誰が狂っているのか

「満員電車」(1957年、大映
監督市川崑/脚本和田夏十市川崑/助監督増村保造川口浩笠智衆杉村春子小野道子船越英二川崎敬三/潮万太郎/見明凡太郎/山茶花究/浜村純

この作品も市川崑の飛び抜けて鋭い感覚に圧倒された都会喜劇だった。
一流大学を卒業してビール会社(駱駝麦酒、社長が山茶花究)に就職した川口浩。入社するとまず尼崎に赴任させられる。入社時点で退職金までの収入を計算しきっている、つまり自分の将来を見切っているという点、鳥肌が立つ。サラリーマンたる者だいたい皆さんそんな感じなのだろうか。わたしはと言えば、将来は「まあこんなものだろう」と見切っているものの、恐ろしくて生涯賃金まで計算したことがない。満員電車 [DVD]
川口浩が住む社員寮の部屋(5畳+入口の三和土半畳)の何も物がない殺風景さと、同僚船越英二の部屋の茶箪笥に食器などが並ぶ優雅さの対象の妙。
そこに国元の母親が発狂したという知らせが届く。父が笠智衆。母が杉村春子という豪華な配役。笠智衆は時計屋で市会議員四期という地元の名士。ときどき一人で笑っているという杉村の奇癖を気味悪がる笠。ところがところが…という意外性のある展開。
実は発狂していたのは杉村でなく、父の笠のほうだったというオチ。杉村はつらいことがあると笑うことにしている。そうすれば気が楽になると、あとで息子川口浩に告白する。発狂したと誤解されても笑うことでストレスを解消するという身の処し方。これまた何とも暗示的だ。
川口浩のハスキーな口跡が社会諷刺の言葉を吐くモノローグにぴったりだし、また台詞がなく身振りだけで物語を進行させるパントマイムのような部分とのメリハリもきいている。
ラスト近く、川口が母を診てもらうため依頼した精神科医川崎敬三三段跳びをしてバスに轢かれる場面、あれは聖橋上だろうか。車道が石畳なのは都電が走っていたせい?
【追記】当初「先日観た「億万長者」はさすがに原爆作りの狂女(久我美子)が出ているせいかソフト化されていないけれど、こちらがソフト化されていることに意外な気がした。」という文章を書いていたが、ちばともかずさんのご教示により「億万長者」がDVD化されていることを知りましたので、削除しました。