失恋する芦川いづみ

金門島にかける橋」(1962年、日活・中央電影公司
監督松尾昭典/脚本山崎巌・江崎実生/石原裕次郎/華欣/芦川いづみ二谷英明大坂志郎山内賢佐々木孝丸/三津田健

日本と台湾の合作映画である。やはり石原裕次郎ほどのスターともなれば、国内トップ女優とのからみだけでは物足りなく思われるのだろうか。この点でもキムタクと似ているようだ。
とはいえ共演した華欣という女優さんはもとからの人気女優というわけでなく、この映画のオーディションに合格した新人で、しかもマレーシア人だったというから、何とも妙な話だ。この映画の美術を担当した中村公彦さんの『映画美術に賭けた男』*1草思社)で明かされている事実である。
優秀な外科医で、朝鮮戦争で負傷した兵士を治療することに忙殺されていた石原裕次郎が、誤診による手術ミスを自ら明かして退職し、結婚を約束していた製薬会社社長(三津田健)令嬢の芦川いづみに別れを告げ、船医として世界中を回り、たどりついた台湾で遭遇する物語。
中華民国の領土でありながら中国本土にほど近い金門島中共軍の猛攻撃にさらされる、いわゆる「金門島事件」の真っ最中。朝鮮戦争に従軍した恋人のゆくえを訪ね日本にやってきた華欣はかつて石原に介抱されたことがあり、二人はそれぞれお互い好意を持つようになる。石原はほとんど一目惚れといった雰囲気で、芦川いづみになど目もくれない。ああもったいない。
すぐ近くにある本土の郷里から分断されてしまったことを嘆く、金門島に住む集団の長が大坂志郎。彼は華欣の恋人の父親で、恋人の死後華欣の面倒を見ているのだが、華欣に会いにやってきた日本人の石原裕次郎らに警戒心を抱く。
朝鮮戦争は知っていても、この映画のモデルとなった「金門島事件」の背景にある戦後中国のいわゆる“国共内戦”についてはまったくと言っていいほど知らない。その意味では貴重な映画と言えるのかもしれない。