70年代への郷愁

「天使のはらわた 名美」(1979年、日活)
監督田中登/原作・脚本石井隆鹿沼えり地井武男/沢木美伊子/山口美也子/水島美奈子/青山恭子/若杉透

妻と子どもたちが近くの映画館に「ドラえもん のび太の新魔界大冒険 7人の魔法使い」を観に行った留守に、こちらは一人でロマンポルノを観る。やましさを感じないわけにはいかないが、やはり家族がいるところで観ることはできないから仕方ない。
ちょうど今月下旬から、ラピュタ阿佐ヶ谷でも昨年10月に亡くなった田中登監督の追悼特集(「性と愛のフーガ 田中登の世界」)が始まる。衛星劇場では二ヶ月(?)にわたり同じく田中監督特集が企画されており、ラピュタ阿佐ヶ谷のラインナップと重なる作品が多いので、今回は衛星劇場を頼ることにする。
女性週刊誌の記者鹿沼えりが主人公。初めて任された連載で、強姦された女性に対するインタビュー記事を書いている。取材過程で被害女性に会うなかで、いろいろな事件に巻き込まれ、最後には自らも強姦幻想にとらわれるという筋立て。
病院内で被害に遭った看護婦へ取材したところ、被害者から現場に連れられ、そこで事件の生々しい状況を聞かされる。実はその看護婦は精神的に異常を来しており、死体処理室に連行され、裸にされて暴行を受けてしまうのである。
被害者の看護婦が犯人からメスで腹を縦に割かれた状態で犯される凄惨なシーンから、看護婦から鹿沼えりが犯されるシーン、そしてそれを助けた地井武男との交わり、ラストの強姦幻想場面まで、後半は息づまる展開で思わず見入ってしまう。
地井武男は妻を強姦された元エリート編集者で、いまはドロップアウトして実話雑誌編集者となっている。この地井武男がいったい悪人なのか善人なのかいまひとつ性格描写がはっきりしないのが気にかかった(最後は放心状態の主人公を優しく介抱するから、きっと善人なのだろう)。
ところどころで八神純子の「みずいろの雨」が挿入歌として流れる。ああ懐かしや。シングル発売されたのが78年だという。その後「ポーラー・スター」(79年)や「パープル・タウン」(80年)などのヒット曲が印象に残る。「みずいろの雨」を聞いていると、いかにも70年代にいるような気分になるから不思議だ。
70年代の気分といっても、これをうまく表現する文章力を持っていない。気だるい雰囲気、倦怠感とでも言うべきか。これは透き通るような高音の八神純子の歌声がそうなのではなく、10代前半だった自分があの曲を聴いたときに感じた印象を現在の自分が追体験した気分。回りくどくわかりにくいなあ。
70年代に活躍したアイドル歌手たちの宣伝フィルムをいまになって観ているときにも似たような感覚に陥る。やはり歌の問題でなく、その時代の印象であるとしか言いようがない。