画東京) 監督山本嘉次郎/榎本健一/岸井明/金井俊夫/柳田貞一/高勢実乗/中村是好/如月寛多/三益愛子/清川虹子/高峰秀子/中村メイ子/徳…

美術館を見ること

美術館とは、言うまでもなく絵画・美術品を収蔵・公開する施設である。もっともたんに古今東西の名品を蒐集し、訪れる人に見せるだけでは、最低条件すら満たしていない。藤森照信さんは、美術館の本質についてこんなことを書いている。美術館は建物と展示品…

郷土再発見の書

先日池内紀さんの『となりのカフカ』(光文社新書、→9/1条)を読んだが、極限まで刈り込んだ簡潔さと奇跡的に共存する池内さん独特の表現豊かな文体の中毒症にかかってしまったらしく、読んでも満腹感はおとずれなかった。そこでわが書棚の“池内コーナー”を…

信頼すべき評伝作家

その人が書いた本ならば内容は問わず必ず買うという著者が何人かいる。書くものによほどの信頼を寄せているからで、だからそうそうたくさんいるわけではない。そのなかの一人が矢野誠一さんである。私の関心とは多少離れるテーマの著書もあるのだが、読まず…

タイミングよく『わたしの渡世日記』

ブックオフ阿佐ヶ谷南店 ★都筑道夫『退職刑事4』『退職刑事5』(創元推理文庫) これで同シリーズ創元推理文庫版は揃った。カバー、各350円。 ★中村真一郎『俳句のたのしみ』(新潮文庫) カバー、250円。俳句についてのエッセイを集めたもの。「柴田宵曲の…

森繁哀し

「この監督、この一本。〈後期〉」@ラピュタ阿佐ヶ谷 「渡り鳥いつ帰る」(1955年、東京映画) 監督久松静児/原作永井荷風/構成久保田万太郎/美術監督伊藤熹朔/田中絹代/森繁久彌/高峰秀子/久慈あさみ/水戸光子/淡路恵子/岡田茉莉子/桂木洋子/…

追憶のタネラムネラな日々【1991年前半編】

90年にひきつづき、91年に入っても種村熱は醒める気配がない。初出誌調査やそのコピーなど、むしろヒートアップしている。 1991年1月6日 種村季弘『謎のカスパール・ハウザー』読了。このような不可解な謎が錯綜し、それを一つ一つ解いていく読み物ははまっ…

追憶のタネラムネラな日々【1990年編】

種村季弘さんの訃報を2日に知った。8月29日に亡くなられたとのこと。知ったときには頭が真っ白になった。種村さんは澁澤龍彦と並んで、いまの私の読書の関心を決定的に方向づけた著述家の一人である。この人の本を読んでいなければ、いまの私はない。 メイン…