2011-01-01から1年間の記事一覧

読んだ本落穂拾い

今年の前半は自分の本を書き上げることで一杯一杯だった。しかしながら後半は、読書の量も映画を観る頻度もかつての感覚をだいぶ取り戻してきたように思う。といっても、まだまだ時間や気持ちに余裕がなく、かつてのように読みながら感想を書くためにポイン…

『蒲生邸事件』再読

『蒲生邸事件』は、わたしが初めて読んだ記念すべき宮部みゆき作品である。2000年10月に文春文庫に入ったものを購い、約一ヶ月後の11月に読み終えている(→旧読前読後2000/11/4条)。その後妻がわたし以上の宮部ファンになり、自分が持っていた宮部さんの本…

『霧と影』の原作と映画

先日ラピュタ阿佐ヶ谷にて「霧と影」を観たあと、買ったまま積ん読してあった水上勉さんの原作(新潮文庫)を読むことにした。この『霧と影』こそ、水上社会派ミステリの第一作であったと記憶していたからである。 この作品がたいへんな難産のすえ生み出され…

「幕末太陽傳」再見

ヒューマントラストシネマ有楽町 「幕末太陽傳 デジタル修復版」(1957年、日活)※二度目 監督川島雄三/フランキー堺/南田洋子/左幸子/石原裕次郎/金子信雄/山岡久乃/芦川いづみ/小沢昭一/二谷英明/小林旭/菅井きん/西村晃/植村謙二郎/殿山泰…

巴水を買いに

平木浮世絵美術館 クリスマスで賑わうららぽーと豊洲の平木浮世絵美術館に行く。 先日ここを訪れたとき(→11/26条)、川瀬巴水の版画作品が限定販売(70枚)されていたのを知り(もっとも知ったのは会場でなくホームページだったかもしれない)、心を動かさ…

白くない白鬚橋

昭和の銀幕に輝くヒロイン第62弾 水野久美@ラピュタ阿佐ヶ谷 「二人だけの橋」(1958年、東宝) 監督・脚本丸山誠治/原作早乙女勝元/脚本楠田芳子/久保明/水野久美/加東大介/三井弘次/中北千枝子/千秋実/飯田蝶子/浦辺粂子/左卜全/瀬良明/久保…

50年を隔てた犯罪映画ふたつ

現代文学栄華館―昭和の流行作家たち@ラピュタ阿佐ヶ谷 「霧と影」(1961年、ニュー東映東京) 監督・脚本石井輝男/原作水上勉/脚本高岩肇/丹波哲郎/梅宮辰夫/亀石征一郎/水上竜子/鳳八千代/安井昌二/永井智雄/柳永二郎 テアトル新宿 「恋の罪」(…

わたしの好きな文体

湯川豊さんの『須賀敦子を読む』*1(新潮文庫)を読みながら頭で考えていたのは、「自分の好きな文体」についてだった。湯川さんの本のおかげで、それを人に説明できるところまでまとまってきたように思う。 もちろんそのなかには、『須賀敦子を読む』に展開…

本を読んでみるものだ

本を買って、読むきっかけにはさまざまあるだろう。著者、書名、テーマ…。その意味では、津野海太郎さんの『ジェローム・ロビンスが死んだ なぜ彼は密告者になったのか?』*1(小学館文庫)は、著者ということになるのだろうか。といっても、津野さんが出し…

新著のことども

わたしにとって3冊目の著書となる『記憶の歴史学 史料に見る戦国』*1(講談社選書メチエ)は、いちおう今日が発売日となっている。 いままでの本の購入者としての経験上、土曜日が発売日になっているばあい、その日に店頭に並ぶということはふつうないのだろ…

背中との出会い

洗面所から廊下(というほど立派ではなく、狭い通路)をはさんで向かい側に、わたしの本置き部屋がある。夜ねむる前に歯をみがきながら、わが本棚をぼんやり眺めて悦に入るのが日課となっている。心が落ちつくひとときである。 吉田篤弘さんの『木挽町月光夜…

原敬・日記・特別室

原奎一郎さんの『ふだん着の原敬』*1(中公文庫)を読み終えた。 この本を買ったきっかけは、著者にある。もちろん原敬にまったく興味がなかったわけではない。といっても、研究者としての興味ではない。平民宰相、おなじ東北出身(原敬は岩手)という、どち…

洲崎パラダイス縦断

石版画のパイオニア 織田一磨展 「東京風景」と「大阪風景」@平木浮世絵美術館 池袋にある某大学にて開催された某学会に出席し、聴きたかった報告がすんで休み時間に入るとすぐ有楽町線に乗って豊洲まで出た。目指すは、ららぽーと豊洲にある平木浮世絵美術…

裸体画づくし

ぬぐ絵画 日本のヌード1880-1945@東京国立近代美術館 締切が迫った仕事の校正のため、竹橋の国立公文書館に行く。そのあとはお決まりのコース。隣の近代美術館へ。金曜は20時までということで、公文書館の開館時間ぎりぎりまで調べ物をしても、余裕で観るこ…

池袋モンパルナスふたたび

池袋モンパルナス展@板橋区立美術館 1930〜40年代を池袋モンパルナスで過ごした画家のうち、板橋区にゆかりのある寺田政明(俳優寺田農さんの父)・古沢岩美・井上長三郎を中心に、池袋モンパルナスに暮らした画家たちの作品を展示した展覧会。 板橋区立美…

