2004-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「絶対的初心者」の思想

平出隆さんの新著『ウィリアム・ブレイクのバット』*1(幻戯書房)を読み終えた。 この15年くらいの間に様々な媒体に発表された文章を集めたエッセイ集だが、平出さんは詩人であり、中味の雰囲気からも、エッセイ集というより散文集と呼ぶべきかもしれない。…

四十の手習い

長男のために電子ピアノを買ってから三ヶ月が過ぎた。近所の個人教室に通うかたわら、母親に運指を厳しく注意され、ときには泣きべそをかきながら、家でもピアノの練習を続けている。あれだけ厳しく言われても投げ出さないのだから、よほどピアノが好きなの…

かわいそうな渡辺保?

世の中には物事を箇条書きに整理しようとする思考回路の人がいる。問題点などがすっきりと箇条書きに整理され説明されると、話を聞いているほうも理解しやすいし、自分にはこうした能力が欠けているから、「明晰だなあ」と羨ましく、ほれぼれしてしまう。 た…

東京散歩実用書の古びかた

嵐山光三郎さんの東京散歩エッセイ『東京旅行記』*1(知恵の森文庫)を読み終えた。ちょっと前に元版を入手してはいたのだが、読まないうちに文庫版が出てしまった。元版は1991年の刊行とけっこう前になるから、もはや文庫には入らないだろうとたかをくくっ…

死者を追憶するということ

いつから平凡社ライブラリーにハードカバーができたのだろう。書籍部に並んでいた、野見山暁治さんの新刊『遺された画集―戦没画学生を訪ねる旅』*1(平凡社ライブラリー)を何の気なしに手に取ったところ、思いがけず角背のハードカバーであることに意表をつ…

古本(屋)は良薬なれど…

最近、いや、二十代後半の頃からずっと、毎日身体のどこかしらの調子が悪いという悩みを抱えつづけている。とりわけ最近は首や肩の上に重石を置かれたような重苦しい痛みが消えず、そのうえ耳の下から顎の下、喉のあたりにかけて火照ったような熱さを感じて…

週末の購入本

青木正美『古本屋五十年』(ちくま文庫)を読んでいたら堀切の青木書店に行きたくなって、ついでにそのまえに「講談社」書店にも立ち寄る。 「講談社」書店@堀切菖蒲園 ★都筑道夫『三重露出 都筑道夫コレクション《パロディ篇》』(光文社文庫) カバー・帯…

町の古本屋賛歌

青木正美さんの文庫新刊『古本屋五十年』*1(ちくま文庫)を読み終えた。新刊として購ったものの、すぐ読むつもりがあるわけではなかった。ところがたまたま積ん読の山の一番上に重ねていたらカバーイラストが目に飛び込んできて、そのまま惹き込まれてしま…

散文主義万歳

山田稔さんの文庫新刊『残光のなかで―山田稔作品選』*1(講談社文芸文庫)を読み終えた。最近のにわかファンなので大きな顔をして言えないけれど、このように文庫本で山田さんの作品を読むことができるのは喜ばしい。 さて本書は山田作品の短篇アンソロジー…

肝を冷やす思い

高島俊男さんの『お言葉ですが…5 キライなことば勢揃い』*1(文春文庫)を読み終えた。 すでに「旧読前読後」2002/12/27、2003/5/26各条に書いたように、基本的に私は高島俊男さんのこのシリーズは大好きで、対象の如何を問わず言葉づかいの誤用を指摘し舌鋒…

昨日は再読、今日は三読

いまこうして書いている文章が映し出されたパソコン・モニターから目を少し右に移すと、スライド書棚があり、その前に積ん読の山が一つだけある。右側の壁に並ぶ書棚と机の間の空間、完全に頭を右に向けなければならない場所に積ん読の山の本体が連なりうね…

sumus「小出版社の冒険」展@東京古書会館 sumus同人の皆さんが関与しておられる雑誌などがいろいろ展示即売されていて、購買欲をそそるのだけれど、何せ我慢。

(04.6.14)

