芦川いづみの代表作?

「青春を返せ」(1963年、日活)
監督井田探/原作赤城慧/脚本小山崎公朗/芦川いづみ長門裕之芦田伸介/田代みどり/高野由美/清水将夫大滝秀治

タイトルがベタなので最初は躊躇したが、聞いたことがない芦川いづみ出演作だったため、観に行くことにした。結果的にこれが大正解だった。
小さな木工作業所をやっている長門・芦川兄弟。しかしある日殺人の容疑で長門が逮捕され、無実を主張しているにもかかわらず、強引な取り調べで自白を強要されてしまう。冤罪事件の代表的なパターンだろうか。
第一審死刑、控訴棄却により、弁護士大滝秀治は弁護を下りてしまう。そこで妹芦川いづみがみずから兄が無実であることを示す証拠集めに奔走する。ささやかな幸せを享受していたふつうの家族が一転して陥る地獄。兄の無実を信じて幾多の困難にもめげずに頑張る芯の強い女性、可憐だけども実は強靱な精神力を持つという女性を演じる芦川さんがいい。
男がメインの(とくにアクション路線になって)日活映画にあって、芦川さんは常に裕次郎らの相手役というイメージであるが、これほど彼女が中心になっている作品はあまりないのではあるまいか。芦川さんの代表作といえば、「硝子のジョニー 野獣のように見えて」を思い出すが、ラストの泣ける結末といい、これもそのなかに入れていい作品だと思う。
芦田伸介がいかにもこの人は芦川さんに救いの手をさしのべる人だろうという雰囲気たっぷりに登場する。「実はやり手弁護士だった…」という展開を予想し、その瞬間をドキドキしながら待っていたのだが、それは少し違った。でもそれなりに胸がスッとする「やつし」ではあった。
まだまだこんな隠れた佳品が古い映画には多そうで、どうれ、またしばらく古い日本映画浸りになろうか…、そんな気持ちにさせられる。

これを書いてから、長門裕之さんの訃報を知った。ショックである。あまりに芦川さんが素敵だったので、つい彼女中心でこの映画の感想を書いてしまったが、冤罪をこうむる長門さんの演技を観ながら、いつもうまいなあ、こういう役柄は抜群だ…と思っていたのである。この時期の日活作品を語るうえで長門さんの名前を外すことはできない。謹んでご冥福をお祈りします。