2004-08-01から1ヶ月間の記事一覧

小沼丹を読んでリラックス

いま未知谷から『小沼丹全集』全四巻が刊行中である。第三巻まで出ているようだが、懐具合と相談してまだ第二巻*1までしか購入していない。全四巻とはいっても一冊がA5判一段組700頁を超える函入の大冊である。家にはすでに置き場がなく、重いから持ち帰るの…

松本竣介の像定着せり

宇佐美承さんの『求道の画家 松本竣介―ひたむきの三十六年』*1(中公新書)を読み終えた。宇佐美さんの別著『池袋モンパルナス』*2(集英社文庫、→4/12条)を読んだときに本書の存在を知り、ほどなく職場近くの古本屋で手に入れることができたのは幸運だった…

ため息のでる豪華キャスト

レンタルビデオ 「樅ノ木は残った」(1970年、NHK大河ドラマ)総集編第一部・第二部 映画ではないが便宜的に[映画]のカテゴリーで書くことにする。TSUTAYAで半額レンタルだったので、せっかく先日原作を読んだのだからと借りてきた。 NHK大河ドラマで一年…

揃いも揃って大悪党

「社会派コメディの変遷 渋谷実と前田陽一」@三百人劇場 「悪女の季節」(1958年、松竹大船) 監督渋谷実/東野英治郎/山田五十鈴/岡田茉莉子/伊藤雄之助/杉浦直樹 ここ数日胃の調子が悪く、出かけようか迷ったのだけれど、三百人劇場の5回券は残り1枚…

全集買いとバナナ

『sumus』第7号に、同誌同人の荻原魚雷さんが面白い一文を書いている。「全集とひとり相撲」と題したもので、20歳のとき年一回は全集を買おうと決意したという風変わりな書き出しから始まる、“全集蒐集私史”とでも呼ぶべき一篇となっている。私はこの荻原さ…

遺骨の上で暮らす東京人

永井荷風は『日和下駄』*1「第二 淫祠」*2に、次のように書いている。裏町を行かう。横道を歩まう。かくの如く私が好んで日和下駄をカラ\/鳴して行く裏通にはきまつて淫祠がある。淫祠は昔から今に至るまで政府の庇護を受けたことはない。目こぼしで其の儘…

『やっさもっさ』と「やっさもっさ考」

昨日書いたように、映画『やっさもっさ』を観た。“戦後三部作”の先行作『てんやわんや』が漫才コンビの名前に採られて有名になったゆえか、いまでもかろうじて生き残っているのに対し、いっぽうの「やっさもっさ」はまったく死語になってしまったと言ってよ…

原作>映画

「社会派コメディの変遷 渋谷実と前田陽一」@三百人劇場 「やっさもっさ」(1953年、松竹大船) 監督渋谷実/原作獅子文六/淡島千景/小沢栄/東山千栄子/佐田啓二/桂木洋子/三津田健 結論から先に言えば、原作の優勢勝ちといったところか。「自由学校…

団塊の世代はわからない

団塊の世代とは、「1947〜49年のベビー・ブーム時代に生れた世代」と広辞苑にある。いまだいたい50代前半から半ばの人たちにあたる。最近ではときどき「団塊の世代ジュニア」という言葉も耳にする。団塊の世代の子供世代ということで、調べてみると昭和46-49…

獅子文六映画と原作との関係について

先日獅子文六原作・渋谷実監督の映画「バナナ」を観、その面白さに半分のぼせたような感想を書いた。その後、たまたま同じ映画をご覧になっていた書友ふじたさん(id:foujita)のご感想を拝読して、自分ののぼせた頭に冷水を浴びせられた感じがして目を醒まし…

個性派脇役二人の衝突

「社会派コメディの変遷 渋谷実と前田陽一」@三百人劇場 「気違い部落」(1957年、松竹大船) 監督渋谷実/原作きだみのる/伊藤雄之助/淡島千景/水野久美/山形勲/石浜朗/清川虹子/賀原夏子/伴淳三郎/森繁久弥 原作も気になっている本なのだけれど…

モクローくん大感謝祭ふたたび

三百人劇場のある本駒込から動坂を下って千駄木の古書ほうろうまで歩く。道灌山下から本駒込まで、不忍通りが大きく弧を描くように曲がっており、その二点間を直線で結んで歩いたという感じ。しかも台地を下るいっぽうだから意外に近いという印象。 古書ほう…

物語を拒否するための呪文

田中小実昌さんの代表作とされる短篇集『ポロポロ』*1(河出文庫)を読み終えた。 村松友視さんが『海』編集者時代に小実昌さんに『ポロポロ』連作を書かせたという話を、その著書『夢の始末書』*2(ちくま文庫)で読み、以来気になっていた本だった。村松さ…

憧れの蔵は?

