脇役を一人おぼえる

坊っちゃん」(1953年、東京映画・東宝
監督丸山誠治/原作夏目漱石/脚本八田尚之/池部良岡田茉莉子/小沢栄/森繁久弥多々良純/瀬良明/浦辺粂子/小堀誠/渡辺篤笈川武夫/三好栄子/藤間紫中村是好佐藤允

池部良坊っちゃん岡田茉莉子のマドンナはまあいいとして、あの原作の登場人物をこのメンバーの誰が演じているのか。森繁久弥がこのなかにあれば、もう誰も間違わない。そう、赤シャツである。
山嵐が小沢栄(太郎)、野太鼓が多々良純、校長のたぬきが小堀誠(この人はあまり知らない)、うらなりが瀬良明。この瀬良明という役者さん、東宝作品にはよく脇役(というよりチョイ役)で登場する、顔の長いヌボーッとした雰囲気の人である。この人がうらなりを演じているとわかった瞬間、まさしく適役と膝を打った。瀬良さんのフィルモグラフィのなかで、この「坊っちゃん」のうらなり役は大役といえるのではないか。このうらなり役のおかげで、あの顔と瀬良明という名前はすっかり頭に刻まれた。
原作を読んでほろりとさせられるのは、坊っちゃんとばあやであるお清の関係。浦辺粂子もまた適役なのだった。冒頭、神楽坂の縁日で鯉を釣り上げ(一本5銭の釣竿を16本使ってようやくせしめた)、それをお清に届けるシークエンス。あの家があるのは菊坂に違いない。樋口一葉の家があったあたりの、菊坂の裏通りである。その風情がなんとも素晴らしい。
先日亡くなってしまった藤間紫の色っぽさ、野太鼓多々良純のこれまた適役の嫌味っぽさもいい。
坊っちゃん丸刈りでないのは池部良ゆえだろうが、赴任直後学生たちとの間であれこれ事件が起こるくだりがいくぶん省略されていたのは残念。最初は坊っちゃんに反抗し、最後には心酔する教え子の一人に若き佐藤允さん。もうこの時点であの独特の風貌は一目見たら忘れられない。