「アンダーグラウンド・ブック・カフェ―地下室の古書展」@東京古書会館 仕事帰り立ち寄る。ふところがきわめて寂しい状態のため、せっかく質の高いいい本が並んでいるにもかかわらず、ほとんど買うことができなかった。西秋書店さんのご厚意により、坪内祐…

鈍感で切れ者でない名編集者

このところかつて面白く読んだ本の文庫化が続いており、そのため再読する本が多くなっている。良し悪しという判断基準によるものでは決してないのだけれど、再読を躊躇してしまうことがある。それでなくとも未読の本が多いのに、一度読んだ本をもう一度最初…

「再考 近代日本の絵画―美意識の形成と展開」(第二部)@東京都立現代美術館 先日観た第一部(→5/19条)に続き、展示は以下の11のパートに分けられる。 第5章 画家とモデル―アカデミズムの視覚 第6章 理想化と大衆性 第7章 日常への眼差し―近代の規範 第8章…

思いがけない大きなおまけ

「昭和の銀幕に輝くヒロイン第15弾 池内淳子スペシャル」@ラピュタ阿佐ヶ谷 「如何なる星の下に」(1962年、東京映画) 監督豊田四郎/脚本八住利雄/原作高見順/撮影岡崎宏三/美術伊藤熹朔/山本富士子/大空真弓/加東大介/三益愛子/池部良/乙羽信子…

好きな文章でリラックス

本好きの人であれば、文章が大好きという書き手をあげろと言われるとたちどころに何人かの名前が口をついて出てくるに違いない。私の場合、そうした一人として向井敏さんの名前をあげたい。 向井さんの文章は香気高く、言い回しが絶妙で、読んでいるとその素…

署名本と活版と初出一覧と

堀江敏幸さんの新刊散文集『一階でも二階でもない夜』*1(中央公論新社)を読み終えてしまった。前の日に入手しホクホクしながらページをめくりつつ、活字を追う目のスピードを早めようとはやる心を抑えて、週末の愉しみにゆっくり読んでいこうと決めたはず…

非日常の浅草の夜は

非日常的空間における日常的光景というのは、平凡な日常生活を送っている人間から見れば、自分たちの生活の延長線上にある日常的光景として親和性をもって捉えられるのか、あるいは、やはり非日常は非日常のままで珍しがられるのか。 と、こんな小難しいこと…

高度成長前夜の時代精神

いわゆる「黄金時代」と呼ばれた昭和30年代頃の日本映画を好んで観るようになってしばらく経つが、見方としては、原作本位からはじまり、俳優や監督への興味へとスライドしつつ、関心が広がっていった。とはいえまだまだ知らないことが多く、真綿に水が浸み…

丸谷才一から鹿島茂の「戦後型随筆雑学派」

鹿島茂さんの文庫新刊『セーラー服とエッフェル塔』*1(文春文庫)を読み終えた。 本書の元版*2は2000年10月刊。買ってその直後に読んだはずで、そのさいこの「読前読後」に感想を書いたはずである。ただ、その時何に惹かれ、何を感じ、どう書いたかをすっか…

憂国の日本語論

丸谷才一さんはスピーチや講演のさい、あらかじめ原稿を書き、基本的にそれを読み上げるかたちで行なうという。書いた原稿は捨てずにとっておくので、そこでそれに注目してスピーチばかりを集めた本が企画された。 丸谷さんほどの偉い人になれば、パーティに…

触覚と読書

まもなく堀江敏幸さんの新刊『一階でも二階でもない夜』が中央公論新社から発売されるという情報を得るや、目はわが書棚の“堀江コーナー”に移り、手はそのなかの一冊、同じ版元からかつて出た『回送電車』*1を抜き取っていた。 「評論や小説やエッセイ等の諸…

ROAD TO THE DEEP NORTH

この四月から五月にかけ、小林信彦さんの新刊をたてつづけに読んだことによって(→4/24条・5/8条・5/17条)、気になった小林さんの小説があった。『ちはやふる奥の細道』*1(新潮文庫)である。先日立ち寄ったたなべ書店で入手できたのでさっそく読んだ。結…