戦後13年という時間

「負ケラレマセン勝ツマデハ」(1958年、東宝
監督豊田四郎/原作坂口安吾/脚本八住利雄森繁久彌望月優子伴淳三郎乙羽信子淡島千景三遊亭小金馬野添ひとみ小林桂樹有島一郎横山エンタツ左卜全中村是好芦田伸介

税金滞納騒動の顛末を記した坂口安吾の同名の長篇エッセイが原作。エッセイが原作なんて、珍しいのではあるまいか。
車の内張屋(修理工場?)を経営する森繁、望月夫妻は、前年森繁が入院していたという理由で税金が払えないと滞納しつづけている。入院の原因が、しゃっくりが止まらなくなるという奇病であるのがおかしい。何かショックを受けるとしゃっくりが止まらなくなり、長風呂に入って治そうという民間療法を試みたりする。
望月の妹に、独身で鮨屋を営む淡島と、古綿打ち直し屋の伴淳と結婚した乙羽二人。この二人は税金をきちんと納めている。伴淳さんは戦争で弾が頭に入って、酒が入ると軍隊のときの幻影で暴れるという酒乱癖がある。
よく考えると、この映画は1958年。まだ終戦から13年しか経っていない。いまから13年前の自分を考えると大学院生の頃だ。記憶も新しいわけで、まだまだ敗戦を引きずっているという印象。実際映画のなかでも「戦後13年」という言葉が出ていたように思う。
森繁から未納税金を徴収しようとする税吏が小林桂樹。小林は淡島に気があるが、けんもほろろにいなされる。差し押さえられた家財道具を没収するため小林らが店を訪れたとき、森繁は想定問答集をノート5冊にまとめ、小林らの質問に対しノートを読み上げて対応する。税吏を迎えるときにわざわざモーニングを着て勲章までぶら下げるというところに笑ってしまった。
いま安吾の原作(ちくま文庫版『坂口安吾全集16』所収、ISBN:448002476X)を見ると、この想定問答集ノートを使った税吏とのやりとりは原作の雰囲気をそのまま映画化したものであることがわかった。今度じっくり原作のエッセイを読んでみたいと思う。