若き新劇人たち

「煉瓦女工」(1940年製作・46年公開、松竹・南旺映画)
監督千葉泰樹/脚本八田尚之/撮影中井朝一/矢口陽子/三島雅夫/三好久子/徳川夢声/水町庸子/悦ちゃん/小沢栄/赤木蘭子/信欣三/松本克平/清川虹子宇野重吉/藤間寿子/滝沢修原泉子/椿澄枝/中村栄二/小峯ちよ子/志賀夏江/戸川弓子/草島競子

貧乏長屋に暮らす人びとを描いた群像劇。一人の少女(矢口陽子)の視点で彼らの暮らしが捉えられている。彼女の父三島雅夫(若い!)は腕のいい大工だが、怠け者なのが玉に瑕。妻からは家の雨漏りも治さないと皮肉を言われる。そのときの返事がいい。「酒屋だって毎日酒を飲んでるわけじゃないだろう」。
隣に間借しているのが浪曲徳川夢声の一家。夢声はせっかく流しの浪花節で稼いだお金も帰りに呑んで使ってしまう。そこの娘(悦ちゃん)は父のために町中を宣伝して回り、夢声は工場の空き地で「独演会」を開く。でも実入りは芳しくなく、大家が家賃を集金してくる直前に夜逃げしてしまう。
小沢栄(これまた若い!)は博打好きで子だくさん。稼いでくると家をあけているときに奥さん(赤木蘭子)が産気づき、六人目を産む。小沢がいないので産後の肥立ちもよくないのにすぐ働きに出て倒れ、哀れ亡くなってしまう。通夜の席に小沢が帰宅し、妻の亡骸を見て号泣。観ているこちらももらい泣き。久しぶりに買ってきたというコロッケを抱えて矢口陽子と走って帰り、それを子どもたちが迎えるシーンが映画のラストで、気分よく館をあとにできた。
宇野重吉はポマードで頭をテカテカにしたつっぱり風兄ちゃん(またまた若い!)。滝沢修は、矢口陽子の学校に転校してきた朝鮮人の父親で、屑屋をしている。いつもニコニコ笑顔を絶やさず、娘が学校の友人矢口を連れて帰ってくると、家族揃って陽気に彼女を迎える。歓待のため、買っていた鶏が産んだ卵をゆで卵にしてあげる。滝沢修の場合、若いというより、年齢不詳の感じ。この人はこんな時期からこんな役をやっていたのかと驚く。しかも髪がもう薄いし。
ほかに信欣三の学校の先生、威勢のいい啖呵を切る清川虹子宇野重吉の兄嫁。一時間強の短い映画だが、これだけの役者揃いで面白くないはずがない。
この映画は戦前1940年に製作されたものの、検閲で不許可となり、公開が敗戦直後46年になったという。滝沢修朝鮮人一家との「心温まる」交流が原因なのか。なごんでもいけなかったのだろうか。よくわからない。