浮世絵からわかること

浮世絵戦国絵巻〜城と武将@太田記念美術館 午前中職場で所用をすませ、地下鉄を乗りついで表参道までゆく。そこから表参道を神宮前の太田記念美術館まで歩いた。いま読んでいる吉田篤弘さんの『木挽町月光夜咄』*1(筑摩書房)に、表参道A4番出口という語句…

映画館の空気がゆるむとき

むかしの日本映画を映画館で観ているとき、ある俳優がはじめて登場する場面で、いっとき館内の空気がゆるむ、和やかになる、という経験をすることがある。そういう雰囲気をつくる俳優として浮かぶのは、伊藤雄之助、小林桂樹、三國連太郎の三人である。 存在…

本を出します

来月、講談社選書メチエより、新著『記憶の歴史学 史料に見る戦国』を刊行します。ISBNが付き、アマゾンに出ていたので*1、ここでも紹介できるようになりました。さっそくツイッターで軽美伊乃さんに紹介していただきました。ありがとうございます。 紹介文…

香川京子特集はじまる!

映画女優 香川京子@東京国立近代美術館フィルムセンター 「君と行くアメリカ航路」(1950年、新東宝) 監督島耕二/原作赤坂長義/脚本長谷川公之/美術河野鷹思/灰田勝彦/斎藤達雄/田崎潤/香川京子/江川宇礼雄/澤蘭子/伊達里子/暁テル子/風見章子

東京の坂道には風情がある

坂道・ぶんきょう展@文京ふるさと歴史館 通勤にはいつも東京メトロ千代田線を使っている。職場は本郷台地上にあり、地下鉄は本郷台地と上野台地に挟まれた谷間の下を走っているから、坂道を登らなければ職場にたどりつけない。 その日の気分や体調、仕事の…

抱一を堪能する

酒井抱一と江戸琳派の全貌@千葉市美術館 酒井抱一という名前を知ったきっかけは漱石の小説だった。いま『漱石全集』の総索引(第28巻)にて調べてみると、『虞美人草』に最初に出てくる。逆に立てたのは二枚折の銀屏である。一面に冴へ返る月の色の方六尺の…

映画週間のゴール

Movix亀有 「ステキな金縛り」(2011年、東宝・フジテレビ) 監督・脚本三谷幸喜/深津絵里/西田敏行/阿部寛/竹内結子/浅野忠信/中井貴一/草磲剛/市村正親/小日向文世/小林隆/KAN/木下隆行/山本亘/山本耕史/戸田恵子/浅野和之/生瀬勝久/梶…

大盛況だった大番完結篇

映画監督千葉泰樹@神保町シアター 「大番 完結篇」(1958年、東宝) 監督千葉泰樹/原作獅子文六/脚本笠原良三/音楽佐藤勝/美術中古智・佐藤喜代志/加東大介/淡島千景/原節子/仲代達矢/東野英治郎/団令子/山村聰/青山京子/有島一郎/中田康子/…

空いていた続々大番

映画監督千葉泰樹@神保町シアター 「続々大番 怒濤篇」(1957年、東宝) 監督千葉泰樹/原作獅子文六/脚本笠原良三/音楽佐藤勝/美術中古智/加東大介/淡島千景/原節子/青山京子/仲代達矢/平田昭彦/三木のり平/有島一郎/清川玉枝/村上冬樹/十朱…

殺される森雅之

映画監督千葉泰樹@神保町シアター 「悪の愉しさ」(1954年、東映東京) 監督千葉泰樹/原作石川達三/脚本猪俣勝人/音楽黛敏郎/伊藤久哉/久我美子/森雅之/杉葉子/東郷晴子/伊豆肇/千石規子/加藤嘉 伊藤久哉が出演する映画はかつて何度か観たことが…

原田芳雄×2、石橋蓮司×3

Movix亀有 「大鹿村騒動記」(2011年、2011「大鹿村騒動記」製作委員会) 監督・脚本阪本順治/脚本荒井晴彦/原田芳雄/大楠道代/岸部一徳/石橋蓮司/三國連太郎/佐藤浩市/松たか子/冨浦智嗣/瑛太/小野武彦/小倉一郎/でんでん/加藤虎之介 主役級…

一度観た映画を忘れるということ

日本映画専門チャンネル(録画HDD) 「不敵な男」(1958年、大映)※二度目 監督増村保造/脚本新藤兼人/川口浩/野添ひとみ/船越英二/永井智雄/市川和子/岸田今日子 「黒蜥蜴」を観て、気の毒な川口浩ということを思いつつ、ハードディスクレコーダーに…

滑稽さの理由

特集・逝ける映画人を偲んで2009-2010@東京国立近代美術館フィルムセンター 「黒蜥蜴」(1962年、大映東京) 監督井上梅次/原作江戸川乱歩/劇化三島由紀夫/脚本新藤兼人/京マチ子/大木実/川口浩/叶順子/三島雅夫/杉田康/北城寿太郎/久里千春/緋…

なぜ和田誠に惹かれるのか

和田誠展「書物と映画」@世田谷文学館 世田谷文学館にて昨日からはじまった和田誠展に行く。つい最近たばこと塩の博物館にて、煙草を主題にしたイラストの展覧会を観たばかりだと思っていたが、半年以上経つのか(→2010/10/24条)。 昨夏自家用車を購入して…

絵巻を流して見ると

生誕100年藤牧義夫展@群馬県立館林美術館 妻に群馬までのドライブ・デートを誘ったものの、テニスに行く、と断られたため、やむをえず、ひとり車で群馬県立館林美術館に行く。サブ・ドライバーがいれば安心だというもくろみを鋭く察知されてしまったらしい…