気になる田中春男

「銀座カンカン娘」(1949年、新東宝) ※四度目
監督島耕二/高峰秀子灰田勝彦笠置シヅ子古今亭志ん生/岸井明/服部早苗/浦辺粂子
細雪」(1950年、新東宝
監督阿部豊/原作谷崎潤一郎/脚本八住利雄高峰秀子轟夕起子/花井蘭子/山根寿子/河津清三郎田崎潤田中春男浦辺粂子伊志井寛/藤田進/香川京子

ようやく映画を観よう、そんな気分になれるほどの精神的余裕ができてきた。でもまだ、「あれもしなければならない、これもしなければならない」と、やるべきことが多いのはあまり変わっていないのだが。
こういう何か落ち着かない気分のときに「銀座カンカン娘」という映画は一服の清涼剤となる。高峰・笠置・灰田・岸4人の歌声を聴くとほがらかな気分になって、俗世の憂さも晴れるのである。
もっとも今回は憂さらしきものが心に沈澱するほどに至っていなかったので、そのぶんこの映画を観たときに感じるカタルシスもそれほどではなかった。四度目ということもあるのだろうか。志ん生さんの「替り目」はあいかわらず愉快なのだが、これも以前の印象とくらべあっさりしている。不思議なものだ。
対する「細雪」は、いままで何度か観る機会を逸し、ようやく今回観ることができた。しかも原作を読んだあと(→2009/9/27条)なのだから嬉しいではないか。
高峰さんが奔放な四女妙子だというので、観る前は少し不安だったが、観てみるとさすが大女優、はねっかえりぶりが容姿によって表現されるのではなく、気持ちの面で伝わるのだからすごい。
ふつう「細雪」は三女雪子の縁談中心だから、そこに美貌の女優を持ってくる。吉永小百合しかり。今作は山根寿子である。たしかに美貌の女優なのだが、いまの視点でみればもうひとつ貫禄が足りない。でも、1950年当時の山根寿子という女優の地位は、きっとこういうところだったのかもしれないと思う。次女の轟夕起子ははまり役。
原作のクライマックスである洪水と妙子の恋人の死が映画でも山場になっているが、この映画で何といっても気になるのは、妙子と腐れ縁で、どうしても別れられない「奥畑の啓ボン」を演じた田中春男だ。この人、成瀬監督の「めし」では、上原・原夫婦の向かいに住んでいる二号さんの旦那で、上原を新しい事業に誘い込もうとする嫌味な役どころであった。そういう嫌味な感じが「細雪」でもうまく生かされている。
帰宅後、『ノーサイド』1995年2月号(特集「戦後が匂う映画俳優」、以前千葉の古本屋さんでとうとう見つけたのだ!)をめくったら、この田中春男という俳優さんは戦前から活躍しており、戦前はスタアだったというから驚いた。たしかに写真を見ると松田龍平を思わせる精悍な風貌をしている。そして戦後は一転して性格俳優になったという。また京都出身で、大阪が舞台の映画でのノリの良さは絶品だという評価だ(丹野達弥さん)。たしかに関西が舞台の「めし」や「細雪」におけるあの嫌味な雰囲気は見事であった。