墓地でデート

「複雑な彼」(1966年、大映
監督島耕二/原作三島由紀夫/脚本長谷川公之田宮二郎/高毬子/佐野周二中村伸郎若山弦蔵/滝瑛子/渚まゆみイーデス・ハンソン

三島由紀夫の原作を読んだ田宮二郎が、主人公を演じるのは自分しかいないと豪語したという挿話は、どこで知ったのだったか。
安部譲二さんをモデルにしていることで有名な原作だが、いまも集英社文庫で手に入るようだ。むかし持っていたが、三島のこの手の通俗小説は『命売ります』や『永すぎた春』くらいしか読んでおらず、読まないままどこかにいってしまった。
旅客機のパーサーをやっている主人公譲二(田宮二郎)は、パーサーになるまで様々な職業に就いており、ある事情で保釈(執行猶予)中という秘密も持っていた。しかもそれ以上に人に話せない秘密も抱えていて、良家のお嬢様とは結婚できない事情があった。複雑な彼 [DVD]
そんな譲二が、良家のお嬢様である高毬子と相思相愛になってしまう。高毬子の父親役が老佐野周二田宮二郎と高毬子の仲をとりもつのが中村伸郎。高毬子という女優さんはすごい美人というわけではなく、飛び抜けて可愛いというわけでもないのだけれど、どうも気になる存在だ。その他脇役女優陣を見ると、大映の層の薄さを感じてしまう。
この映画で面白かったのは、田宮・高の初デートの場所。田宮は彼女を多磨墓地に誘うのである。実際多磨墓地とおぼしきお墓が並ぶなかを歩く二人。これにはドキッとした。なぜなら三島由紀夫こと平岡公威のお墓が多磨墓地にあるのだから。平岡家の墓所がもともと多磨墓地にあったのだろうが、三島の原作にもそのようなシーンが出てくるのかしらん。いずれにしても多磨墓地が出てくる映画として、「銀幕の東京」的存在価値は高い。
田宮はブラジル・リオデジャネイロで彼女と会うときにも、軍人墓地を待ち合わせ場所にするなど、墓地好きらしい。こんな設定にするあたり、三島の真骨頂というべきか。