幸四郎・吉右衛門の名調子に酔う

  • 六月大歌舞伎・夜の部(歌舞伎座・幕見席)

盲長屋梅加賀鳶

千秋楽にようやく間に合った。仕事帰り歌舞伎座に駆けつける。幕見で観るのは久しぶり。
幸四郎吉右衛門兄弟の共演が昨年秋あたりからとみに多くなってきた。それも「籠釣瓶」の次郎左衛門と立花屋長兵衛や、「仙台萩」の仁木弾正と荒獅子男之助のように同じ芝居に出ても本格的にぶつかりあわないような立場から、「寺子屋」の松王丸と武部源蔵や今回の「加賀鳶」の道玄と松蔵のように、本格的な共演になってきた。
二人が好きなわたしとしては歓迎すべきことなのだが、どういうことなのだろう。歌舞伎人気が危なくなって、それぞれ独立して一座を構えていた兄弟を共演させなければ話題にならないということなのか。いや、でも今回の千秋楽もこれほどの顔ぶれなのに人の入りは満員というほどではなかった。去年12月に亡くなった松竹永山武臣会長の遺志なのだろうか。
ともかくも「加賀鳶」での吉右衛門の松蔵は、初めてこの芝居を観たときの富十郎の道玄との共演ですっかり魅せられて以来だから、楽しみだったのだ。
幸四郎の道玄は一昨年正月以来の再演。前回の松蔵は三津五郎だった。今回道玄を観て、その悪党ぶりを前面に出し、愛嬌を隠すような凄味に、愛嬌たっぷりこそが道玄と富十郎のイメージでいたわたしは、考えを改めた。こういう道玄もありだろう、と。
もとよりこういう感想は前回観たときにも感じていたのだった(→歌舞伎道楽の場2005年1月)。「幸四郎近来の名演」とまで書いている。
今回吉右衛門の松蔵との共演を観て、個々の役者云々というよりも、かなり久々に黙阿弥のリズムある唄い上げるような台詞回しに酔いしれた。「加賀鳶」での強請場は黙阿弥世話物のなかでも、お気に入りの一場だ。
秀太郎のお兼も「おさすり按摩」の下卑た感じがいい。