揃いも揃って大悪党

「悪女の季節」(1958年、松竹大船)
監督渋谷実東野英治郎山田五十鈴岡田茉莉子伊藤雄之助杉浦直樹

ここ数日胃の調子が悪く、出かけようか迷ったのだけれど、三百人劇場の5回券は残り1枚。5回すべて渋谷実作品を観ようと考えていたので、気力をふりしぼって出かける。結果的に大当たりだった。これまで観た渋谷作品(「本日休診」「バナナ」「気違い部落」「やっさもっさ」と本作)のなかで一番私好みの映画だった。
もともとこのシリーズもう一回は、一度観たことのある「自由学校」にしようと思っていたのだが、パンフレットに掲載されている「悪女の季節」の撮影現場スチール写真を見ていたらこの映画を無性に観たくなり、急遽予定を変更したのだった。和服姿の山田五十鈴と、笑顔の岡田茉莉子。渋谷監督があんな小柄でチンピラ風の人だとは思わなかった。恰幅のいい人と想像していた。
実兄を殺してその財産を奪い、金持ちになった老人(東野英治郎)と、遺産目当てに彼の命をつけ狙う内縁の妻(山田五十鈴)、その実の娘(岡田茉莉子)、老人に殺された兄の実子で父の復讐に燃える甥(杉浦直樹)、そして山田五十鈴の昔の男伊藤雄之助。揃いも揃って大悪党が繰り広げる愉快なコメディである。
山田五十鈴ファンとして、あの底意地の悪そうな悪女ぶりはたまらない。「バナナ」で一気に魅了された岡田茉莉子はこの映画でも素敵に可愛い。顎をちょっと上に突きだし目を下に向けつんと澄ましたと思ったら、流し目で左を見るその仕草にしびれる。こちらは小悪女といったおもむき。
東野英治郎伊藤雄之助もはまり役。右眼の視力を失い、右眼を開けたまま鼾をかいて眠る伊藤の演技につい吹き出す。松竹第一作目の若い杉浦直樹は髪の毛がある!
伊藤の仲間の殺し屋(片山明彦)が不発弾を上からコンコン叩いて暴発してしまうシーンは笑いながらも無常観がただよい、ラストは東野が風船に縛りつけて空に飛ばした宝石箱を追いかけてのドタバタとなり、伊藤も山田も岡田もみんな火山の火口に転げ落ちてしまうというとんでもない幕切れで、いやはや愉快な映画だった。

「憎いあンちくしょう」(1962年、日活)
監督蔵原惟繕石原裕次郎浅丘ルリ子芦川いづみ長門裕之小池朝雄

この映画は関川夏央さんの『昭和が明るかった頃』*1文藝春秋、→6/6条)を読んで以来観たいと思っていた。同書第五章「現状打破への意志」はこの映画のストーリーを追いかけながら衰退期にさしかかっていた日活映画のあり方が論じられている。関川さんは「五〇年代末から六〇年代前半にかけて躍動した「日活的思想」をもっとも端的に、もっとも巧みに表現した作品であった」(163頁)とする。
個人的には、これまで「日活作品らしい作品」で観たことがなかった芦川いづみを観たいという動機もあったのだが、芦川はこの映画ではさほど登場シーンは多くなく、その目的は果たされなかった。「冷たい美女」という雰囲気。
ただそれよりも、浅丘ルリ子が可愛くて可愛くて、もうこの映画ではキュートな浅丘ルリ子を観ているだけでストーリーはそっちのけだった。まだ21、2歳の頃だという。私の知る浅丘ルリ子は、石坂浩二夫人、ガリガリに痩せて目がパッチリと大きい女優さんというものだったが、若かりし頃の浅丘ルリ子の可愛さにはまいってしまった。岡田茉莉子といい、最近私は映画を観てこんなことしか考えていない。