脇役一人見つけたり

「殺したのは誰だ」(1957年、日活) ※二度目
監督中平康/脚本新藤兼人/撮影姫田真佐久/菅井一郎/山根寿子/殿山泰司小林旭西村晃/青山恭二/渡辺美佐子清水将夫

画面からうだるような暑さが伝わってくる雰囲気といい、サスペンスフルなストーリー展開といい、何度観ても傑作だ。
菅井一郎が雇われている中古車ディーラー、あれはどこにあるという設定なのだろう。とにかくこの映画に出てくる東京の町は、車の無法地帯のようになっている。まるでどこかのアジアの町のよう。小林旭らが乗った車も、車の流れがあるのに平気で車を急停車させ、いきなりバックを始めてUターンする。人が歩いているのも気にかけず突っ走る。いっぽう道を歩いている人たちも、あまり車の存在に注意していない。近づいているのに気づいて慌ててよけているようだ。昭和30年代の日本(東京)の交通状況は、本当にこんな感じだったのだろうか。
高度成長によって大衆に自家用車が急激に浸透したため、社会のルールが自動車という交通手段に対応しきれていないということなのか。だからこの映画で描かれるような自動車保険詐欺(わざと車をぶつけて保険金を詐取する)が成り立つ余地があるのだろう。
殿山泰司がおなじように保険金目当てで車を運転し、事故死してしまう千駄ヶ谷の安全地帯*1がまだ事故の跡も生々しく残っているというのに、西村晃が、ふたたびおなじ場所に小林旭を連れてきてぶつけさせようとするのも、保険会社の審査が甘かったからなのかもしれない。
今回気になった人。菅井一郎の満州時代の友人で、彼を自分の店に迎える毛利という役を演じた俳優。大森義夫という。大橋巨泉大木凡人を足して二で割った雰囲気というか、小林桂樹さんを丸くした感じというか。
先日観た「青春を返せ」では、無実の長門裕之さんを自白に追いこんだ酷薄な刑事を演じていた。その後刑事を辞め、桐生の工場でガードマンをしていたが、真実を追及するため本当のことを証言してほしいと頼みにきた芦川いづみさんに対し、「自分たちの平穏な生活をこれ以上乱さないでくれ」とエゴまる出しの台詞を吐いた人として印象に残っていた。
今回「殺したのは誰だ」にも出演していたのを観て、「この人この人」とデータベースで検索したところ、大森義夫さんという方であるのを知った次第。やはりというか、劇団民芸の俳優さんなのだそうだ。何となく好感が持てないなあ…という人物を演じさせてすこぶる印象に残った。また一人脇役の名前を憶えることができて嬉しい。

*1:たぶんこのあたり→35.680527,139.713677