2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

古本は向こうからやって来る

秋田で泊まっているホテルの近くに、失礼な言い方だがデパートの抜け殻のような建物がある。かつてデパートだったとおぼしくむやみに箱は大きいのだが、いまは小さな専門店が間借りする複合商業施設のようになっていて、上の階には公共施設も入居しているら…

婦人雑誌の作家たち

年度末恒例となった(?)秋田出張にて、いまホテルでこれを書いている。東京は上着すらいらないポカポカ陽気で桜も満開、すこぶる気分のいい春の一日だった。でも天気予報を見ると秋田の最高気温は10度だという。陽気な東京でコートを着て歩くのは狂気の沙…

若き新劇人たち

シリーズ・日本の撮影監督(2)@東京国立近代美術館フィルムセンター 「煉瓦女工」(1940年製作・46年公開、松竹・南旺映画) 監督千葉泰樹/脚本八田尚之/撮影中井朝一/矢口陽子/三島雅夫/三好久子/徳川夢声/水町庸子/悦ちゃん/小沢栄/赤木蘭子/信…

偏狂的学究の徒の弱点

このところ自宅読書用の本と電車読書用の本の境界線がなくなりかけていて、文庫本に限らず、大きめな本であっても電車に持ち込んで読むことを厭わなくなっている。様々な原因で自宅読書の時間が取れず、読書の空間がもっぱら電車内に限られてしまっているこ…

子と子供と親と大人

重松清さん新作短篇集『小学五年生』*1(文藝春秋)を読み終えた。一篇が十数ページ程度の短い短篇が全17篇。どの短篇も主人公は小学五年生の男の子。10歳から11歳と言ったところ。 もうそんな時期から30年も経ってしまったから、その頃を思い出そうにもおぼ…

老後の再読・再発見のために

石上三登志さんの『名探偵たちのユートピア―黄金期・探偵小説の役割』*1(東京創元社)を読み終えた。 例によって大学生協書籍部は入荷してくれない。しばらく様子を見ているうち我慢の限界を超えたので注文し、ようやく入手するという経緯が今回もあったけ…

追悼 船越英二

噺家のはなし〜愛しき笑芸人たち〜@日本映画専門チャンネル 「泣き笑い地獄極楽」(1955年、大映東京) 監督浜野信彦/脚本高橋二三(原案村野鉄太郎)/船越英二/伏見和子/霧立のぼる/古今亭志ん生/藤田佳子/品川隆二/橘喜久子/宮島健一 船越英二さ…

東京から離れることも

昭和の銀幕に輝くヒロイン第33弾 月丘夢路スペシャル@ラピュタ阿佐ヶ谷 「東京の人(前篇・後篇)」(1956年、日活) 監督・脚本西河克己/原作川端康成/脚本田中澄江・寺田信義/月丘夢路/滝沢修/左幸子/新珠三千代/芦川いづみ/葉山良二/金子信雄/…

書物へ沈潜せよ

筒井康隆さんの新作長篇『巨船ベラス・レトラス』*1(文藝春秋)を読み終えた。 カバー装画は柳原良平さん。豪華客船を輪切りにして、あらわれた船室に蠢いている有象無象の人物たちの姿を、あの特徴ある描き方で描いたイラストである。客船と言えば柳原さん…

手に入れた喜びと読む喜び

戸板康二『中村雅楽探偵全集1 團十郎切腹事件』*1(日下三蔵編、創元推理文庫)を読み終えた。 思えば2004年に『BOOKISH』で戸板康二特集*2を組んで以来(いや、それ以前からだ)待ち望んでいたこの全集、昨年あたりから延期に延期を重ね、とうとう2月末には…

1960年のコンタクトレンズ

ミステリ劇場へ、ようこそ。【第2幕】@ラピュタ阿佐ヶ谷 「彼女だけが知っている」(1960年、松竹大船) 監督高橋治/脚本高橋治・田村孟/小山明子/渡辺文雄/笠智衆/水戸光子/三井弘次/松本克平/永井達郎/千之赫子 高橋治監督のデビュー作。64分と…