江戸川乱歩と大衆の20世紀展 【展覧会場】東武百貨店池袋店 平井家と立教大学が所蔵する乱歩の自筆資料、所蔵本などを中心とした展示。乱歩の作品が背景とした「モダン都市東京」に関する展示も含まれる。 目を瞠った展示物のひとつに、作家活動前の著述の草…

岡田茉莉子カワイー

「社会派コメディの変遷 渋谷実と前田陽一」@三百人劇場 「バナナ」(1960年、松竹大船) 監督渋谷実/原作獅子文六/津川雅彦/岡田茉莉子/尾上松緑/杉村春子/宮口精二/小沢栄太郎/伊藤雄之助/小池朝雄/仲谷昇/神山繁 獅子文六作品の映画化だが、…

第59 さらば百間遺跡

『谷根千』最新号(其の77)が乱歩特集だということを南陀楼綾繁さんの日記(id:kawasusu)で知り、さっそく買い求めた。作家活動に入る前の一時期乱歩は千駄木団子坂上に弟たちと古本屋「三人書房」を営み、また「D坂の殺人事件」の「D坂」はこの団子坂を指…

ひろい読み断腸亭日乗(10)

昭和7年8月17日条 八月十七日。晴。法師蝉始て鳴く。夜銀座に飯す。帰途芝兼房町の巡査派出所に人多く佇立むを見て、何事ならむと立寄り、様子をきくに、女子に化けたる男この辺のカフヱーに女給となりて住込みゐたる事露見し、派出所より愛宕町の警察署に引…

芸談としての戦争記録

つい最近まで映画にまったく興味を示していなかったため、加東大介という俳優の存在を知ったのもここ一、二年のことである。成瀬巳喜男監督作品を中心に観ているうち、そのいずれにも脇役で出演している丸顔のいかにも善人そうな役者さんが強烈な記憶に残っ…

映画の秋

これから秋にかけて観たい映画企画が目白押しで困ってしまう。他の予定とかちあわないよう、いまからメモ。 「社会派コメディの変遷 渋谷実と前田陽一」@三百人劇場 8/16(月)19時 「本日休診」 ※さっそく観てきた 8/18(水)19時or9/4(土)14時 「バナナ…

三國連太郎の怪演

「社会派コメディの変遷 渋谷実と前田陽一」@三百人劇場 「本日休診」(1952年、松竹大船) 監督渋谷実/原作井伏鱒二/柳永二郎/淡島千景/三國連太郎/角梨枝子/佐田啓二/鶴田浩二/岸恵子/田村秋子/長岡輝子/中村伸郎 全編笑える映画かと期待して…

またしても時代精神

仙台のブックオフで関川夏央さんの『女優男優』*1(双葉社)を見つけたときは「しめた」と心中ガッツポーズをとった。新刊時(2003年4月)何度か手にとってめくりつつ迷ったものの、結局買わなかった。この間劇的な変化というわけではないけれど、現在とくら…

句集ふたつ

浦和の古本市で丸谷才一さんの古稀記念句集『七十句』*1(立風書房)を手に入れた。歳とおなじ数の句を選んで編むなんて洒落ている。講談社文芸文庫巻末の著書一覧などで本書の存在を知ってはいたものの、お目にかかったことはなかった。 丸谷さんには、久保…

『大衆文学時評』中毒症

山本周五郎の代表長篇『樅ノ木は残った』(上)*1(中)*2(下)*3(新潮文庫)を読み終えた。何せ文庫本で上中下3冊、合計すると1200頁を超える大作である。一気に読もうとすれば今回のような夏期休暇の時期をおいてほかにない。しかも今回の場合、読み終え…

和田誠さんの句集

ブックオフ山形寿店 ★和田誠『句集 白い嘘』(梧葉出版) 函、900円。作者が「あの和田誠さん」でいいのだと思う。「平野威馬雄墓前祭」という前書きをもつ「聖歌聴く墓碑を囲みし黄薔薇かな」という句が収められているからだ。たしか平野威馬雄は和田さんの…

ブックオフ中古劇場

夏大古本市@仙台十字屋 ★『芥川比呂志エッセイ選集 全一巻』(新潮社) 函・帯、2500円。主要エッセイを全て収録し、年譜・書誌を付す。別刷り付録(月報)に中村真一郎・丸谷才一・山崎正和の三氏が執筆。 ★高橋英夫『琥珀の夜から朝の光へ―吉田健一逍遥―…

すべての話題は猥談に通ず

開高健・吉行淳之介両氏の対談集『街に顔があった頃―浅草・銀座・新宿』*1(新潮文庫)を読み終えた。本書は同じ新潮文庫に入っている『対談 美酒について』*2の続編である。こちらは先年重版され、そのとき入手したが、続編はその直後偶然古本屋で入手する…

古めの講談社文庫

ブックオフ山形寿店 ★山口瞳『けっぱり先生』(新潮文庫) カバー、100円。ダブり。 ★開高健『食卓は笑う』(新潮文庫) カバー、250円。ちょうど開高健・吉行淳之介両氏の対談を読み、巻末に載せられていたそれぞれの著作を読みたいと思っていたところに、…

寂れ続けることの価値

何度か書いているが、私は海外旅行経験がない。たぶん今後も行くことはないだろう。「ロバは旅をしても馬になって帰ってくるわけでない」(山本夏彦)。妻からは陰に陽に何度かせっつかれているものの、その都度「ファーストクラスならば」と返事をする。自…

かけめしの力

ちょっと前にコンビニで「ラーハン」という食品を見つけ、驚くいっぽうで「ついにここまできたかあ」と感心した。ラーハンとは、ラーメンのスープと乾燥具材・無菌パックのご飯が一緒になったもので、最初から「ラーメンライス」を作るという食品である*1。…

「天野忠毒」一歩手前

一昨日山田稔さんの『北園町九十三番地―天野忠さんのこと』(編集工房ノア)を古書ほうろうで手に入れ帰宅したあと、平野甲賀さんの装幀にかかるこの本をためつすがめつなでさすりながら、我慢できず最初の数行を読み始めたところ、止まらずいつしか数頁に達…