今年最後のミュージアム

先日村山槐多展を観て、仕事に追いまくられ煮詰まった頭にとって、こういう展覧会による息抜きは欠かせないと実感した。たとえいくら忙しかろうと、映画を観たり、展覧会に足を運んで絵などを観ることに時間を割くことはけっして無駄にはならない。そこでさっそく今日は恵比寿の写真美術館におもむいて木村伊兵衛の写真を堪能した。
一緒に取りあげられているアンリ・カルティエ=ブレッソンという写真家は不勉強で知らなかったが、木村と同じようにライカを駆使し、町と人の一瞬を切り取るセンスに共通性がある。さらに二人に共通するのは、カメラ(そしてそれを構える写真家)とその被写体となった人間のあいだの空気、そしてその背後にある町の空気までがあますことなく一枚の写真に封じこめられているということだ。
わたしのような素人は、家族知人ならともかく、まったく自分とは無関係の他人を撮ることに慣れていない。町歩きでスナップを撮るにしても、ファインダーから人間がいなくなった瞬間を狙う。ただ、それでは写真のなかの町が生気を失うのである。写真を撮る人間と町のあいだにも親和性が感じられない。二人の作品を観ていて気づかされた。
今回図録は我慢し、かわりに写真美術館オリジナルの「2010ミュージアム・ダイアリー」を購った。A5判ハードカバーの、手帳と日記の中間のような冊子である。カバーから中味まで、すべて木村伊兵衛の写真で仕立てられている。ミニ木村伊兵衛写真集と手帳・日記が一体となった素敵なつくり。
わたしは手帳に予定を書き込む習慣を持っておらず、日記もつけない。来年は今年に増して忙しくなるかもしれない。忙しさの中味も「こころにそまぬ」ものが多そうだ。手帳にしては大きめだが、これに予定を書き入れ、備忘録がわりとして持ち歩こう。味気ない仕事のかたわらに木村伊兵衛作品があれば、少しは救われるに違いない。