これからお世話になる町

「白い魔魚」(1956年、松竹大船)
監督中村登/原作舟橋聖一/脚本松山善三有馬稲子石浜朗上原謙高峰三枝子川喜多雄二/杉田弘子/加東大介沢村貞子/夏川静江/北竜二/中村伸郎/十朱久雄/浅茅しのぶ

横手の仕事がほぼ終わりに近づき、もう仕事で訪れる機会がなくなったのに対し、今年から新しく仕事でお世話になることになったのが、岐阜市である。実はわたしは、岐阜を一度も訪れたことがなかったのだった(東海道新幹線素通りのみだから、訪れたうちに入らない)。
岐阜と言えば織田信長、そして堀江敏幸さん(ご出身は岐阜市ではないようだが)。もちろん仕事に関わるのは前者のほう。このあいだ初めて岐阜の町を訪れ、岐阜駅から、岐阜城稲葉山城)のある金華山麓まで町中を歩いた。
岐阜駅正面からまっすぐ北にのびる金華橋通りは、沿道に市役所もあるメインストリートだが、そこを歩いては芸がない。ひとつふたつ東寄りにも並行して細い道がのびているので、そちらを歩いてゆくことにする。すると、この沿道には、老舗の仏壇屋などが多く、その他の店柄も、いかにも城下町といった昔ながらの商売をしている雰囲気に満ちていた。あとで地元の方に聞くと、そこがかつての城下町のメインストリートであり、カンがいいですねえとほめられてしまった。古めかしい店構えが連なるのだが、岐阜は戦災を受けているとのこと。
さて「白い魔魚」は、主演有馬稲子が岐阜の老舗紙問屋の娘という役柄で、岐阜の町が登場する。ふだん彼女は東京(ロケされた大学は立教大学とおぼしい)で大学に通っており、店の経営悪化と父の病気によって急遽実家に戻らなければならなくなったのである。
店の債務を肩代わりし、再建に乗り出すかわりに、有馬稲子との結婚を条件に持ちだしてくる実業家が上原謙。いかにも純粋な気持ちで再建の手助けをしてくれるようなそぶりを見せながら、有馬と二人になると急に手を出そうとし、拒絶されるみじめな中年男。この時期の上原謙は、まだ往年の二枚目俳優然とした役が多かったように思うのだが、この映画では実にみじめな中年男に成り下がっている。
有馬稲子と東京で知り合う洋品店のマダム高峰三枝子は、若い男(川喜多雄二)に入れあげて結局捨てられる役どころなのだが、最後には有馬を励ますような頼りがいのあるおいしい役柄である。
それにしてもハンサムな川喜多雄二の印象は、わたしにとってあまりよくない。「君の名は」といい、なんでこんなにも憎らしい役を演じてはまるのだろう。川喜多雄二高峰三枝子から奪うかたちになる杉田弘子もふてぶてしい女子大生を演じて絶品。とても女子大生に見えない(でも実年齢は有馬稲子より年下)。
ちらりと映る岐阜の町。町の象徴である金華山上の岐阜城だが、映画を観るかぎり確認できなかった。それもそのはず、現在の天守閣は映画公開と同じ年に完成したのである。天守閣ができたのは1956年7月、映画公開は同年5月だから、当然ロケ時点では何もなかったのだろう。
最終的に有馬稲子が選んだのは、大学の同級生石浜朗。心配して岐阜に駆けつけた彼と会うのが、長良川に架かる木造の吊り橋藍川橋。いまは残念ながら建てかえられているとのこと。藍川橋はお城よりももう少し上流にあるらしい。今度岐阜を訪れたとき、時間を見てレンタサイクルで確認してきたいものである。
最後に、有馬稲子は洋服より和服がいい。