牛島憲之をなぜ知っていたのか

  • 開館三〇周年記念特別展 牛島憲之 至高なる静謐@渋谷区立松濤美術館

どこか美術館にでも行きたいなあと、展覧会情報をチェックしていたら、松濤美術館での「牛島憲之展」が目に飛びこんできた。その瞬間「行こう」と決断する。
ただ、牛島憲之という画家の名前を聞いても、作品が頭に浮かんでこない。松濤美術館のホームページを見ると、たしかにわたしの好きな傾向の絵であるので、名前を見て行こうという気になったその判断は間違っていなかったようだ。でも、牛島憲之という名前をわたしはいったい何で知ったのだろう。
日本の洋画家はたいがい洲之内徹さん経由なので、彼の著作をめくってみたけれど、どうもそうではなさそうだ。『SUMUS』5号(特集「洲之内徹 気まぐれ美術館」)にある『気まぐれ美術館』人名索引にも牛島の名前はない。
そうなると、堀江敏幸さんのエッセイくらいしか、あとは思いつかない。近代日本の洋画家が好きといっても、わたしの美術趣味は底が浅い。そんなに絵に関する本を読んでいるわけではないのだ。洲之内さんの本につづいて、堀江さんの本をめくってみる。
でもやはり牛島憲之の名前を見出せなかった。ネットで調べると、府中市美術館に彼の絵が寄贈されており、「牛島憲之記念館」として作品が常設展示されているという。府中市美術館には行ったことがないのだが、いずれ行きたいと思っていた美術館であった。このあたりに手がかりがありそうなものの、府中市美術館への興味も堀江敏幸さん経由のような気がして、やはりもう一度読み返すべきかと思い至る。
いずれにせよ、作品を見るにしくはなし。「至高なる静謐」という副題どおり、穏やかな静けさがただよう、緑を主体にした作品に眼が洗われた。永代橋や煙突・港など都市風景も描いているのだが、かなりデフォルメされたり、逆にシュールな要素が加わっていたりで、一筋縄ではいかない深みがある。焦点を意図的にずらしたような朧気な輪郭もいい。
岡鹿之助といい、長谷川潾二郎といい、この牛島憲之といい、「静謐」ということばが似合う画家に最近惹かれているようである。