2003-04-01から1ヶ月間の記事一覧

小林信彦的批評に仕込まれた麻薬

小林信彦さんが『週刊文春』に連載しているエッセイ「人生は五十一から」のうち、昨年分をまとめた『にっちもさっちも』*1(文藝春秋)が刊行された。昨日購入して読みはじめたら面白く、一気に読んでしまった。「GWは積ん読本を読んでいこう」と言う決意…

お腹いっぱいの歌舞伎案内

先日の散財で、このゴールデンウィークの過ごし方に変更を余儀なくされた。外出をひかえ、家にある積ん読本読書をしよう。ということでさっそく読み終えたのは、渡辺保さんの『歌舞伎ナビ』*1(マガジンハウス)だ。 帯裏には「あらすじと見どころがバッチリ…

今度は親分肌の典型

テレビドラマ「真珠夫人」によって菊池寛は復活をとげた。原作を購入したものの読んでいないから偉そうなことは言えないけれど、こうなると菊池寛という作家個人への興味がわいてくるのは当然だろう。矢崎泰久さんの新著『口きかん―わが心の菊池寛』*1(飛鳥…

46 阿佐ヶ谷散財編

阿佐ヶ谷の小さな映画館ラピュタ阿佐ヶ谷にて、現在「昭和の銀幕に輝くヒロイン」シリーズの第九弾として、高峰秀子スペシャルを上映中である。今日から「稲妻」の上映が開始されたので観に行った。林芙美子原作、成瀬巳喜男監督の名編である。 ラピュタ阿佐…

お屋敷の見方

河出書房新社のビジュアル本「らんぷの本」シリーズの新刊で出た『お屋敷拝見』*1(内田青蔵・文、小野吉彦・写真)を読み終えた。 本書で取り上げられている「お屋敷」は、コンドル設計の旧岩崎久弥邸・旧島津忠重邸・旧古河虎之助邸、宮家の住まいとして旧…

空虚に実体を盛り込む

電車の中では比較的軽めで一篇が短めのエッセイや小説を読む。対して家では内容的にも物質的にも重みのある単行本や文庫本を読むという「読み分け」をしている。 最近家での読書に、単行本や堅めの文庫と並行して新書も読むようになった。これはむろん坪内祐…

山田稔の目線

山田稔さんの短篇集『リサ伯母さん』*1(編集工房ノア)を読み終えた。 ずっと以前に読んだ『スカトロジア』(福武文庫)を除けば、昨年末に読んだ『コーマルタン界隈』(みすず書房、感想は2002/12/10条)、今年に入って読んだ『特別な一日』(平凡社ライブ…

子分肌の逆襲

先日日本テレビ系のバラエティ番組「行列のできる法律相談所」を見ていたら、司会の島田紳助が、ゲストで出ていた野々村真を「日本一の子分肌」と呼んでいた。親分肌という言葉はあるけれども、その逆の意味での「子分肌」という言葉は島田紳助の造語だろう…

一片の紙片から広がる世界

少年時代誰でも一度ははまる蒐集趣味として切手集めがある。私も例に漏れず小学校中・高学年の頃切手蒐集に情熱を燃やしていた。 私が切手に興味を持っていることを知った母が、自分が細々と続けていたコレクションを譲渡してくれ、それを引き継いだのである…

怒濤の鹿島本三連読

東京をジャングルに見立てるのは言い得て妙だと思う。地方出身の私にとって、都市東京を歩くことは、次に何がわが身に襲いかかってくるかわからない密林を歩く感覚を疑似体験しているような感じだからだ。鹿島茂さんの『平成ジャングル探検』*1(講談社)を…

疑問が先か解答が先か

鹿島さんの新刊『関係者以外立ち読み禁止』*1(文藝春秋)を読みながら、こんなことを考えた。 帯には「世の中とエッチの〈?〉と〈!〉」と書いてある。ほぼ同時に出た井上章一さんとの対談集『ぼくたち、Hを勉強しています』(→4/14条)にもあるように、…

アンテナの感度の問題

翻訳物をいつ以来読んでいないか調べてみた。すると、実に一昨年九月に読んだP・ハイスミス『変身の恐怖』(ちくま文庫、吉田健一訳、感想は2001/9/3条参照)まで遡らねばならないことを知って慄然とした。約一年半の間翻訳物を読んでいないことになる。 意…

