シリーズ最高傑作?

兵隊やくざ大脱走」(1966年、大映
監督田中徳三/原作有馬頼義/脚本舟橋和郎勝新太郎田村高廣成田三樹夫/安田道代/芦屋雁之助芦屋小雁/内田朝雄

いよいよ敵役成田三樹夫が死を迎えるシリーズ第5作。未見の4作を残して断じるのは問題があろうが、増村保造監督による第1作はシリーズの魅力が凝縮されているから別格として、この第5作は第1作に匹敵するシリーズ最高傑作かもしれない。鹿島茂さんが『甦る 昭和脇役名画館』*1講談社)のなかで語る、本作の成田三樹夫に対する熱い思い入れに影響を受けた点を割り引いても、なおそう言いうる。
兵隊やくざ DVD-BOX 下巻二人のいる部隊に慰問団の生き残りである父娘が舞い込んでくる。勝はその娘である安田道代に一目惚れする。あることがきっかけで一夜の契りを結んだ二人だが、安田と父は翌日汽車で逃げることを許され、勝は汽車まで二人を送り届けるよう命ぜられる。
汽車に乗り込むさい、親子から一緒に逃げようと誘われ思わず気持ちが傾くものの、田村高廣を残して逃げられない勝は断腸の思いでこれを断る。安田の役が「素人の女」であるゆえか、安田と勝の別れのシーンには、これまでにない男女の情愛がみなぎって哀切だった。
勝が戻ってくると、部隊はゲリラから襲撃を受けた直後でほぼ全滅状態になっていた。泣きわめきながら必死に田村を探し回る勝。背後から田村が声をかけてくる。田村は生き残っていた。ここも感動のシーン。男女の切ない別れの場面のあとに、男同士の熱い再会シーンを配するコントラストの素晴らしさ。
その後二人は満州の荒野をただ逃げるよりは、部隊に紛れ込んだほうが得策と判断する。途中ゲリラに襲撃されるがこれを撃退し、そのアジトに日本陸軍将校の軍服があったことを幸い、二人はそれぞれ中尉と少尉に化け、内田朝雄(大尉)が部隊長となっている部隊に入ることに成功する。
上等兵二等兵が将校に化けて部隊生活を送るというギャップが細かく演出され、今度は笑わされる。とくに二等兵の癖が抜けない勝が少尉として一小隊を率いるあたりの面白さ。ここに当番兵として芦屋雁之助芦屋小雁兄弟が登場。この二人は第2作において、軍曹として田村・勝コンビと絡んでいるから、おお、二人の偽将校はここで化けの皮を剥がされるのだなと、芦屋兄弟との絡みを期待していたら、二人の当番兵はまめまめしく偽将校の世話をするだけで、見せ場なく終わってしまった。この二人が出演した意図が不明である。
その部隊に青柳憲兵伍長こと成田三樹夫もまた上等兵に身をやつして潜り込んでいたのだが、その登場シーンは“悪役登場”という雰囲気たっぷりで、なかなか見ごたえがある。そのあとラストで成田が死ぬまでの経緯については鹿島さんの本に詳しい。鹿島さんの熱い語りにひきずられたせいか、成田が事切れるシーンが意外にあっさりしていたのに拍子抜けした。
ドンパチや喧嘩場面が少ないかわり、勝と少女安田道代とのプラトニックに近い恋愛、勝と田村の男同士の友情、勝と成田の友情、そこに階級社会である軍隊での倒錯的状況など見せ場が続いて、最後まで飽きずに愉しめた。いまのところシリーズ最高傑作と考えるゆえんである。