著書刊行のお知らせ

これまではあまりここに仕事がらみのことは書かないようにしてきましたが、今回は背に腹を変えられないこともあって、本職の話を書きたいと思います。
このたび、国文学や歴史学関係の書物を中心に出している勉誠出版から織田信長という歴史―『信長記』の彼方へ』*1という著書を上梓することになりました。10月中旬頃店頭(といってもたぶん大きな書店)に並ぶかと思います。体裁は、四六判上製カバー装、424頁、価格は本体3800円(税込み3990円)です。
織田信長の時代を知るうえでの一級史料として、『信長記』(『信長公記』とも)があります。信長に仕えた太田牛一という人物が、信長没後記したと考えられている書物です。書名を聞いたことがあるという人は多いのではないでしょうか。
先年話題になった加藤廣さんの長篇小説信長の棺(文春文庫)があります。この長篇は、太田牛一を主人公にし、彼が本能寺の変の後、本能寺から信長の遺骸が発見されなかった謎を解くいうストーリーで、そのなかで牛一が『信長記』を記していく過程も描かれています。2006年にテレビ朝日でドラマ化されたときには、松本幸四郎が牛一を演じていました。
わたしの本では、『信長記』の牛一自筆本と、全国各所に伝来するその写本の伝来系統を調べ、牛一がどのようにして『信長記』を書いていったのか、江戸時代になって『信長記』はどんな人びとによって伝えられていったのかといったことを考えてみました。書名に「織田信長」を入れましたが、織田信長という人物のこと、信長が生きた時代のことを書いた本だと期待すると、肩すかしを食うことになります。
わたしはテレビドラマを観ていなかったのですが、CMなどの予告場面がかすかな記憶として残っています。信長が天正10年(1582)に死んだとき、太田牛一は55歳でした。『信長記』に牛一自ら生年を記しており(大永7年=1527)、年齢がわかるのです。当代九代目幸四郎は1942年生まれですから、牛一を演じたときは64歳。実際の牛一の年齢より高いわけです。
でも、『信長記』やその他牛一が著わした著作を読んでの個人的印象は、「牛一はあんなにかっこよくないよな」というものです。もっともこれはあくまで個人的な印象であり、彼の肖像画など残っていないため、まったく根拠がありません。幸四郎よりもハンサムだった可能性だって、ないわけではありません。これは余談です。
目次など詳しくは版元の近刊紹介サイト(→http://www.bensey.co.jp/book/2140.html)をご覧下さい。また出版に関連した短文を、版元発行のウェブPR誌『勉誠通信』に書きましたので、こちらもご覧下さい(→http://www.bensey.co.jp/webpr/009.pdf)。
この間「読前読後」の更新がとどこおっておりましたが、昨年秋以来、この本の執筆に専念していたためであり、ときどき覗きにいらしていた方にはご迷惑をおかけしてしまいました。ふつうに本も読んでいましたし、映画も観ていたのですが、分量はそれぞれ減ったことは否めません。しかも感想を書いてアップするまでの精神的余裕がありませんでした。
やはり一冊の本を書きおろすというのは、たいへんな労力が必要なのだと身に沁みました。おかげで鬢には白髪が目立つようになりました。しかも、先日鏡を見ていたら、頭頂部の地肌がはっきり見えるようになって、愕然としました。
もちろんそれ以上に、一冊の本をつくる作業の愉しさがあったこともたしかです。今回は無理を言って、装幀デザイナーの方にお目にかかる機会をつくっていただき、カバーデザインはもとより、カバー・帯・表紙・見返しの紙、スピン(栞紐)や花布などの色などについて、わたしの希望を反映させていただくことができました。紙や花布の見本帳などをめくりながら、「こんな風合いの紙があるんだ」とか、「この紙の名前は風雅だなあ」など、本好きにとっては得がたい体験をさせていただきました。
さて、継続していたものをいったん途切れさせてしまうと、再開するにはかなりの力を必要とします。今後はできるかぎり以前のように、読んだ本、観た映画、訪れた場所についていろいろなことを書いていきたいと思うのですが、実はこれから来年にかけ、また同じような仕事を抱えており、更新が思うようにならないかもしれません。思い出したように更新することがあるかもしれませんので、たまに遊びにいらしてください。
上記のように、『織田信長という歴史』は一般向けとはかならずしも言えない内容なのですが、ちょっとだけ、「読前読後」をお読みの方なら、ニヤリとするような本の話もまぎれこませてあります。「はじめに」や「あとがき」だけなら、そのまま「読前読後」に転載できるかもしれません。
もしご興味をもたれた方がいらっしゃいましたら、著者割引(2割引)で販売させていただきます(送料300円別途負担なので、実質1割引程度)。ご希望の方は、この「読前読後」のコメントとして、メールアドレスなどご連絡先を書き込んでください。このためコメント欄は、当分書き込んでもすぐ画面には反映しない(主宰者の承認がないとおおやけにされない)設定にしました。
ご連絡先を書き込んでくださった方に、後日こちらから具体的な購入方法などメールでご連絡いたします。これまで「読前読後」でお世話になった書友の皆さんに献本したかったのですが、著書を書くにあたってお世話になった調査先や、研究を参考にさせてもらった諸先生方への献本を優先させざるをえず、このようなことになりました。よろしくご容赦ください。
信長の棺 上 (文春文庫)信長の棺 下 (文春文庫)