2006-10-01から1ヶ月間の記事一覧

藤田嗣治本読みくらべ

平野政吉美術館のミュージアム・ショップにて、フジタ作品の絵葉書何枚かと、湯原かの子さんの評伝『藤田嗣治―パリからの恋文』*1(新潮社)を買い求めた。 湯原さんの本は、今年3月、ちょうど東京国立近代美術館で「藤田嗣治展」が開催された頃刊行されたも…

第86 フジタと達三の秋田

家を不在にしていたため、しばらく記事が中断していた。秋田市に所用があり、滞在していたのである。ここ数年秋田と言えば県南内陸部の横手を訪れる機会がほとんどだったが、今年に入り急に県庁所在地である秋田市に赴く機会が増え、今回で三度目となる。 そ…

松本哉さん最後の荷風本

松本哉さんの突然の訃報(亡くなったのは15日)に驚いた。今月集英社新書から新著『永井荷風という生き方』*1が出るのを知っていたから。はからずも遺著ということになってしまったが、こういうタイミングだから、亡くなる以前にお手元には届けられたのだろ…

栄光の映画美術

松尾昭典監督の佳品「人間狩り」で、殺人犯の大坂志郎が靴修理の仕事をしながら身を潜めて暮らす町屋駅前の陋巷が、ロケではなくオープンセットだと知って驚いた。川本三郎さんの『東京の空の下、今日も町歩き』*1(ちくま文庫)の文庫版での再読で知ったの…

豊悦金田一の魅力

監督市川崑の映画たち@日本映画専門チャンネル(録画HDD) 「八つ墓村」(1996年、東宝) 監督市川崑/原作横溝正史/脚本大藪郁子・市川崑/豊川悦司/浅野ゆう子/高橋和也/宅間伸/萬田久子/喜多嶋舞/岸田今日子/岸部一徳/加藤武/井川比佐志/神山…

東京人になれない偽東京人

このあいだ町屋の「路上古本屋」で中島梓(文)山藤章二(絵)『にんげん動物園』の元版(角川書店刊)を見つけた(→10/13条)あと、以前作成した「夕刊フジ連載エッセイ一覧表」(→2005/12/22条)を修正していたら、そろそろまた夕刊フジ連載山藤挿絵本を読…

リメイク版「犬神家」へ向けて

監督市川崑の映画たち@日本映画専門チャンネル 「女王蜂」(1978年、東宝) 監督市川崑/原作横溝正史/脚本市川崑・日高真也・桂千穂/石坂浩二/高峰三枝子/司葉子/岸恵子/仲代達矢/萩尾みどり/中井貴恵/沖雅也/加藤武/大滝秀治/神山繁/小林昭…

もうひとつの「稲妻」

昭和の銀幕に輝くヒロイン第30弾 倍賞千恵子スペシャル@ラピュタ阿佐ヶ谷 「稲妻」(1967年、松竹) 監督大庭秀雄/原作林芙美子/脚本堀江英雄・大庭秀雄/倍賞千恵子/望月優子/浜木綿子/藤田まこと/稲垣美穂子/柳沢真一/穂積隆信/宗方奈美 成瀬巳…

失恋する芦川いづみ

日活名画館・石原裕次郎シアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「金門島にかける橋」(1962年、日活・中央電影公司) 監督松尾昭典/脚本山崎巌・江崎実生/石原裕次郎/華欣/芦川いづみ/二谷英明/大坂志郎/山内賢/佐々木孝丸/三津田健 日本と台湾の合…

最近見た「戸板康二」

かねてから楽しみにしている創元推理文庫の『中村雅楽探偵全集』は、同社のサイトの「近刊案内」に出たまま、「新刊案内」に移る気配がない。現在のところ11月刊行予定となっている。5月に出るらしいという情報を耳にしてから、首を長くして待ちつづけ、夏を…

どちらがミーハーなのか

先日(「長谷川利行の愛した下町展」の存在を知った日の翌日)の早朝、通学する長男と一緒に歩いていたとき、最寄駅近くの路上でロケ撮影に出くわした。道路の真ん中に岡持を置き、白いエプロンに白い三角巾をかぶった細身の女性が前にしゃがんで、岡持の中…

長谷川利行の愛した下町

「長谷川利行の愛した下町」展@羽黒洞 先日(“地下室の古書展”に立ち寄った翌日)仕事帰りに所用があり、職場から東京メトロ千代田線湯島駅に向かうため切通坂を下っていたら、下りきる直前左に屏風のごとくそびえ立つ高層マンション「湯島ハイタウン」の一…

俳優大坂志郎とその母

先日の仕事帰り“地下室の古書展 vol.8”に立ち寄ったとき、前回購った本を思い出した。神成志保『わたしの酒亭・新宿「秋田」』(文化出版局)である。この機会に読むことにした。 購入時にも書いたけれど(→6/5条)、本書の著者はこのところすっかり夢中にな…

嫉妬話が好きな松本清張

細谷正充編『松本清張初文庫化作品集3 途上』*1(双葉文庫)を読み終えた。このシリーズは現在「初文庫化作品集」として『失踪』『断崖』『途上』『月光』の4冊、それに『発想の原点』という対談集が出ている。 すでに昨年『初文庫化作品集1 失踪』は読んだ…

給料史観、あるいは2000倍にする癖

戦前のサラリーマンの生活はどんなレベルにあったのか。物価はどのくらいで、食費はどんな程度で、貰っていた給料で足りたのかどうか。歴史のどの時代においても同じことであるが、「ごく普通の庶民」の暮らしほど、史料をもとに明らかにするのは難しい。そ…

