2006-01-01から1年間の記事一覧

年末の嬉しい贈り物

年の瀬も近くなって、待望の新刊が出た。川本三郎さんの『芸術新潮』誌連載をまとめた『言葉のなかに風景が立ち上がる』*1(新潮社)である。 連載時は書店で雑誌を立ち読みし、その連載部分にちらりと目を通すだけで、読むのは本になってからと我慢した。も…

深窓の令嬢芦川いづみ

衛星映画劇場@NHK-BS2(録画DVD) 「あじさいの歌」(1960年、日活) 監督滝沢英輔/原作石坂洋二郎/脚本池田一朗/石原裕次郎/芦川いづみ/東野英治郎/轟夕起子/大坂志郎/中原早苗/北林谷栄/殿山泰司/小高雄二

モダン横溝作品への期待

市川崑監督による「犬神家の一族」のセルフリメイクにより、横溝正史リバイバルの気運が盛り上がってきたようである。関連する書籍の新刊・復刊が目につく。 先日岩波ホールで映画を観るため神保町に立ち寄ったさい、東京堂書店で扶桑社文庫「昭和ミステリ秘…

リアルタイム感を得るために

先日観た「犬神家の一族」に対する評言が何となく辛口になっているのは、ちょうど読んでいた小林信彦さんの新著『映画が目にしみる』*1(文藝春秋)のせいかもしれない。本書のなかで展開される小林さんの歯に衣着せぬ映画(や演劇、書物)への鋭い論評を読…

房総に集う女たち

岩波ホール 「赤い鯨と白い蛇」(2006年、ティー・オー・ピー/東北新社) 監督せんぼんよしこ/脚本冨川元文/香川京子/樹木希林/浅田美代子/宮地真緒/坂野真理 朝から絶え間なく強い雨が降り続く悪天候のなか、仕事帰り職場から神保町に出る。岩波ホー…

野球小説の奥深さ

小山清『小さな町』*1(みすず書房)に触れて、読みさしのまま感想が書けない本が今年は多いと嘆いた。読みさしどころか、読み終えているのに感想を書こうと思いつつ着手できずに時間が経ち、内容を忘れてしまった本が何冊かある。 これまでは、読んでもあま…

クリスマスイブに犬神家

楽天地シネマズ錦糸町 「犬神家の一族」(2006年、2006「犬神家の一族」製作委員会・東宝) 監督市川崑/原作横溝正史/脚本長田紀生・日高真也・市川崑/石坂浩二/富司純子/松坂慶子/萬田久子/松嶋菜々子/尾上菊之助/中村敦夫/葛山信吾/池内万作/…

庄野潤三と小津映画

出張という俗世間を離れることができる機会(もっとも公務だから俗世間とは完全に無縁ではない)になると、そんな状況にぴったりの、心落ち着かせる、澄明な気分になることができる本を読みたくなるらしい。そんなとき選ぼうという気になるのがみすず書房の…

〝渡し船〟に乗って対岸の明治へ

現実社会があわただしくなるほど、近過去が、のどやかな時代に思えてくる。小春日和の温かさが感じられてくる。なんだか先日読んだ布施克彦さんの『昭和33年』*1(ちくま新書)に対する批判めいた一節だが、川本三郎さんの書いた文章から引用した。どうせだ…

墓地でデート

原作 三島由紀夫の世界@日本映画専門チャンネル(録画HDD) 「複雑な彼」(1966年、大映) 監督島耕二/原作三島由紀夫/脚本長谷川公之/田宮二郎/高毬子/佐野周二/中村伸郎/若山弦蔵/滝瑛子/渚まゆみ/イーデス・ハンソン 三島由紀夫の原作を読んだ…

子供使いの名人

小津安二郎特集@NHK-BS2(録画DVD) 「麦秋」(1951年、松竹) 監督小津安二郎/原節子/笠智衆/三宅邦子/菅井一郎/東山千栄子/二本柳寛/杉村春子/淡島千景/佐野周二/井川邦子/高橋豊子/宮口精二 やっぱり小津作品は面白い。皮肉ではなく、行き遅…

旧作日本映画贔屓継続宣言

監督市川崑の映画たち@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「愛人」(1953年、東宝) 監督市川崑/原作森本薫/脚本和田夏十・井手俊郎/菅井一郎/越路吹雪/三國連太郎/尾棹一浩/有馬稲子/岡田茉莉子/伊藤雄之助/沢村貞子/石田美津子/塩澤登代路 …

現在としての昭和33年、過去としての昭和33年

ちくま新書新刊のなかに、布施克彦『昭和33年』*1という本を見つけたので食指が動き、買ってさっそく一読した。簡単に結論を言えば、括弧つきの「期待はずれ」ということになる。期待はずれで面白くなかったという意味ではない。わたしの期待の寄せ方がおか…

ランキングに目を凝らせば

ランキングというものにたいていの人は関心を持つものなのだろうか。あるいは個性によりけりで、まったく関心を持たない人もいるのだろうか。もちろん、何を対象としたランキングなのかということも重要だろう。自分が関心を持っている分野について、ランキ…

二日連続新文芸坐

和田誠が「もう一度観たいのになかなかチャンスがない」と言っている日本映画@新文芸坐 「100発100中」(1965年、東宝) 監督福田純/脚本都筑道夫・岡本喜八/宝田明/浜美枝/有島一郎/平田昭彦/多々良純/マイク・ダニーン/堺左千夫/草川直也 妻のテ…