山本周五郎に惚れました

初めて山本周五郎を読んだ。宮部みゆき−藤沢周平ルート、山口瞳ルート、これまでの読書の流れのなかでいまあげたようなルートをたどって徐々に近づきつつあった山本周五郎の世界であるが、ついにそこに足を一歩踏み入れた。 一歩踏み入れて次はどうするか。…

史上最強のH学者コンビ

『オン・セックス』(飛鳥新社)、『オール・アバウト・セックス』(文藝春秋)の鹿島茂さん、『愛の空間』(角川選書)、『パンツが見える。』(朝日選書)の井上章一さん、いまこのお二人がアカデミズムのなかで積極的にエロ(H学)について研究を推進し…

新書に綴る新書的自伝

坪内祐三さんの『新書百冊』*1(新潮新書)を読み終えた。 新書を購入し読み始めた高校時代から大学院生に至る成長の過程で触れてきた新書について語ることで、自らの知識形成の歴史をふりかえるという「半自伝」的書物であった。これまた坪内さんの他の本の…

四者四様の東京

なぎら健壱さんの『ぼくらは下町探検隊』*1(ちくま文庫)を読み終えた。 本書第一部は、江東区木場の小学校に転校してきた五年生東川壮一君の作文というスタイルをとる。 転校したばかりの学校で一番最初に仲良くなった友達児島いたる君は地元っ子で、彼ら…

草茂みベースボールの道白し

タイトルに掲げた句は、明治29年(1896)夏、正岡子規の作。子規が野球好きだったことは有名で、本名升(のぼる)に「野球(ノ・ボール)」の字を当てたことから、baseballの邦訳野球は子規によるという俗説が生じているほどである。 上記の句は平出隆さんに…

恥ずかしながら

赤坂治績『ことばの花道―暮らしの中の芸能語』*1(ちくま新書)を読み終えた。 歌舞伎など江戸の演劇に発して現代に根づいている言葉が多くある。いまや元が芸能語であったことすら忘れ去られている言葉も少なくない。本書はそうした言葉の由来を発祥まで遡…

父の評伝

「父親」という存在を客観的に見ることは可能だろうか。肉親である以上なかなか難しいのではあるまいか。 客観的に父を見るきっかけとして「死」が考えられる。それではお互い生きているという状態で客観的に見るきっかけには何があるだろう。離婚も考えられ…

第45 風景の発見

ここ数年「平成日和下駄」では、毎年のように桜の時期の谷中を歩いたことを書いている(2001/4/4条、2002/3/17条)。桜のトンネルになる谷中墓地のメインストリートの美しさは毎年変わるところがない。たんに「美しい」だけであれば何も毎年同じ場所を通った…

老成の師子相承

書いたもの(作品)、あるいはそこから漂う雰囲気、そこに表現されている作者の身ぶりから、実年齢以上の年齢を思わせてしまう、言い換えれば、読んだ物から想像するよりも実年齢はずっと若かった、そういう作家がいる。「老成」というべきか、「老人のふり…

病める明治人の症例報告

トランプのカードをすべて伏せ、二枚めくって数字が合えば取り、違えばふたたび伏せるというゲームのことを「神経衰弱」という。これは誰が名付けたのだろう。 もともと欧米渡来のゲームで英語名がそれらしいもので(たとえば“neurasthenia”)、その直訳に過…

姦通すると元気になる?

いまとなっては「姦通」という言葉は物々しい印象を与える。戦前の刑法第183条で規定された姦通罪とは、妻が姦通したとき、夫は妻とその姦通相手を告訴し、裁判によって「二年以下ノ懲役」に処すことができるというものである。 もとより姦通の事実があって…

偶然にして必然の出会い

高島俊男さんの『メルヘン誕生―向田邦子をさがして』*1(いそっぷ社)を読み終えた。 本書の存在を初めて知ったのは一昨年五月のこと。日本橋高島屋で開催された「向田邦子 その美しい生き方」展で並べられていた。本書の刊行は2000年7月だから、刊行後すで…

時代への信頼

川本三郎さんの『マイ・バック・ページ』*1(河出文庫)を読み終えた。正直言って、東京論者・荷風論者としての川本作品を愛読してきた者としては、それらに比して全般的に共感を持って読むことのできた本ではなかった。 本書は川本さんが大学卒業後一年の就…