適材適所の大顔合わせ

人間の條件 第1部純愛篇 第2部激怒篇」(1959年、にんじんくらぶ・歌舞伎座映画)
監督小林正樹/脚本五味川純平/脚本松山善三仲代達矢新珠三千代山村聰淡島千景有馬稲子石浜朗三島雅夫宮口精二小沢栄太郎芦田伸介/三井弘次/安部徹/小林トシ子/佐田啓二/南原伸二/殿山泰司佐々木孝丸山茶花究東野英治郎北林谷栄織本順吉岸輝子中村伸郎

満鉄調査部に勤めていたヒューマニスト梶(仲代)が、「机上の空論家」ではないことを証明するため、老虎嶺という鉱山の労務管理者として赴任する。部長の中村伸郎から兵役免除という条件を提示されたことを受けての転勤である。タイピストの同僚新珠三千代にプロポーズして、夫婦で老虎嶺に赴く。
それにしても配役が多士済々にして適材適所である。「女ひとり大地を行く」が労働者側から炭坑の過酷さを描いたのと逆に、経営者・使役者側から炭坑の過酷さ、中国人強制労働の実態が描かれるのだが、小沢栄太郎芦田伸介あたりが、血も涙もない現場監督を演じてはまり役。労働者を打擲して死に至らしめてもまったく反省しない小沢栄太郎
鉱山の所長が三島雅夫。この丸顔温厚そうな人物が実は煮ても焼いても食えないような、見事にふてぶてしい中間管理職を演じて絶妙。温顔に浮かぶ薄ら笑いが何とも不気味。小沢らに徹底的に酷使される中国人捕虜集団のボス的存在に宮口精二。風格十分。その下でリーダー的存在なのが、南原伸二、殿山泰司ら。南原は慰安所の娼婦有馬稲子と恋仲になる。この映画での有馬稲子は毅然として凛々しく美しい。
慰安所のリーダーが淡島千景で、淡島は、仲代の下で働かされている小僧の石浜朗を色気で誘い込み、中国人捕虜脱走の手伝いをさせようとする。気が弱そうな役がこれまた石浜にぴったり。脱走がばれ、南原等は捕まって、憲兵の安部徹に首をはねられ、惨殺される。この権力を笠に着たように憎々しい憲兵の安部徹も見事。
唯一意外な感じだったのが山村聰労務管理者として仲代の先輩、同僚となる。「青春怪談」や「あした来る人」での老紳士といった役回りのイメージ*1が強いゆえか、若干粗野で、仲代のヒューマニズムを理解しつつも、最後には現実との矛盾に我慢しきれず、暴発して捕虜たちを散々殴りつけるという荒々しい役回りに唖然としつつ、その変幻自在な役者ぶりに驚嘆した。
山茶花究東野英治郎までは確認できたけれど、「満州浪人」という役の佐々木孝丸はどこに出ていたのか、まったく気づかなかったのが残念なり。
人間の條件DVD-BOX

*1:たぶん小津監督の「東京物語」もそうなのだろう。