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「やっさもっさ」(1953年、松竹大船)
監督渋谷実/原作獅子文六淡島千景/小沢栄/東山千栄子佐田啓二桂木洋子/三津田健

結論から先に言えば、原作の優勢勝ちといったところか。「自由学校」もそうだったが、原作のストーリーを損ねぬよう、うまく縮約して映画化に成功している。ところがこの縮約があだとなったのではないか。獅子文六の作品はある意味「濃さ」が特徴であって、たとえストーリーを損なわないとしても、それを縮約して薄めてしまっては味わいも淡泊になってしまいかねない。たとえばプロ野球選手赤松(佐田啓二)の出演場面は中途半端で、最後の「志村夫人の夜会」も唐突。他にも説明不足の場面が目立って残念。
逆に原作ではさらりと触れられていたシモンとバズーカお時のエピソードが、米兵とパンパンの関係はこうであったのかと思わせるような面白さであり、また、後半で志村四方吉(小沢栄)を雇用する武智社長の福禄寿のような付け頬のメーキャップが笑える。
小沢栄(太郎)の四方吉は、原作を読んだときには懸念していたのだけれど、意外に適役。戦後虚脱でブラブラしている頃のだらしなさと、勤めはじめてからのインチキ臭さの演じ分けが素晴らしい。思わず「自由学校」の五百助がこの人だったらと想像する。淡島千景はこの映画の志村亮子のようなキャリア・ウーマン役が好きだ。
その他倉田マユミのバズーカお時、東山千栄子の福田嘉代刀自が良かった。先にこの映画をご覧になった南陀楼綾繁さんも注目されていたが(id:kawasusu)、この映画では東山千栄子の台詞に獅子文六の諷刺精神が込められている。嘉代婆さんが再就職の決心を告白しに来た四方吉に、「あなたが、今日まで、ノラクラ遊んでいたのも、なかなか、人にはできない芸当だと、あたしア感心していたんですからね」と褒め、続けて、

いいえ、お世辞じゃありませんよ。あれだけ戦さに敗けたら、腰が抜けるのが当り前で、シャアシャアしていた日本人の方が、おかしいくらいのもんですよ。
と語る。戦後手のひらを返したようにアメリカに従順になった日本への厳しいまなざし。
双葉園の保母のリーダーで、夜遊びを繰り返す理事の亮子に苦言を呈する原保母役が若き頃の山岡久乃。意外にと言うと失礼だが、結構綺麗だった。