四者四様の東京

ぼくらは下町探検隊

なぎら健壱さんの『ぼくらは下町探検隊』*1ちくま文庫)を読み終えた。
本書第一部は、江東区木場の小学校に転校してきた五年生東川壮一君の作文というスタイルをとる。
転校したばかりの学校で一番最初に仲良くなった友達児島いたる君は地元っ子で、彼ら二人が、築地生まれの東京育ち(これはなぎらさんご自身がモデルだろう)であるいたる君のお父さんに東京の下町を案内してもらったその体験が綴られている。
途中から壮一君のお父さん(北海道生まれ)も加わり、四人で下町めぐりをする。この四人は都市東京に対してそれぞれ異なった接し方になる。
バリバリの東京生まれ東京育ちの大人、「昔の東京」を知らない東京生まれの子供、地方生まれですでに自己が確立してから東京に移ってきた大人、地方育ちで東京に移ってきたがいずれは「東京っ子」に変じていくであろう子供、以上四つのタイプである。この見事な人物設定により、それぞれの立場から東京の下町、変わっていく都市東京が観察されることになるのだ。
子供たちが案内されるのは佃・築地・浅草・日暮里・隅田川門前仲町と典型的な下町ではあるが、上記四者の眼が導入されることで、ありきたりな下町ガイド本となることをまぬがれている。
本来第一部は1991年に刊行された。文庫版ではこの第一部と匹敵する分量の第二部が増補されている。こちらは書き下ろしで、第一部から十数年経った東京を著者なぎらさんご自身の立場で眺めた「補注」編といったおもむきとなっている。
佃島にあるマンション群は第一部が書かれた当時はまだ全部が完成していなかった。また壮一君・いたる君がいたる君のお父さんに連れられて驚喜した日暮里駅前の駄菓子問屋街は、ますます店の数が減ってしまったという。先日カズコさんに案内されて私も初めてそこを訪れたが、いずれそこから足立区に伸びる新交通システム開通のおりにはすべてなくなってしまうという。
私は地方生まれで数年前に東京に移り住んだ。ちょうど壮一君のお父さんと同じ立場だ。それに対して息子は東京で生まれた。東京生まれというアイデンティティは息子をどんな大人にし、生まれた町にどんな思いを抱いていくのだろう。自分の子供でありながら、客観的な興味を抱かずにはいられない。