「大映アクション」と日活アクション

メモリーズ・オブ・若尾文子Part15@衛星劇場(録画HDD) 「誘惑からの脱出」(1957年、大映) 監督島耕二/脚本須崎勝弥・島耕二/根上淳/川口浩/若尾文子/高松英郎/角梨枝子 1957年という時期柄、大映も、勃興しつつあった日活アクションを意識したの…

第85 ともかく、鮫洲へ

昨日川本三郎さんの『東京の空の下、今日も町歩き』のちくま文庫版*1について書き、講談社刊の元版と一緒に書影を掲げた。描かれている風景こそ違え、森英二郎さんよる同じ青空の下の景色だなあと思っていたが、上下に並べてみると青空の明るさに違いがある…

森繁変幻自在

レンタルDVD 「神阪四郎の犯罪」(1956年、日活) 監督久松静児/原作石川達三/脚本高岩肇/森繁久彌/左幸子/新珠三千代/滝沢修/清水将夫/轟夕起子/高田敏江/金子信雄/宍戸錠/下條正巳 最寄駅前にあるTSUTAYAを徘徊していたら、偶然この映画のDVD…

川本効果を体験する

川本三郎さんの泊まり歩き紀行の傑作『東京の空の下、今日も町歩き』がちくま文庫に入った*1。『東京人』連載、講談社刊の元版(→2003/11/16条)と愛読してきたファンとしては、手軽に読めるようになったことが嬉しい。 荻窪の天沼陸橋の下をまっすぐに走る…

「古本屋成立史」から庶民史・人間史へ

向井透史さんの新著『早稲田古本屋街』*1(未來社)を読み終えた。内容についての感想を書く前に、「早稲田古本屋街」と自分との関わりについて、思い出し記しておきたい。 “早稲田は神保町より安い”とは巷間よく言われることで、古本好きなら誰でも共通認識…

アナロジスト礼賛

旧知の齋藤さんが運営されている“鹿島茂教授の仕事部屋”を訪れるのをしばらく怠っていたら、「公認ホームページ」なるものもできていたことを知り、驚いてしまった。 そもそも昨日書いた『文学全集を立ちあげる』(文藝春秋)と並行して、『社長のためのマキ…

玉石混淆丸ごと呑み込め

同じような好みを持ち、対象に対する知識も同程度の友人と、好みのものについてあれこれマニアックに語ることは無上の喜びである。ただ、語るにしても、気の向いた話題にあちこち飛びながらまとまりのない話をするのではなく、何かの目的を持ってのことであ…

第84 成田詣での記

ここ数年東京での初詣はもっぱら根津神社に行くことにしている。わが家の恒例行事である。東京に移り住んだ当初は、せっかくだから参拝者数ベスト10に入っているような大きな寺社を制覇してみようという色気を出し、明治神宮や鎌倉の鶴岡八幡宮に詣でたこと…

秋の連休映画三昧

衛星ロードショー@衛星劇場(録画HDD) 「カーテンコール」(2004年、コムストック) 監督・脚本佐々部清/伊藤歩/藤井隆/鶴田真由/奥貫薫/井上堯之/藤村志保/津田寛治/橋龍吾/夏八木勲 最近の映画をあまり観ないわたしであるが、佐々部清監督の作…

映画と原作の関係

監督市川崑の軌跡@衛星劇場(録画DVD) 「おとうと」(1960年、大映) 監督市川崑/原作幸田文/脚本水木洋子/撮影宮川一夫/岸恵子/川口浩/田中絹代/森雅之/仲谷昇/浜村純/岸田今日子/江波杏子/夏木章/友田輝 おとうと [DVD]出版社/メーカー: 徳…

原作と映画の関係

坪内祐三『考える人』*1(新潮社)の影響は案の定強い。吉田健一が気になっていることは先日書いた(→9/29条)。もっとも吉田健一の場合、いつものことだが読み出すまでにある種の強い「決断」が必要で、いまのところ書棚にある文庫本を出してパラパラめくっ…

ベスト10を埋める

監督黒澤明の仕事/脚本家橋本忍の仕事@日本映画専門チャンネル(録画HDD) 「羅生門」(1950年、大映) 監督黒澤明/原作芥川龍之介/脚本黒澤明・橋本忍/撮影宮川一夫/三船敏郎/京マチ子/森雅之/志村喬/千秋実/上田吉二郎/加東大介/本間文子 文…

馬ッ鹿じゃなかろうか

SPシアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「家庭の事情 馬ッ鹿じゃなかろうかの巻」(1954年、宝塚映画・東宝) 監督小田基義/原作三木鮎郎/脚本賀集院太郎/トニー谷/伊吹友木子/千葉信男/重山規子/柳谷寛 「続家庭の事情 さいざんすの巻」(1954年、…

50年前の「人間魚雷」

日活名画館・石原裕次郎シアター@チャンネルNECO(録画HDD) 「人間魚雷出撃す」(1956年、日活) 監督・脚本古川卓巳/森雅之/石原裕次郎/葉山良二/長門裕之/杉幸彦/三島耕/西村晃/安部徹/浜村純/高品格/内藤武敏/二本柳寛/芦川いづみ/左幸子…

満州的混沌を解く鍵は

満州は混沌として理解しがたい。何でも呑み込んでしまいそうであり、「この人とあの人が知り合いなのか」と、およそ考えられないような人の結びつきでさえ、満州が介在していると説明されれば、奇妙に納得してしまうところがある。 60年代あたりまでの日本映…