2011-01-01から1年間の記事一覧

記憶が家をつなぐ

父母がいて、それぞれに祖父母がいて、そのまたそれぞれに曾祖父母がいる。さかのぼればきりがない。彼ら先祖の一人が欠けても自分という人間はこの世に存在していない、ということを意識するのは、お墓参りの機会だろうか。 星野博美さんの『コンニャク屋漂…

増殖する物語

極上のノンフィクションはさながらミステリ小説のごとし。ややもすればミステリ小説を凌駕する。 ノンフィクションすべてがミステリのような謎解きの要素をもっているわけではなく、そもそもノンフィクションというジャンル自体、謎解きに限定されるものでは…

藤田嗣治伝というレイヤー

藤田嗣治といえば、奇抜な扮装や「奇行」がまず真っ先にあげられ、それらによってさまざまな伝説が生み出され、語られている。単身パリにわたって一躍有名となり、日本に凱旋して戦争のときは従軍画家として協力、戦後はふたたびフランスに戻り、フランス国…

「怪演」も考えもの

美女と探偵〜日本ミステリ映画の世界@神保町シアター 「四万人の目撃者」(1960年、松竹大船) 監督堀内真直/原作有馬頼義/脚本高岩肇/佐田啓二/伊藤雄之助/岡田茉莉子/杉浦直樹/安井昌二/三井弘次/幾野道子/西沢道夫/浅茅しのぶ 「四万人の目撃…

和田誠さんと俳句

和田誠さんの新著『五・七・五交遊録』*1(白水社)を読み終えた。俳句をとおして語る半自伝、俳句をとおしての交遊を綴る、いつものように淡々として暖かみにあふれるエッセイ集だった。「話の特集句会」に集うデザイナー、イラストレーター仲間、作家、編…

藤森照信の刺激

先の週末、鹿島茂さんの『パリの異邦人』や、小谷野敦さんの『猿之助三代』をたてつづけに読み、読書のカンのようなものが戻ってきたという実感がわいてきた。もちろんそうさせる本あればこそだったからだが、それならこれまでだって継続的にいい本と出会い…

濹東綺譚の新聞連載原稿

開館80周年記念特別展―新収稀覯本を中心に―@天理ギャラリー 同僚からこの展覧会のことを教わった。そもそも天理ギャラリーという天理図書館の東京出張所のようなところがあることすら知らなかった。神田錦町にある「東京天理ビル」の9階にある(http://www.…

澤瀉屋の歴史

わたしが歌舞伎をはじめて観たのは、1998年7月、歌舞伎座においてであった。そのころ毎年7月は猿之助率いる澤瀉屋一門による「猿之助大歌舞伎」の月であり、このときは「義経千本桜」の昼夜通しが出されていた*1。 東京に住みはじめたのが98年4月なので、ま…

パリ憧憬

「Sound Massage」というiphoneアプリ(もっとも、実際使うのはipod touchだが)を愛用(愛聴)している。癒し系の音を聴くためのアプリであり、たとえば「雨の降る池」「春の丘」「田舎の夏の夜」「海の余韻」や、鳥の囀り、蛙の鳴き声のような自然を素材に…

洋画家たちにとって東京とは

絵描きにとってパリという都市が特別な意味を持っているように、日本人の洋画家にとって、東京という都市もまた重要な空間であった。その人が生かされるか殺されるかは一に東京との相性の良し悪しに左右される。近藤祐さんの『洋画家たちの東京』*1(彩流社…

煙草と映画

@MOVIX亀有 「マイ・バック・ページ」(2011年、映画「マイ・バック・ページ」製作委員会) 監督山下敦弘/原作川本三郎/脚本向井康介/妻夫木聡/松山ケンイチ/忽那汐里/石橋杏奈/韓英恵/中村蒼/長塚圭史/山内圭哉/古舘寛治/あがた森魚/三浦友和…

小学生の同志

『芦川いづみDVDセレクション』 「あした晴れるか」(1960年、日活)※四度目 監督・脚本中平康/原作菊村到/脚本池田一朗/石原裕次郎/芦川いづみ/中原早苗/西村晃/東野英治郎/渡辺美佐子/杉山俊夫/三島雅夫/信欣三/安部徹/草薙幸二郎/清川玉枝…

脇役一人見つけたり

銀幕スター列伝(小林旭)@チャンネルNECO(録画HDD) 「殺したのは誰だ」(1957年、日活) ※二度目 監督中平康/脚本新藤兼人/撮影姫田真佐久/菅井一郎/山根寿子/殿山泰司/小林旭/西村晃/青山恭二/渡辺美佐子/清水将夫 画面からうだるような暑さ…

円紫さんを越えてしまった

北村薫さんの新刊長篇『飲めば都』*1(新潮社)を読み終えた。ある一流出版社の編集者をしている女の子小酒井都さんを主人公に、彼女を取り巻く同僚たちとの“酒のつきあい”を中心に進む物語である。 帯には「文芸編集女子」「酒女子」とある。これは出版社の…

