追悼 船越英二

「泣き笑い地獄極楽」(1955年、大映東京)
監督浜野信彦/脚本高橋二三(原案村野鉄太郎)/船越英二/伏見和子/霧立のぼる/古今亭志ん生/藤田佳子/品川隆二/橘喜久子/宮島健

船越英二さんのご冥福を心からお祈りします。
このところ大映映画をよく観るようになって、船越英二という役者の存在感が強く印象づけられていたおりだけに、訃報はショックだった。追悼の意を込めて、ちょうど放映されたこの作品を観た。映画好きでも知られる快楽亭ブラック師匠がセレクトした笑芸人映画特集の一本。
主人公は若手落語家の柳亭三升。演じるのが船越さん。彼は噺のあとに踊るマリオネットのような「ひょっとこ踊り」で売れている。ひょっとこのお面を付けていて顔が見えないこともあり、船越さんご自身が踊っているわけではなかろうが、この踊りなかなか面白い。
三升の師匠役に古今亭志ん生志ん生出演映画と言えば、「替り目」を演じて貴重な「銀座カンカン娘」が大好きで、この作品でも何か志ん生の落語を聴けるのかしらんと楽しみにしていたけれども、意外にこちらは生真面目に師匠役を演じているだけで、がっかりだった。「銀座カンカン娘」の志ん生は痩せていたが、それから6年、だいぶふっくらとしている。
師匠の金橋こと志ん生は、娘を三升にやって三升に跡を継がせたいと考えている。三升も師匠の娘に惚れている。そんな三升に惚れているのが、寄席で下座の三味線を弾く伏見和子。三升はいずれ師匠の娘と結婚するのだとわかっていても、彼を一途に思う伏見のいじらしさ。
ところがそんな金橋の家に、知り合いの息子(品川隆二)が会社の入社試験のため上京して部屋を借りたことで、ひと騒動が持ち上がる。師匠の娘と彼が恋仲になってしまったのである。
人がよくて気が弱い三升を演じる船越さんが素晴らしい。金升襲名の羽織をひそかに誂えて大阪に旅立ってしまった伏見を思い、その顛末を襲名披露の高座で新作落語として語る船越さんにはこちらも泣けてくる。最後にひょっとこ踊りをリクエストされ、羽織を脱いで袖に投げようとしたところでハッと気づき、丁寧に畳んでから袖に置くあたりが細かくて、これまた良かった。