予告篇の魔力

豊田四郎監督作品劇場予告篇集」
「白夫人の妖恋」「雪国」「夕凪」「花のれん」「男性飼育法」「暗夜行路」「珍品堂主人」「墨東綺譚」「東京夜話」「明日ある限り」「如何なる星の下に」「憂愁平野」「台所太平記」「新・夫婦善哉」「喜劇 陽気な未亡人」「甘い汗」「波影」「四谷怪談」「大工太平記」「千曲川絶唱」「喜劇 駅前百年」「喜劇 駅前開運」「地獄変」「恍惚の人」「妻と女の間」

成瀬巳喜男監督と同じく、豊田四郎監督も今年生誕100年を迎えた。先日まで東京国立近代美術館フィルムセンターで回顧上映が行なわれていたが、結局かねがね観たいと思っていた「猫と庄造と二人のをんな」一本を観るにとどまった(→6/9条)。
怠慢からその他いくつかリストアップしていた映画を見逃したのは痛恨だったのだが、幸い、「日本映画専門チャンネル」で成瀬監督同様4ヶ月連続で豊田作品46本を放映することを知り、快哉を叫んだのである。
初日に流されたのは、予告篇だけを集めた「劇場予告篇集」。成瀬特集のさいはたしか当初こうした予告篇が一本の企画として集成されていなかったはず。これらは映画のあとの空き時間に数本ずつ流されており、それをこまめに録画・編集し、DVDに作品をダビングした空き容量の部分に入れていた。ところが予告篇をまとめてほしいという要望が多かったのか、特集の終盤近くになって「予告篇集」としてまとめて流された。わたしの苦労は無駄に終わったわけだが、この成瀬監督の予告篇集もあらためて録画したことは申すまでもない。
この教訓もあってか(?)豊田特集では、予告篇という本来のあり方どおり、各作品が放映される前に「予告篇集」がまとめて流された。
やはり予告篇と言うだけあって、映画の見どころをうまい具合につなげ、本篇を観たくなるように仕向けさせている。根が単純なわたしは、次々と流される豊田作品25本の予告篇を観て、それほど観たいと思っていなかった作品まで、ことごとく観たくなってしまったではないか。困ったものだ。
これらを観ていると、豊田作品の常連や特徴がなんとなくつかめてくる。森繁久彌淡島千景という「夫婦善哉」の黄金コンビは他にも多く登場し、まったくの常連だ。あとは池部良もそうだろう。
「文芸映画の巨匠」と呼ばれるだけあって、大作家の代表的作品の映画化が顕著である。志賀直哉『暗夜行路』、山崎豊子『花のれん』、有吉佐和子恍惚の人』、永井荷風『墨東綺譚』、谷崎潤一郎『台所太平記』『猫と庄造と二人のをんな』(これは代表作というわけではないが)、川端康成『雪国』、井伏鱒二『珍品堂主人』、有島武郎或る女』、芥川龍之介地獄変』、森鴎外『雁』、高見順『如何なる星の下に』、織田作之助夫婦善哉』などなど。重厚である。