読前読後
年齢のせいもあるし、それにともなう立場の変化もあって、以前のようにゆっくり本を読む時間がなく読む本が減り、ましてや読んだ本について、感じたことを文章にまとめる時間もなかなかとれなくなって困ってしまう。せいぜい140字のつぶやきで本を買ったこと…
(2002年9月2日に書いた記事の再掲)冨田均さんによる新宿末広亭席主北村銀太郎さんの聞書き『続 聞書き・寄席末広亭』(平凡社ライブラリー)の面白さついては先日書いた(8/24条)。これを読んでさらに興味をそそられていた事柄に、北村さんと吉本興業東京…
今年の3/9条にて、三世澤村田之助が主人公ないし登場人物として登場する小説をあげ、これらを「三世澤村田之助小説」とくくってみた。 幕末明治期に美貌の女形として若い頃から立女形として活躍し、将来を嘱望されていたにもかかわらず、脱疽で両足や手を切…
吉田健一は「好きな作家」というより、「好きになりたいと思っている作家」でありつづけているといったほうがよかろう。「好きな作家」と胸を張って言える自信がないからだ。一度書いた本に『時間』の一節を引用したことがあるけれど、中味を正確に理解して…
正木香子さんの『文字の食卓』*1(本の雑誌社)は、文字好きにとってこのうえなく素敵な本であった。だから、本好きのうえに文字好きだろうと踏んだ同僚にも薦めた。 期待どおりそれを面白く読んでくださったようで、今度は逆に、正木さんの新著が出たことを…
舟橋聖一の『芸者小夏』*1(講談社文芸文庫)を読み終えた。 実はこの作品が原作となった映画をかねがね観たいと思っていて、長いあいだ果たせないでいたが、日本映画専門チャンネルで放映していることを知って慌てて録画し、どうせ観るのならその前に原作を…
9月中旬に読んだ本。 筒井康隆編『異形の白昼 恐怖小説集』*1(ちくま文庫)。 アンソロジストとしての筒井さんの見識の高さが発揮された一冊。巻末の筒井さんによる「解説・編輯後記」を早く読みたくて本篇を読んだという本末転倒の気味があった。全篇すば…
この9月上旬に読んだ本。 伊坂幸太郎さんの『終末のフール』*1(集英社文庫)。 子供の頃、人は死んだらどうなるのだろうと考えていたら眠れなくなったとはよく聞く話である。わたしもそうだった。しかも今もってときどきそういうことが頭から離れなくなって…
ここ一、二週間で読んだ本。 新海均『カッパ・ブックスの時代』*1(河出ブックス)。光文社を代表するシリーズだったカッパ・ブックスが神吉晴夫の手によっていかに生み出されてきたのか、どんなふうにベストセラーが企画されたのか、ワクワクさせられるよう…
島田荘司さんの『改訂完全版 占星術殺人事件』*1(講談社文庫)を読み終えた。本作は、昨年刊行された週刊文春臨時増刊『東西ミステリーベスト100』において、日本作品の第3位にランクされた。1985年のときは21位だったという。まあそれもそのはず、このとき…
読んだことの痕跡を残しておかないと、あとで自分が困ってしまう。この間4冊の本を読んだ。 まず、筒井康隆さんの『偽文士日碌』*1(角川書店)。学生の頃、『日日不穏』などの日記を爆笑しながら読んだ身にとって、そういう記憶を思い起こさせてくれる本だ…
サザンオールスターズが結成35周年を迎え、活動を再開したのは、サザンファンとして嬉しい知らせだった。三井住友銀行のコマーシャルに流れた「栄光の男」を聴いたとき、胸がじいんと熱くなった。 彼らがデビューした35年前、1978年、わたしは小学校五年生だ…
読み終えたまま記録を残さないと、そのうちに内容を忘れ、読んだこと、買ったことすら忘れかねない年齢になってきた。あまり時間が経たないうちに簡単に感想だけ書こうと思う。 まず伊坂幸太郎さんの『バイバイ、ブラックバード』*1(双葉文庫)。この本は、…
鮎川哲也さんの長篇『宛先不明』*1(光文社文庫)を新刊で買っていたにもかかわらず、ブックオフで先日うっかりダブりで買ってしまった。文庫に入ったのは2010年7月だから約3年前。そのくらい経てば忘れるのもやむを得ないかもしれないけれど、そもそも買っ…
東雅夫編『百間怪異小品集 百鬼園百物語』*1(平凡社ライブラリー)を読み終えた。 内田百間はアンソロジーに適合的な作家である。まず一篇一篇が長くない。短いながらもまとまっている。幻想的な小品からユーモアに満ちた随筆、都会の隙間にひそむ妖異から…