オリジナルを先に観るべし

レンタルDVD 「十三人の刺客」(1963年、東映京都) 監督工藤栄一/脚本池上金男/片岡千恵蔵/里見浩太郎/嵐寛寿郎/内田良平/西村晃/丹波哲郎/月形龍之介/阿部九州男/菅貫太郎/山城新伍/水島道太郎/汐路章/沢村精四郎/丘さとみ/藤純子/河原崎…

牛島憲之をなぜ知っていたのか

開館三〇周年記念特別展 牛島憲之 至高なる静謐@渋谷区立松濤美術館 どこか美術館にでも行きたいなあと、展覧会情報をチェックしていたら、松濤美術館での「牛島憲之展」が目に飛びこんできた。その瞬間「行こう」と決断する。 ただ、牛島憲之という画家の…

芦川いづみの代表作?

日活青春グラフィティ 泣いて、笑って、突っ走れ!@ラピュタ阿佐ヶ谷 「青春を返せ」(1963年、日活) 監督井田探/原作赤城慧/脚本小山崎公朗/芦川いづみ/長門裕之/芦田伸介/田代みどり/高野由美/清水将夫/大滝秀治 タイトルがベタなので最初は躊…

小説と批評の入れ子

批評というものは、たんに対象の悪口を言うことではない。それであれば誰でも務まる。批評は、文章の表面には出てこなくとも、それをする人のそれまでの人生経験などが裏に詰まっているのだ。小説もおなじだと思う。だからわたしには小説も批評も書けないと…

可憐な芦川いづみとオシャレな映画

可憐な娘たち きらめく女優たち2@神保町シアター 「誘惑」(1957年、日活) 監督中平康/原作伊藤整/脚本大橋参吉(井手俊郎)/千田是也/左幸子/葉山良二/安井昌二/芦川いづみ/渡辺美佐子/轟夕起子/小沢昭一/長岡輝子/中原早苗/宍戸錠/二谷英…

象徴としてのX橋

43年の人生のうち、生まれてから18年を山形で、12年を仙台で過ごし、東京に移って早13年が過ぎてしまった。仙台で暮らした時間がこれまでの人生のなかでもっとも短くなったなんて、信じられない。それほどに仙台の町で暮らした時間は懐かしく、濃密である。…

無縁坂のぼりおり

追悼高峰秀子アンコール@新文芸坐 「雁」(1953年、大映) ※二度目 豊田四郎監督/森鴎外原作/高峰秀子/芥川比呂志/東野英治郎/宇野重吉/浦辺粂子/飯田蝶子/三宅邦子/小田切みき/田中栄三 「無法松の一生」(1958年、東宝) 監督・脚本稲垣浩/原…

大本事件と本能寺の変

本能寺の変には謎が多い。とくに首謀者については、明智光秀の単独犯なのか、その背後に誰か“黒幕”がいるのかどうか、実証的に解き明かそうとしたものからいわゆる“トンデモ説”まで、さまざまな説が飛び交っている。『歴史読本』の来月刊行号(7月号)は本能…

気になる田中春男

追悼高峰秀子アンコール@新文芸坐 「銀座カンカン娘」(1949年、新東宝) ※四度目 監督島耕二/高峰秀子/灰田勝彦/笠置シヅ子/古今亭志ん生/岸井明/服部早苗/浦辺粂子 「細雪」(1950年、新東宝) 監督阿部豊/原作谷崎潤一郎/脚本八住利雄/高峰秀…

五十代へむかって

重松清さんの文庫新刊『鉄のライオン』*1(光文社文庫)を読み終えた。 本書は、1981年、田舎を出て東京の大学に入学した「僕」を主人公にした連作短編集という体裁をとる。この「僕」とは重松さん自身をモデルにしている。ここに収めてある短篇すべてが東京…

父親への慈愛

父親のことを書いた作品として、すぐ頭に浮かんできたのは、沢木耕太郎さんの『無名』(幻冬舎 →2004/1/1条)、そして小林恭二さんの『父』(新潮文庫 →2003/4/9条)だった。北村薫さんの『いとま申して 『童話』の人びと』*1(文藝春秋)を読みはじめて、そ…

ツイッター効果

しばらくのあいだ、読んだ本について書く余裕がなかった。余裕をなくさせている環境はまったく変わっていないのだが、こんな状態にだんだんと我慢ができなくなってきた。震災、というのもひとつのきっかけだったかもしれない。 また、先日からNHK-BSプレミア…

ツイッターをはじめる

この「新・読前読後」更新が止まったままになっている。 本を買い、読む生活は変わっていない。読んだ本について、もちろん思うところもある。 しかし、その「思うところ」を長い文章にするまでに頭のなかでころがす余裕、またそれを書く余裕がないのだ。本…