ベスト・コメディ

映画監督中平康

「あした晴れるか」(1960年、日活)※三度目
監督・脚本中平康/原作菊村到/脚本池田一朗石原裕次郎芦川いづみ中原早苗西村晃東野英治郎渡辺美佐子/杉山俊夫/三島雅夫/信欣三/安部徹/草薙幸二郎/清川玉枝/藤村有弘/嵯峨善兵/殿山泰司宮城千賀子庄司永健

石原裕次郎の映画で好きなものをあげよと言われると、まず頭に浮かぶのは「あした晴れるか」と「紅の翼」の二本。いずれも中平康監督作品だ。このうち「あした晴れるか」はコメディとして大好きな映画である。
これまで二度観ている。初めて観たのがやはりラピュタ阿佐ヶ谷だった(2005年の芦川いづみ特集、→2005/11/13条)。ついで一昨年、家で録画したものを観た(→2007/8/5条)。
過去二度の感想をふりかえって、いかに自分がいいかげんに映画を観て、いいかげんな感想を持ったかがわかり、恥ずかしくなってしまった。
コメディとしての面白さは相変わらずなので、それ以外の点で三度目の今回思ったのは、1960年の東京の町をフィルムにとどめた貴重な作品だということ。とりわけ石原裕次郎芦川いづみが、新企画「東京探検」のためにあつらえた車に乗ってフィルム会社前を出発し、藤村有弘とトラブルを起こすあたりのシークエンスが、俯瞰の構図ともども素晴らしい。
ところが最初に観たとき、わたしはこんなことを書いている。

「東京探検」というからには、昭和30年代の東京の様子がたくさん映っているかと期待したけれど、それほどではない。ただ、芦川が運転する車が清洲橋を疾走する場面が素晴らしかった。
このときはよほど東京の町並みが移っていることへの期待度が高かったとみえる。清洲橋といい、佃の渡しといい、今回観て十分「昭和30年代の東京の様子」を堪能した。
さて、二度目に観たとき、こんなことを書いた。
童顔をオヤジのような眼鏡で隠しているゆえに、ラスト近く、安倍徹一派とのドタバタ騒ぎで頭にキャベツをぶつけられ(ぶつけたのが中原)気絶してベッドに横たわる眼鏡をとった顔の可愛さがひきたつ。芦川さんの代表作に数えたい一本だ。
違う違う。ベッドに横たわって眼鏡をとった顔に裕次郎が「意外に可愛いじゃないか」と感想をもらすのは、ラストのドタバタでキャベツをぶつけられたからでなく、従弟の杉山俊夫が自分を好いてくれていることにショックを受け、酒を呑んで酔いつぶれたあとのシーンだ。
安部徹のあまりにも正統的な悪役ぶり、対する草薙幸二郎の珍妙なたたずまい、尻に敷かれる「髪結いの亭主殿山泰司の女に関する蘊蓄開陳などなど、まだまだ見どころはたくさんある。