オリジナルを先に観るべし

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十三人の刺客」(1963年、東映京都)
監督工藤栄一/脚本池上金男片岡千恵蔵里見浩太郎嵐寛寿郎内田良平西村晃丹波哲郎月形龍之介/阿部九州男/菅貫太郎山城新伍/水島道太郎/汐路章/沢村精四郎/丘さとみ藤純子河原崎長一郎

去年三池崇史監督のリメイク版を映画館で観てから、世評高い工藤栄一監督のオリジナル版も観たいと、レンタルショップに行くたびに確認していたが、さすがに同じことを考える人が多いらしく、いつもレンタル中で借りることができなかった。先日CDを借りるついでに思い出したので見てみると幸いあったので、ようやく借りることがかなった。
「集団アクション時代劇」のさきがけとして名高く、川本三郎さんの『時代劇ここにあり』*1平凡社)や、文春文庫ビジュアル版『洋・邦名画ベスト150 中・上級編』*2を読んで、もとより観たいと思っていたのだが、結局リメイク版のほうが先となってしまった。
今回オリジナル版を観て真っ先に思ったのは、「こちらのほうを最初に観ておくんだった」という悔い。リメイク版は最後の戦闘場面が大仕掛けで大迫力であり、また首もころころ飛んでいくなど、殺害場面がとてもリアルで、その残虐さがしばらく頭にこびりついて離れなかった。
だからオリジナルはそのあたりいったいどうなっているのだろうと(怖いもの見たさのような変な期待を抱いて)観てみると、グロテスクな場面はほとんどない。最後に西村晃が壮絶な斬り死を遂げるシーンくらいかもしれない。最後の戦闘も、長時間の格闘という伝説的なシーンであるわけだが、リメイク版の迫力を経験してしまった身には物足りなさすら感じてしまう。
リメイク版では、十三人の刺客それぞれにある程度光が当てられ、それなりに見せ場を持っていたのだが、オリジナルではあまりそのようなことはない。千恵蔵・寛寿郎の大スターを中心に、里見浩太郎西村晃西村晃が目立つ程度。山城新伍もさほど目立たない。リメイク版では伊勢谷友介が演じた(設定は違う)役柄だから、これは大きな違いである。この点はリメイク版がいい。こう書いてきて、リメイク版がいいのかといえば、やはり個人的にはオリジナルのほうが好ましいのである。
オリジナルは戦闘場面が生々しくて良かった。川本さんの本も、『洋・邦名画ベスト150 中・上級編』でも、このチャンバラを60年代の学生運動盛んなりし頃の世相と重ね合わせていたが、たしかにそうなのかもしれない。ただわたしは、この事件が発生した幕末弘化年間(1840年代)という設定と、チャンバラの描写がマッチしているように感じ、なるほどと唸ったのだった。
大坂の陣が終わり元和偃武の平和な世の中になって200年以上が経ち、武士が刀を抜いて人を斬ることなどほとんどなくなった幕末だから、刀を抜いての立ち合いが格好悪いのだ。とにかく切っ先を人に当てようと闇雲に刀を振り回す。この格好悪さというリアリティは、オリジナルのほうがまさっていたように思う。
…などとさかしらなことを考えてしまうのも、すべてリメイク版を先に観てしまったせいだ。最初にオリジナル版を観ていれば、きっとその戦闘場面の迫力にカタルシスを感じたかもしれなかった。スペクタクルに満ちたリメイク版を先に観てしまったがゆえに、オリジナル版に物足りなさを感じ、余計なことを考えてしまう。心から愉しんで映画を観るという境地に達しなかったのは残念。
最近三池監督は、あの「切腹」もリメイクしたという(「一命」)。幸いこちらはすでにオリジナル版を観ている。あの迫力に息苦しくなったものだった(→2005/10/12条)。先のカンヌ映画祭では、切腹場面に声があがったというから、きっと「十三人の刺客」のようにリアルなのだろう。「一命」はリメイクというよりも、同じ原作でありながら違う作品になっているようなので、「十三人の刺客」ほど新旧を比較するという目にならないかもしれないが、やはり小林正樹監督の「切腹」の記憶を大事にしたいので、観ないでおこうと思っている。