お屋敷の見方

お屋敷拝見

河出書房新社のビジュアル本「らんぷの本」シリーズの新刊で出た『お屋敷拝見』*1(内田青蔵・文、小野吉彦・写真)を読み終えた。
本書で取り上げられている「お屋敷」は、コンドル設計の旧岩崎久弥邸・旧島津忠重邸・旧古河虎之助邸、宮家の住まいとして旧竹田宮邸・旧李王家邸・旧朝香宮邸、旧大名の住まいとして旧小笠原長幹邸・旧前田利為邸・旧細川護立邸、そのほか政治家・実業家の邸宅7邸である。
具体的に名前をあげた邸宅のなかでは、現在清泉女子大のなかにある島津邸、プリンスホテルになっている竹田宮邸・李王家邸を除いてすべて訪れたことがある。これまでも藤森さんの著書をはじめ、近代建築の本などでもおなじみの有名なお屋敷ばかりだ。
だから本書がこれらの屋敷をあらためて取り上げることに意義があるのか、半信半疑で購入した。
ところが実際に読んでみて、本書の存在意義を大いに感じ、得るところが多かったのである。
お屋敷といえば、これまで設計者・施主の人的関係を含めた歴史や、建物の建築様式(つまり外観)に主に注目していた。外観的にこうしたお屋敷は目を引く素晴らしさを持っているわけだから、素人がこの点に惹かれるのは自然だろう。
いっぽうで本書の著者内田青蔵さんは『日本の近代住宅』という著書もある住宅史の専門家である。
私は第一章「お屋敷の魅力とお屋敷めぐりの心得」のなかで、お屋敷が現代住宅と決定的に異なる点を三点あげているうち、お屋敷には「客をもてなす場という機能が最も重視されていた」という指摘を重視したい。つまりお屋敷は「客に見せる」という属性に力点の一方を置いていたのである。
内田さんは現代の住まいを「つくり手である施主の意識も、単なる個人的な価値観による居心地だけを追求し、自分だけの閉ざされた空間づくりへと向かいすぎている」と批判し、「お屋敷には現在失われつつある文化が存在していた」と言う。
住む・接客するという属性に文化史的意義を見いだした叙述、これは今まで私がお屋敷を見る視点から欠けていた。旧山本有三邸は玄関が目立たない。これはこの観点からいえば、接客を予定していない、家族だけが住む別荘として当初作られたからだという。
本書によりまた一つお屋敷を見る視点が増えた。