1960年のコンタクトレンズ

ミステリ劇場へ、ようこそ。【第2幕】

「彼女だけが知っている」(1960年、松竹大船)
監督高橋治/脚本高橋治・田村孟小山明子渡辺文雄笠智衆水戸光子/三井弘次/松本克平/永井達郎/千之赫子

高橋治監督のデビュー作。64分というSPであるが、このサスペンス・ミステリー映画としてはこのくらいが緩みがなくていいのかもしれない。実際とても面白かった。
東京では、師走になって豊洲・晴海・世田谷と四日おきに強姦殺人事件が発生した。四日おきが守られれば、次の発生日はクリスマスイブ。笠智衆渡辺文雄ら警視庁の刑事たちはクリスマス返上で強姦殺人犯の捜査にあたっている。
渡辺文雄と恋仲なのが笠智衆の一人娘小山明子だ。クリスマスイブに待ち合わせ食事しようと楽しみにしていたのに、渡辺は捜査があるので一緒にいることができないと待ち合わせ場所にきて彼女に断わる。刑事を恋人にするものではないと憤慨する小山。
二人が待ち合わせたのは地下鉄の何駅だろうか。駅の構内も、渡辺に別れたあと小山が一人で買物をする町(銀座?)も人混みがすごい。ちょうど読んでいた戸板康二團十郎切腹事件』(創元推理文庫)中の一篇「死んでもCM」はクリスマスイブに起きた事件が描かれているが、この短篇に関する「作品ノート」の中で戸板さんは、「この小説を書いた時代の、イヴの銀座は、宵の口の一刻が、まさしく、身動きも出来なかった」と回想している。この短篇は奇しくもこの映画と同じ1960年に発表されたのである。
さて、強姦殺人犯がイブに襲ったのは、誰あろう小山明子だった。無惨にも犯されてしまったものの、犯人が彼女の首に手をかけようとしたとき、ちょうど酔っ払いが通りかかったため殺人はまぬがれた。つまり殺人犯は「彼女だけが知っている」ことになるわけだ。
強姦され深く傷ついた娘と、捜査のため協力を求めようとする仕事一筋の父、その間に立って娘を気づかう母親(水戸光子)という三人の間の葛藤と、あとで水戸光子から真実を知らされ驚愕するもののなお小山を愛する渡辺文雄。この主要キャスト四人の息づまるようなドラマが素晴らしい。
またミステリ映画らしく、犯人が初めて現場に残した遺留品を手かがりに、ひとつひとつ丹念に容疑者を消してゆく刑事たちの捜査のありさま。決め手となったのは、小山の髪の毛に付着したコンタクトレンズだった。「へえ、この時代コンタクトがもうあったのか」と驚いたが、あとで調べてみるとそれ以前からコンタクトは流通していたようだ。わたしが無知なだけだった。
もっとも映画に登場するコンタクトは、いまのように小型のものではなく、いかにもレンズといった感じの大きなもので、昔の人はこれを装着して目が痛くならなかったかしらんと心配してしまう。
笠の同僚で、笠や小山を気づかう鑑識係長三井弘次のだみ声が耳に残る。最近三井弘次という「脇役」の存在が気になっている。