ナサニエル・ウェスト(丸谷才一訳)『孤独な娘』*1(岩波文庫)を読み終えた。 翻訳小説はとんと弱く、その第一の理由は外国人の名前がおぼえられない。だからほとんど読まない。それでも若い頃は何とかカタカナ書きになっている人の名前も頭に入ってきた。…
鮎川哲也さんの『憎悪の化石』*1(角川文庫)を読み終えた。本書は、『黒い白鳥』*2(創元推理文庫)とともに日本探偵作家クラブ賞を受賞したということで、その意味ではこの二作がおなじ年(1959年)に書かれたのは奇跡的である。 容疑者のアリバイを自らの…
結局先の週末の外出では、読もうと思っていた堀江敏幸さんの『象が踏んでも 回送電車4』を持っていくにはおよばなかった。電車本として読んでいた鮎川哲也さんの『憎悪の化石』*1が途中であり、そのうえ出かける前日に購入した関川夏央さんの『昭和三十年代…
不思議なもので、読んだ本の感想を久しぶりにこのブログに書いてみようと思い立った。読んだのは、堀江敏幸さんの『アイロンと朝の詩人』*1(中公文庫)である。 電車でこの文庫本を読みながら、読んだことを憶えているものと、さっぱり忘れていて初読のよう…
今年は新田次郎生誕100年だという。新田次郎は、明治45年(大正元=1912)6月6日、長野県上諏訪町に生まれた。 書店に新潮文庫の新刊が並んでおり、まず目に入ったのは、『小説に書けなかった自伝』*1だった。手に取ってパラパラとめくり、少し心が動いたも…
堀江敏幸さんの新作『燃焼のための習作』*1(講談社)を読み終えた。 大好きな長篇『河岸忘日抄』と対になる作品らしいということで、初出掲載誌である『群像』2012年1月号を買ってまで読もうとしたのだが、途中で頓挫したまま単行本の発売を迎えてしまった…
原田マハさんの長篇小説『楽園のカンヴァス』*1(新潮社)が、画家アンリ・ルソーをめぐるミステリであるということを知ったとき、頭に浮かんだのは、仏文学者岡谷公二さんによるルソーの評伝『アンリ・ルソー 楽園の謎』*2(中公文庫)のことだった。 手も…
地方都市から上京してまず驚くのが、異常に発達している鉄道網である。とりわけ地下鉄。ある路線から別の路線へ乗り換えるという“高等技術”を使うことに尻込みして、東京駅の地下道を使って大手町駅まで歩いていったことがあった。あれは何線に乗ろうとした…
先日千葉市美術館に曾我蕭白展を観に行った帰り、妻と展覧会の会場に座っている監視員の人の仕事について雑談になった。 ―あの人たちはただ座って監視するだけが仕事なのか。 ―そうではなかろう。何か質問されたときには答えなければならないだろうから。 ―…
昨年の年末、書友の同僚とこの一年に読んだ本のベスト談義をしたとき、書友があげた本が、三浦しをんさんの『舟を編む』*1(光文社)だった。辞書編纂の話であるということで少し心が動いたはずだけれど、結局そこから一歩踏み出さないまま年を越し、桜の季…
拙著『記憶の歴史学 史料に見る戦国』*1(講談社選書メチエ)では、「日記に書かれなかったこと」をめぐって、それを別の視点から明らかにできる証言を取り上げ、考えてみた。 具体的に触れたのは、『古川ロッパ昭和日記』であった。正岡容の通夜の席上、ロ…
野口冨士男さんの『わが荷風』*1(岩波現代文庫)を読み終えた。講談社文芸文庫版が出たときに読んで以来(→2002/12/17条)、9年半ぶりの再読である。やはり面白い。 初読のときに書いた感想はわれながら上出来だったとあとあとまで思っていて、その記憶も強…
川本三郎さんの『君のいない食卓』*1(新潮社)を読み終えた。昨年11月に出たときすぐ買ってはいたのだけれど、これに先行する“亡妻記”(川本さんご自身『君のいない食卓』のあとがきにてそう称しているので、失礼ではないだろう)『いまも、君を想う』*2(…
出張の夜、学生時代の飲み会ではいつも二次会に立ち寄っていた飲み屋にて、恩師・先輩と飲み、別れたあとはホテルまでまっすぐ戻らず、わざと人通りの多い道を遠回りして帰った。変わってしまった仙台の町をたしかめたいということもあった。 広瀬通と東二番…
堀江敏幸さんの新刊書評集『振り子で言葉を探るように』*1(毎日新聞社)に収められた小沼丹作品の書評を読んでいたら、猛烈に小沼さんの小説を読みたくなった。それは「幸せな不意打ち」と題された『風光る丘』評のこんなくだりである。あちこちで笑いをと…