2009-01-01から1年間の記事一覧

今年最後のミュージアム

木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン@東京都写真美術館 先日村山槐多展を観て、仕事に追いまくられ煮詰まった頭にとって、こういう展覧会による息抜きは欠かせないと実感した。たとえいくら忙しかろうと、映画を観たり、展覧会に足を運んで絵などを…

帝銀事件と筆跡鑑定

角川文庫から、松本清張の二長篇が新装版で刊行された。『落差』(上・下)と『小説帝銀事件』だ。いずれもカバー装幀は西口司郎・多田和博コンビで、新潮文庫の清張シリーズと共通する雰囲気(その他横山秀夫さんの本も思い出す)に、思わず手が伸びた。 「…

槐多、洲之内、万太郎

村山槐多展で印象に残ったことは絵のほかにもある。次の詩だ。どうぞ裸になってくださいうつくしいねえさんどうぞ裸になって下さいまる裸になって下さいああ心がをどるどんなにうつくしかろあなたのまる裸とても見ずにはすまられぬどうぞ裸になって下さいな…

槐多熱ふたたび

「ガランスの悦楽 没後90年 村山槐多」@渋谷区立松濤美術館

原作も映画もたのしめる

シアターイメージフォーラム 「倫敦から来た男」(2007年、ハンガリー・ドイツ・フランス) 監督タル・ベーラ/原作ジョルジュ・シムノン/ミロスラヴ・クロポット/ティルダ・スゥイントン

第98 『少年』の土地

最近自分に似つかわしくない日々がつづいていた。年が明けてもこの状態から解放されそうにない。そのなかで今日はようやくゆっくりと休みがとれそうだったので、「芸術の日」と洒落こむことにする。 まずは映画。シアター・イメージフォーラムでロードショー…

歌麿・北斎・写楽の名品

中央大学創立125周年記念特別展 浮世絵百華@たばこと塩の博物館

第97 「橋」のロケ地へ

先週、番匠義彰監督の「橋」で、笠智衆・岡田茉莉子父娘が借りたアパートの場所のロケ地を推理し、推測した場所を訪れたものの、探し当てることができなかった経緯を書いた。 情報を求めるべく呼びかけたが、「橋」などというマイナーな映画の、何か所かの場…

徳川夢声の小説と漫談この出張で

先日書友濱田研吾さんから、「こういう本を出しました」とお知らせいただいたのが、『徳川夢声の小説と漫談この一冊で』(清流出版)だった。神保町に出た機会に東京堂をのぞくと新刊コーナーで見つけたので、さっそく購入する。 短篇16篇にくわえ、「徳川夢…

「橋」のある町はどこだ

番匠義彰監督フィルモグラフィーpart7@衛星劇場(録画HDD) 「橋」(1959年、松竹大船) 監督番匠義彰/原作大佛次郎/脚本柳井隆雄/岡田茉莉子/笠智衆/石浜朗/大木実/水戸光子/細川俊夫/渡辺文夫/幾野道子

第96 ロケ地探索失敗譚

先日観た映画「社長太平記」(→11/21条)で加東大介が扮していたのは、海軍の元艦長だった。軍隊内での階級とは正反対に、元部下の森繁久弥・小林桂樹の下で、黙々と総務課長の仕事をこなす。 偶然ながら、これとは別に元艦長が出てくる映画を録画している。…

藤田嗣治と偏愛の物たち

縁あって、しばらく秋田の町を訪れる機会がつづきそうである。先日も秋田に出張し、夜はきりたんぽ鍋やハタハタ、いぶりがっこなどの郷土料理を堪能してきた。隣県山形出身の人間として、秋田にはライバル心をもっていたのだが、横手の町と縁ができて以来、…

ふたつの階級社会

東宝娯楽シアター@日本映画専門チャンネル(録画DVD) 「社長太平記」(1959年、東宝) 監督松林宗恵/脚本笠原良三/森繁久弥/小林桂樹/加東大介/久慈あさみ/淡路恵子/藤間紫/団令子/三好栄子/久保明/三木のり平/有島一郎/山茶花究 森繁さんが…

豪華すぎる出演陣

番匠義彰監督フィルモグラフィーpart7@衛星劇場(録画HDD) 「三羽烏三代記」(1959年、松竹大船) 監督番匠義彰/脚本椎名利夫・富田義朗/佐田啓二/高橋貞二/大木実/佐分利信/上原謙/佐野周二/山本豊三/三上真一郎/小坂一也/津川雅彦/岡田茉莉…

中原早苗という女優

映画夫婦渡世 中原早苗&深作欣二@新文芸坐 「くの一忍法」(1964年、東映京都) 監督・脚本中島貞夫/原作山田風太郎/脚本倉本聰/野川由美子/中原早苗/三島ゆり子/芳村真理/大木実/待田京介/小沢昭一/曾我廼家明蝶/木暮実千代/山城新伍 「怪談…

