トリッキイな海洋映画

「俺の血が騒ぐ」(1961年、日活)
監督山崎徳次郎/脚本池田一朗長谷部安春加藤新二/赤木圭一郎/沢本忠雄/小沢栄太郎/葉山良二/安部徹/南田洋子/笹森礼子高品格

つくづく映画とは導入部が大事だと思った。
商船大学の卒業航海中の船が、漂泊船を発見する。信号を送っても返事がないので調査のためその船に乗り込むと、操舵室で二人の男の死体を発見する。慌てて本船にそのむね連絡したあと戻ると、その死体が消え失せていた…。
不思議がる教官たちが次に見つけたのは、船内で茫然と立っている沢本忠雄の姿。彼は卒業航海の学生であり、一緒に調査で乗り込んだが、聞くと一人で別の場所を探していたと答える。彼らが演習船に戻ったあと、調査したばかりの漂泊船が突然爆発炎上し、沈没してしまう…。俺の血が騒ぐ [DVD]
こんなとびきりの謎が導入部。その謎に魅惑されて、タイトル直後の場面にしかけられた大きなトリックを見逃してしまうのだった。渡辺武信さんは『日活アクションの華麗な世界』*1未来社)のなかであっさりとしかけを明かしているが、たんにわたしが愚かにも気づかなかっただけで、観る人は承知していたのだろうか。たしかに「あれ?」と思うのだが、そのまま通り過ぎてしまうのである。
主人公の赤木圭一郎は、船長をしていた父親が眉間を拳銃で撃ち抜かれて殺害されたことを憎み、その復讐をすべく犯人捜しをする青年。この腕利きの犯人が誰かというのが、この映画のいまひとつの謎である。途中で「ははあ、この人か…」と気づき、ズバリ当たるのだが、これもまた魅力。
赤木と葉山良二が南田洋子が経営するバーで意気投合し、そこから幻想的な嵐の航海シーンに入るあたりが、いかにも映画的で面白い。渡辺さんは「この転換の呼吸は鮮やか」(前掲書200頁)と褒めあげる。
冒頭の謎がラストになって明かされ、なるほどと感心させられたまま映画は終わる。この謎(とその解明)の見せ方も、映画でなければできない手法だ。
渡辺さんは終始この映画には好意的で、冒頭については「申し分なくミステリアスな雰囲気を発散する開巻」とし、全体としては「海洋ミステリーの佳作として記憶に値する一篇だった」と絶賛する。
映画を観て「なかなか面白いじゃないの」と満足し、渡辺さんの本を開くと、やはり渡辺さんも高評価を与えているから、評価の一致にまた満足したのであった。