大盛況だった大番完結篇

「大番 完結篇」(1958年、東宝
監督千葉泰樹/原作獅子文六/脚本笠原良三/音楽佐藤勝/美術中古智・佐藤喜代志/加東大介淡島千景原節子仲代達矢東野英治郎/団令子/山村聰/青山京子/有島一郎/中田康子/塩沢登代路/一の宮あつ子/伊藤久哉

前日の「続々大番 怒濤篇」は意外に観客が少なく、そうなると完結篇は前三本を観ていないといけないので、もっと少なくなるだろうと予想して仕事帰りに駆けつけたら、大きな見こみ違いだった。「悪の愉しさ」とおなじくらいの大入り。金曜の夜だからなのか、千葉泰樹監督特集最終日だからか、それとも「完結篇」そのものが面白いからなのか、よくわからない。
前作は、戦争に突入して売りに走ったギューちゃんが大損するというところで終わったが、完結篇はいきなり戦後昭和24年になっている。ギューちゃんは兜町に復帰し、新どん仲代の名義を借りて、小さいながらも証券会社を経営している。
冒頭、東野英治郎の「チャップリンさん」が兜町をさまよい歩き、ギューちゃんの店の場所を尋ねるのが、証券マンの一人らしい伊藤久哉。彼はこのあともうワンシーンにも登場するが、わたしにとって伊藤久哉とは、たしかにこういう感じの役柄の俳優さんなのだ。だからデビュー作が悪役で主演という「悪の愉しさ」は意外だったのである。
そのあとのギューちゃんは、いつものごとく山あり谷ありなのだが、全体としては億万長者に向かっていくというサクセス・ストーリー。「続々大番」もそうだったけれど、こういう胸がすくような出世物語のエンターテインメントは観ていて爽やかな気分になる。
夫を戦争で失い、大磯で暮らす原節子が、お金にあかせて再婚をもくろむギューちゃんを拒むために、自殺同前の死に方をするのが哀しい。原節子の亡きがらを前に、ギューちゃんは身悶えして号泣する。こういう派手な号泣もまた、観ていて爽快。
この四作目で団令子が初登場。ギューちゃんの秘書役。彼女の媚態には不思議と心惹かれてしまうのである。
観終えて映画館の外に出ようとするとき、後ろのほうから、「加東大介野田総理に似ている」と話す声が聞こえてきた。言われてみるとたしかにそうだ。