和田・三谷コンビで酒気を抜け

案の定前夜の忘年会では度を超して呑んでしまった。もとより気の合う仲間と久しぶりの飲み会ということもあり、これまで同様ガバガバと呑むことになるのは予想できたし、実際すこぶる愉しかったので、そのとおりガバガバ呑んでしまった。 本当は心もちセーブ…

不思議な物語との遭遇

いしいしんじさんの文庫新刊『東京夜話』*1(新潮文庫)を読み終えた。 たまたま新潮文庫の新刊コーナーを見ていたら本書、とりわけタイトルが目に止まり、手に取った。目次を見ると下北沢・原宿・上野谷中・新宿西口新都心・神保町・築地などの東京の町の名…

誰が狂っているのか

監督市川崑の映画たち@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「満員電車」(1957年、大映) 監督市川崑/脚本和田夏十・市川崑/助監督増村保造/川口浩/笠智衆/杉村春子/小野道子/船越英二/川崎敬三/潮万太郎/見明凡太郎/山茶花究/浜村純 この作品…

続篇も録っておくべきだった

市川雷蔵現代劇全仕事@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「陸軍中野学校」(1966年、大映) 監督増村保造/脚本星川清司/市川雷蔵/小川真由美/加東大介/待田京介/村瀬幸子/E・H・エリック/早川雄三 市川雷蔵主演の「陸軍中野学校」シリーズは全5作…

鉄道忌避伝説あれこれ

秋田県とわが山形県はもともと出羽国というひとつの行政単位だった。近代になって羽前(山形)・羽後(秋田)と分かれ、現在につながる。 このあいだ秋田を訪れ、初めて佐竹氏の居城久保田城跡(現千秋公園)に行ったとき、感じたことがある。秋田駅からの近…

40年前のスキージャンプ

日活名画館・石原裕次郎シアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「白銀城の対決」(1960年、日活) 監督斎藤武市/石原裕次郎/北原三枝/長門裕之/大坂志郎/金子信雄/中原早苗/白木マリ/高品格/内田良平/近藤宏 城北大学スキー部のライバル同士だった…

まず街があり映画館があり…

東京創元社の創元ライブラリとして刊行されていた文庫版『中井英夫全集』が、このあいだ出た第12巻『月蝕領映画館』*1をもって完結した。当初全10巻・別巻1の11冊予定が一冊増えた。 いま書棚に並んでいる第一回配本の第3巻『とらんぷ譚』の奥付を見ると1996…

シネコン初体験で泣く

MOVIX亀有 「椿山課長の七日間」(2006年、「椿山課長の七日間」フィルムパートナーズ・松竹) 監督河野圭太/原作浅田次郎/脚本川口晴/西田敏行/伊東美咲/成宮寛貴/和久井映美/國村隼/志田未来/須賀健太/余貴美子/桂小金治/市毛良枝/渡辺典子/…

平日昼間でも大行列

生誕100年記念 ダリ回顧展@上野の森美術館 国立公文書館に行って私的な目的で調べ物をしなければならなくなった。年休も余っているし、せっかくだから休暇を取り、調べ物が終わったあと懸案を達成しようと思いつく。美術館めぐりである。そんなふうに目論ん…

「女流」好き嫌い

先日林芙美子の長篇『茶色の眼』(講談社文芸文庫、→11/20条)を読んだことで、また林芙美子に対する関心が沸きあがってきた。 そこで、新刊で買ってからそのままになっていた、関川夏央さんの『女流 林芙美子と有吉佐和子』*1(集英社)を読むことにした。…

誰が誰に向かって石を

名画 the NIPPON@チャンネルNECO(録画DVD) 「恋文」(1953年、新東宝) 監督・出演田中絹代/原作丹羽文雄/脚本木下恵介/森雅之/久我美子/宇野重吉/道三重三/香川京子/関千恵子/中北千枝子/安西郷子/沢村貞子/月丘夢路/花井蘭子/夏川静江/…

親であることの哀しみ

北上次郎さんの文庫新刊『感情の法則』*1(幻冬舎文庫)を読み終えた。本書は名著『活字学級』*2(目黒考二名義、角川文庫、→2003/7/14条)の系譜を引くエッセイ集で、これまた名著と言うべき内容だった。 翻訳小説を読みながら、ストーリーの流れとは別の、…

パリ空間時間旅行小説の悦楽

鹿島茂さんの最新長篇『パリでひとりぼっち』*1(講談社)を読み終えた。最新長篇と言っても鹿島さんは小説家ではないから、これが『妖人白山伯』(講談社、→旧読前読後2002/6/23条)に次いで二作目の長篇のはずだ。 発売されたことを知ってから、すぐにでも…

トリッキイな海洋映画

日活名画館 リクエストシアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「俺の血が騒ぐ」(1961年、日活) 監督山崎徳次郎/脚本池田一朗・長谷部安春・加藤新二/赤木圭一郎/沢本忠雄/小沢栄太郎/葉山良二/安部徹/南田洋子/笹森礼子/高品格 つくづく映画とは導…

乱歩・久作・正史と竹中英太郎

生誕百年記念竹中英太郎と妖しの挿し絵展@弥生美術館 昼休みを利用して行ってきた。 竹中英太郎といえば、江戸川乱歩作品の挿絵である。とりわけ「陰獣」。霧が立ちこめたような幻影から輪郭が浮き上がる。紙の凹凸を炭によって強調させた手法が素晴らしい…