戦前日本のシュルレアリスム

「池袋モンパルナスの作家たち」展@板橋区立美術館

第89 北東隅から北西隅へ

昨日のテレビ東京系「出没!アド街ック天国」はお花茶屋だった。わたしの住む町からは自転車で20分も走れば行くことができる。時々ふらりと遊びに出かける隣町であり、“準生活圏”と言っていい。 そのお花茶屋が、地名から“メルヘンの街”と称されていたり、“…

親の自由、子の自由

メモリーズ・オブ・若尾文子Part17@衛星劇場(録画HDD) 「月に飛ぶ雁」(1955年、東京映画・東宝) 監督松林宗恵/原作真船豊/脚本若尾徳平/若尾文子/安西郷子/小泉博/小杉勇/三宅邦子/千田是也/市川春代/田中春男/千石規子/有田稔/日高澄子/…

70年代への郷愁

ロマンポルノ傑作選 追悼・田中登監督part1@衛星劇場(録画HDD) 「天使のはらわた 名美」(1979年、日活) 監督田中登/原作・脚本石井隆/鹿沼えり/地井武男/沢木美伊子/山口美也子/水島美奈子/青山恭子/若杉透 妻と子どもたちが近くの映画館に「ド…

町の空気は保存できるか

小林信彦さんの新作長篇「日本橋バビロン」読みたさに、掲載誌『文學界』四月号を買ってしまった。文芸誌を買うのは10年ぶり、あるいはそれ以上かもしれない。最近は書店で立ち読みはおろか、手に取ることすらなかった。 性分として「本」の形態で読むことを…

文庫化された「ちょいカタメ」

矢野誠一さんの文庫新刊『志ん生の右手―落語は物語を捨てられるか』*1(河出文庫)を読み終えた。 本書はもともとこの文庫版の副題を書名として、矢野さんの麻布の先輩小沢昭一さんが主宰する新しい芸能研究室から出された本を文庫化したものである。パラパ…

さすがアイリッシュ

ミステリ劇場へ、ようこそ。【第2幕】@ラピュタ阿佐ヶ谷 「死者との結婚」(1960年、松竹大船) 監督・脚本高橋治/原作ウィリアム・アイリッシュ/脚本田村孟/小山明子/渡辺文雄/東山千栄子/斎藤達雄/瞳麗子/高野真二 仕事帰り家と反対方向になる阿…

出不精を悔いる

「企画展 文京・まち再発見2 近代建築 街角の造形デザイン」@文京ふるさと歴史館 去年は諸事あって身辺余裕がなく、ただ散歩だけを目的に歩くということがほとんどなかった。職場周辺、とりわけ谷根千地域を歩くこともほとんどなくなった。最近この地域も変…

シリーズ最高傑作?

「兵隊やくざ」シリーズ全9作品一挙放送@日本映画専門チャンネル(録画HDD) 「兵隊やくざ大脱走」(1966年、大映) 監督田中徳三/原作有馬頼義/脚本舟橋和郎/勝新太郎/田村高廣/成田三樹夫/安田道代/芦屋雁之助/芦屋小雁/内田朝雄 いよいよ敵役成…

方言学への招待

宮崎県知事選挙でそのまんま東こと東国原英夫氏が当選してからというもの、彼の活動が毎日のようにメディアで取り上げられている。彼が当選した理由、当選後高い人気を維持している理由はさまざまあるだろう。そのなかのひとつに、選挙運動や議会演説などで…

菅井一郎が降ろされた映画

ミステリ劇場へ、ようこそ。【第2幕】@ラピュタ阿佐ヶ谷 「その壁を砕け」(1959年、日活) 監督中平康/脚本新藤兼人/音楽伊福部昭/長門裕之/小高雄二/芦川いづみ/西村晃/清水将夫/芦田伸介/渡辺美佐子/岸輝子/神山繁/信欣三/大滝秀治/鈴木瑞…