2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

体感的東京本渡り歩き

昨日触れた海野弘『モダン都市東京―日本の一九二〇年代』*1(中公文庫)の上司小剣『東京』に論及した第6章のなかに、こんなくだりがあった。さらに注目すべきなのは、この小説の中で都市論を展開する部分があることである。第三部「争闘篇」では、都市と田…

再読なのか初読なのか

本置き部屋にある書棚の、立ったときに目の高さにある段には、読みたいと思って忘れないようにしている本を並べてある。そのなかに、海野弘さんの名著『モダン都市東京―日本の一九二〇年代』*1(中公文庫)があった。学生時代に一度読んだはずで、東京に住ん…

ウィスキーが飲みたくなり…

小玉武さんの新著『『洋酒天国』とその時代』*1(筑摩書房)を読み終えた。 小玉さんは1962年にサントリー(当時寿屋)に入社、宣伝部に配属され、開高健や山口瞳らの下で『洋酒天国』編集にも携わった。その後文化事業部長などを歴任し、『サントリークォー…

幸四郎・吉右衛門の名調子に酔う

六月大歌舞伎・夜の部(歌舞伎座・幕見席) 盲長屋梅加賀鳶 千秋楽にようやく間に合った。仕事帰り歌舞伎座に駆けつける。幕見で観るのは久しぶり。 幸四郎・吉右衛門兄弟の共演が昨年秋あたりからとみに多くなってきた。それも「籠釣瓶」の次郎左衛門と立花…

アップの迫力

生誕80周年 勅使河原宏と映画@チャンネルNECO(録画HDD) 「砂の女」(1964年、勅使河原プロダクション・東宝) 監督勅使河原宏/原作・脚本安部公房/音楽武満徹/岡田英次/岸田今日子/三井弘次/伊藤弘子/矢野宣/関口銀三 岸田今日子さんが亡くなった…

温泉場の悲劇

映画×温泉 湯けむり日本映画紀行@ラピュタ阿佐ヶ谷 「愛情」(1956年、日活) 監督堀池清/原作石坂洋次郎/脚本池田一朗/美術中村公彦/長門裕之/浅丘ルリ子/山根寿子/清水将夫/金子信雄/藤代鮎子/坪内美詠子/二木てるみ ある白髪の画家(清水将夫…

二人のエロオヤジ

松竹第三の巨匠・渋谷実 生誕100年記念特集Part6@衛星劇場(録画DVD) 「女の足あと」(1956年、松竹大船) 監督渋谷実/脚本伏見晁・田中澄江/佐田啓二/有馬稲子/大木実/石浜朗/杉村春子/淡路恵子/小林トシ子/山形勲/文野朋子/龍岡晋 メモリーズ…

松本清張と源氏鶏太

松本清張傑作サスペンス@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(1960年、東宝) 監督堀川弘通/原作松本清張/脚本橋本忍/小林桂樹/原知佐子/中北千枝子/西村晃/織田政雄/中村伸郎/菅井きん/三津田健/江原達怡…

仙台で源氏鶏太を買う

先日読んだ重松清『カシオペアの丘で』下*1(講談社)のなかに、こんな一節があった。空港のビルもあの頃とは違っている。地下鉄の路線もずっと複雑になったし、超高層のビルも増えた。だが、美智子が見るひさしぶりの東京は、なにかが増えた街ではなく、な…

40歳の過去は未来は

重松清さんの新作長篇『カシオペアの丘で』上*1・下*2(講談社)を読み終えた。 ガンに冒され、余命わずかを宣告された男が家族や過去と向き合う物語…。そんな宣伝文句を読み、正直に言えば「またか」と思った。シチュエーションは逆だが、ベストセラーとな…

コウガグロテスク

平野甲賀さん初のエッセイ集『僕の描き文字』*1(みすず書房)を読み終えた。シンプルな装幀の本が多いみすず書房と平野甲賀さんの描き文字装幀の組み合わせ、けっこう画期的なのかもしれない。 ちょうどこれを読んでいたとき、東京堂書店に立ち寄ったら、平…

脱線の妙味

あれもこれもと読む気をそそられる新刊書に心動かされる状態がこのところしばらく続いている。本は買ったときがもっとも読みたいと感じるピークだから、新刊は新刊ゆえに「読む気」という意味ではもっとも新鮮であり、また高いお金を出して買ったという切実…

情緒が足に突き刺さる

映画×温泉 湯けむり日本映画紀行@ラピュタ阿佐ヶ谷 「簪」(1941年、松竹大船) 監督清水宏/原作井伏鱒二/脚本長瀬喜伴/田中絹代/笠智衆/斎藤達雄/日守新一/川崎弘子/三村秀子/河原侃二/横山準/大塚正義/坂本武 今回の特集のなかではこの「簪」…

パトロネージあれこれ

最近何かと話題の「グッドウィル・ドーム」やら、「ヤフー・ドーム」、「フルキャスト・スタジアム」のような命名権売却による野球場の名称変更、これらはいわゆる「冠スポンサー」同様、宣伝広告を見込んでお金を払い、企業名などを頭に付けたものだろう。…

女系の敗北

メモリーズ・オブ・若尾文子Part24@衛星劇場(録画HDD) 「女系家族」(1963年、大映京都) 監督三隅研次/原作山崎豊子/脚本依田義賢/撮影宮川一夫/京マチ子/若尾文子/鳳八千代/高田美和/中村鴈治郎/田宮二郎/浪花千栄子/北林谷栄/深見泰三 「…

大爆発する大坂志郎

日活名画館・石原裕次郎シアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「男と男の生きる街」(1962年、日活) 監督・脚本舛田利雄/脚本熊井啓/石原裕次郎/加藤武/芦川いづみ/南田洋子/渡辺美佐子/大坂志郎/高品格/長門勇/平田大三郎/稲葉義男/二本柳寛/…

小林旭と芦川いづみ

日活名画館・小林旭シアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「やくざの詩」(1960年、日活) 監督舛田利雄/脚本山田信夫/小林旭/芦川いづみ/南田洋子/二谷英明/和田浩治/金子信雄/垂水悟郎/内藤武敏 「小林旭と芦川いづみという組み合わせは珍しくな…

“堀江好み”の思想

二日連続朝日新聞の記事から書き起こすことになる。5月30日付朝刊掲載「文芸時評」のなかで、加藤典洋さんが、堀江敏幸さんの新作小説『めぐらし屋』*1を(毎日新聞社)取り上げ、「近年これほど文学臭のない、繊細で潔癖な小説は読んだ記憶がない」と評して…

第91 一葉記念館いまむかし

昨日付の朝日新聞朝刊地域面(東京東部版「東京川の手」)に、「由緒ある旧町名たどって歩こう」という見出しの記事があった。台東区が若手職員を中心にして『旧町名下町散歩』という冊子の改訂版を作成したという内容である。90年に出た旧版以来17年ぶりの…

ユニークな水墨画

日本映画美術監督列伝 西岡善信自選作品特集(後篇)@衛星劇場(録画DVD) 「雁の寺」(1962年、大映) 監督・脚本川島雄三/原作水上勉/脚本舟橋和郎/若尾文子/三島雅夫/高見国一/木村功/中村鴈治郎/山茶花究/小沢昭一/西村晃/菅井きん/万代峰子

乱歩未発表小説につられて

「乱歩の未発表小説」という一節に目が止まった。ミステリー文学資料館編『江戸川乱歩と13の宝石』*1(光文社文庫)の帯にある惹句である。 「薔薇夫人」というそのタイトルには、たしかに憶えがない。さっそく手にとって新保博久さんの解説に目を通してみる…