女系の敗北

女系家族」(1963年、大映京都)
監督三隅研次/原作山崎豊子/脚本依田義賢/撮影宮川一夫京マチ子若尾文子鳳八千代/高田美和/中村鴈治郎田宮二郎浪花千栄子北林谷栄/深見泰三

女系家族」がキーワード登録されているので気づいたのだが、今度7月から米倉涼子主演でドラマ化される山崎豊子作品とは、この『女系家族』のことなのか。
大阪船場の繊維問屋の主人が亡くなって、厖大な遺産が娘三人に分与されることから巻き起こる遺産問題。この家は故人も婿養子で、先代も婿養子、子どもたちも女ばかりという「女系家族」なのである。
長女が京マチ子。出戻りなのだが、「惣領娘」として遺産の多くは当然自分が相続するものと思い込んでいる。次女鳳八千代は婿をとり、彼女の夫が事業を継いでいるから、当然自分に多くの遺産が与えられると思っている。三女高田美和は未婚の女学生なので、あまり相続に頓着していない。
女系家族 [DVD]そこに降って湧いた遺産問題。遺言書には長女は家作とその土地すべてを、次女は事業すべてを、三女は株式と骨董類すべてを分与するとあって、それぞれ不満たらたら。相続執行人(遺言書読みあげ人)は先々代から仕えている大番頭中村鴈治郎で、忠義づらを見せながら、腹に一物持っているあこぎな人物。自分に不都合なことがあると耳が遠いふりをする。所有する山林からの収益をふところに入れたり、横領も平気。家宝である雪舟の軸もどさくさ紛れに自分のものにしようと企む。先々代から縁のある大番頭なのに、相続ではまったく問題にされず、ただ飼い殺しの憂き目にあうのだからと開き直っているのである(愛人が北林谷栄)。
娘たちの叔母(母親の妹)浪花千栄子は、分家として暖簾分けされたのだが、この問題にかこつけて三女を養女にし遺産を取り込もうと画策する。長女京マチ子には、踊りのお師匠さんである田宮二郎が色仕掛けで取り入り、籠絡しようとかかる。
実は故人には囲い者がいた。それが若尾文子。彼女が子供を身籠もっていて…というところから巻き起こる三人娘+老女(浪花)のむごい虐めと、若尾文子大反撃というどんでん返しの妙。とすれば役柄的に、米倉涼子若尾文子の役なのだろうか。家付き三人娘にさんざんなじられたすえに、ニヤリと笑みを浮かべて反撃を心に誓う若尾文子に背筋が寒くなる。どいつもこいつも善良からはほど遠い。
三人娘の遺産相続といって思い出すのは、『犬神家の一族』。これが横溝正史ならば、中村鴈治郎小沢栄太郎よろしく遺言書を読みあげたのをきっかけに、血なまぐさい連続殺人事件が起こり、その背後には20年前のある事件が…などとなるのだろうが、さすがに山崎豊子作品では人は死なない。死なないかわり、生々しくてドロドロと人間の欲望がむき出しになった心理戦が繰り広げられる。
白い巨塔』といい、『華麗なる一族』といい、山崎豊子原作の映画はキャストも豪華になるし、外れがない。

「今朝の秋」(1987年)
演出深町幸男/脚本山田太一笠智衆杉村春子杉浦直樹倍賞美津子加藤嘉樹木希林名古屋章

ドロドロした「女系家族」を観終えたあと、HDDレコーダーの電源を切ってテレビをザッピングしていたら、ちょうどNHKでこのドラマが始まるところだった。笠智衆杉村春子なんていうキャスティングの山田太一作品、ちょっと観ただけでぐいぐい惹き込まれ、最後まで観る羽目に。
息子(杉浦直樹)がガンで余命3ヶ月を宣告されたのをきっかけに、バラバラだった家族が一時的に結びつきを取り戻す物語。蓼科に一人住む老父笠と、男をつくって笠のもとから離れ、飲み屋を営む老母杉村。うーん、たまらない。
さらに笠の旧友として加藤嘉まで出演している。ストーリーはとてつもなく重い内容なのだが、笠・杉村・加藤という三老名優の共演、杉浦直樹倍賞美津子夫婦(離婚寸前だった)の好演で、観終えて「儲けた」という感じのしたドラマだった。
ただ、「女系家族」「今朝の秋」と続けて集中していたので、ひどく疲れた。