短距離走的不倫サスペンス

昭和の銀幕に輝くヒロイン桂木洋子

「密会」(1959年、日活)
監督・脚本中平康/原作吉村昭/音楽黛敏郎桂木洋子/伊藤孝雄/宮口精二/千代侑子/峯品子/細川ちか子/鈴木瑞穂

久々にラピュタで大入り満員に遭遇した。補助席も埋まるほどの大盛況。中平康監督によるサスペンスの佳品という評判ゆえか。
上映時間は72分と比較的短い。中平まみ『ブラックシープ 映画監督「中平康」伝』*1ワイズ出版、→2006/5/30条)によれば、会社から予算を押さえつけられたとのこと。ただ原作者吉村昭は満足の意を示したようである。
逢い引き中の不倫カップルが、たまたまタクシー運転手強盗殺害事件を目撃してしまったことによる苦悩。不倫物としては単純な筋書きなのだが、72分と短いこともあって、不倫の二人が少しずつ追いつめられていく過程が微細に捉えられ、息継ぎなく一気にラストまで持っていったという印象。短距離走のように駆け抜け、エンドマークでようやくホッとひと息つくことができた。その意味ではサスペンスとしては上々と言うべきだろう。
前掲書によれば、主演桂木洋子は、黛敏郎(この作品の音楽担当)と結婚後久しぶりの出演作品なのだという。東大法学部教授夫人と、夫の教え子(新人伊藤孝雄)の不倫。童顔ながら教授夫人としての品格と落ち着きがある。
夫が宮口精二。研究一筋で、妻の不倫に気づかない。成城の大邸宅に住んでおり、人気があるというわけではないけれど、親類に財界の大物がいるという立場上、学生たちがコネを求めて近づき、彼の邸宅で月一度「二十日会」という談話サロンが開かれる。伊藤はそこに集まる学生の一人なのである。
二十日会のとき宮口精二が得意げに政治の専門用語をドイツ語まじりに話すあたり、私には同じ中平監督の「明日晴れるか」を思い出してギャグとしか思えなかったのだが、笑っている人はいない。
宮口邸の女中千代侑子が、うわさ話で仕入れた殺害されたタクシー運転手の遺体の凄惨さや、家の前で車に轢かれた犬の死骸の凄惨さを桂木洋子に話す場面がある。これはラストを盛り上げるための伏線なのだろうか。あのラストは、絶対そうなると予感したとおりになったが(現場は小田急梅ヶ丘駅)、そうとわかっていても、盛り上げ方がうまいのでドキドキしてしまう。
前掲書によれば、中平監督は原作にない伊藤の妹役をこしらえ、「例の峯品子」を出したとある。「例の」とあるけれども、その前の部分に峯品子に言及した箇所を見いだすことができなかった。削除され、この部分だけ関連もわからぬまま残されたのだろうか。
たしか峯品子は中平作品「紅の翼」にも裕次郎の恋人のスチュワーデス役で登場したし、他の中平作品でもお馴染みの女優さんのようだ。監督お気に入りだったのだろうか。この「密会」では画学生役で、活発な印象の女の子役だった。