単行本も文庫本も本である

単行本が何年かたって文庫化される。といっても、文庫化によって二度目の「本生」をあたえられる本はごくひと握りの少数派で、こういうレールに乗ることができる本は恵まれた立場にあることは間違いない。 享受者たるわたしたちにとって、単行本の文庫化とい…

佐藤春夫の深謀遠慮

佐藤春夫『この三つのもの』(講談社文芸文庫)を読み終えた。 谷崎の長篇「神と人との間」を読み終え、「さあ、次は佐藤春夫だ」と勢い込んでから二週間以上過ぎてしまった。すぐに読み始めたのだが、行き帰りの電車で読んでいたせいもあって、思わぬ時間を…

第95 元八まんふたたび

川本三郎さんの代表作『荷風と東京』がとうとう文庫化された。岩波現代文庫から二分冊で出た。 このうち上巻収録の第十八章「「偶然のよろこびは期待した喜びにまさる」―元八まんへの道」を再読していたら、むずむずと散策欲が湧いてきた。ちょうど砂町辺に…

谷崎熱が冷めぬうち

『細雪』をはじめて読んで、ひさしぶりに谷崎潤一郎の作品世界を堪能した。うまく説明できないが、やはりわたしは、谷崎流の“筋のある”小説が好みであるらしい。 せっかく谷崎作品に心動かされているのだから、この勢いで読んでしまおうと、次に手に取ったの…

遅すぎた『細雪』読破

先だってのいわゆる“シルバー・ウィーク”では、出かける予定がまったくなかった。逆に家族が妻の実家に帰り一人東京で留守番ということになったので、この機会にこれまで読めなかった本をじっくり読もうと思い立った。選んだのは、谷崎潤一郎の大長篇『細雪…

まぼろしの一丁倫敦

一丁倫敦と丸の内スタイル展@三菱一号館

句会小説から広がる世界

できるかぎり更新していこうという気持ちから、リハビリのつもりでかつて書いた自分の文章を読み返し、感覚を取り戻そうと考えた。ちょうどいま9月なので、9月ばかりを溯って読んでいこうとしたところ、2007年9月12日条で取りあげた「挨拶としての俳句」(→2…

剽窃ではない

前回書いた拙著刊行のお知らせに関係して、ひとつおことわりしておかなければと思っていたことがあった。『織田信長という歴史』という書名についてである。 著者の意図は、こんなものである。 織田信長という人物そのものについて書いた本ではないけれども…

著書刊行のお知らせ

これまではあまりここに仕事がらみのことは書かないようにしてきましたが、今回は背に腹を変えられないこともあって、本職の話を書きたいと思います。 このたび、国文学や歴史学関係の書物を中心に出している勉誠出版から『織田信長という歴史―『信長記』の…

これからお世話になる町

川本三郎編 昭和映画紀行 観光バスの行かない町@神保町シアター 「白い魔魚」(1956年、松竹大船) 監督中村登/原作舟橋聖一/脚本松山善三/有馬稲子/石浜朗/上原謙/高峰三枝子/川喜多雄二/杉田弘子/加東大介/沢村貞子/夏川静江/北竜二/中村伸…

奈良に流れる時間

川本三郎編 昭和映画紀行 観光バスの行かない町@神保町シアター 「月は上りぬ」(1955年、日活) 監督・出演田中絹代/脚本小津安二郎・斎藤良輔/美術木村威夫/安井昌二/北原三枝/笠智衆/杉葉子/山根寿子/佐野周二/三島耕/小田切みき/汐見洋 “日…

夫婦のかたち

リクエストアワー@衛星劇場(録画HDD) 「新婚第一課」(1956年、東宝) 監督筧正典/原作土岐雄三/脚本若尾徳平・西島大/小林桂樹/岡田茉莉子/藤原釜足/東郷晴子/三木のり平/十朱久雄/久慈あさみ/伊豆肇/中田康子/藤木悠/水の也清美/江原達怡…

脇役を一人おぼえる

日本映画★近代文学全集@神保町シアター 「坊っちゃん」(1953年、東京映画・東宝) 監督丸山誠治/原作夏目漱石/脚本八田尚之/池部良/岡田茉莉子/小沢栄/森繁久弥/多々良純/瀬良明/浦辺粂子/小堀誠/渡辺篤/笈川武夫/三好栄子/藤間紫/中村是好…

明治の人が五代目に求めたもの

現代の歌舞伎役者を錦絵(風)に描いたものを見たことがある。役者の顔を知っているからか、けっこう似ているものだなあというのが第一印象だった。役者錦絵というものは、雰囲気だけ伝えれば、似ているか似ていないかは二の次だろうと根拠もなく思っていた…

ベスト・コメディ

孤高のニッポン・モダニスト 映画監督中平康@ラピュタ阿佐ヶ谷 「あした晴れるか」(1960年、日活)※三度目 監督・脚本中平康/原作菊村到/脚本池田一朗/石原裕次郎/芦川いづみ/中原早苗/西村晃/東野英治郎/渡辺美佐子/杉山俊夫/三島雅夫/信欣三…