むくむくと「七人の侍」

黒澤明と「七人の侍」

前回「七人の侍」フィギュアについて購買意欲が衰えたと書いたけれども、結局その後も懲りずに買い続けている。その後「○○○○○○△た」の旗指物を後ろに翻している平八(千秋実)の着色像につづき、菊千代(三船敏郎)と黒澤監督の着色像が当たってしまった(黒澤監督像は、まあ、いらない)。これで七人のうち五人(うち二人はモノクロ像)までが揃ったとなれば、あと二人、七郎次(加東大介)と勝四郎(木村功)が欲しくなるのは道理。たぶんこれからが苦しくなるのだろう。
『大アンケートによる日本映画ベスト150』*1文春文庫ビジュアル版)でさらに「七人の侍」再見への気分を盛り上げつつあるいっぽうで、新刊のとき迷いながら買わずにいた、都築政昭黒澤明と「七人の侍」』*2朝日文庫)がやっぱり気になってきたので購入し、読み終えた。「七人の侍」の発案から完成までのドキュメンタリーである。
以前フィルムセンターで豊田四郎監督の「雁」を観て、主演した高峰秀子の自伝『わたしの渡世日記』に書かれた同作品の裏話を拾い読みしたとき、「いい映画には、それに比例していい挿話が付きもののようである」と書いたが(→2004/10/16条))、その意味では「七人の侍」の場合、全編が「いい挿話」だらけと言っていいだろう。本書そのものがエピソード集であるから、エピソードで一冊の本になるわけで、ゆえに比例して「七人の侍」が傑作であると導き出せる。
本書には撮影現場の写真などがたくさん収められている。黒澤明という映画監督の作品をはじめて封切時映画館で観たのは「影武者」だった。1980年だから、中学生の頃。その時点ですでに黒澤監督は「世界のクロサワ」であって、黒眼鏡をかけ大御所然とした印象しかない。
ところが本書に収められている「七人の侍」撮影当時の若き日の(43歳)黒澤監督の姿は、笑顔の写真が多いゆえか、まったく厳めしそうでなく、優しさすらにじみ出ており、「七人の侍」以外の古い黒澤作品への興味がますます高まった。
上述のように、本書は全編「七人の侍」の挿話に彩られており、それらすべてが傑作映画をかたちづくるための一片のピースとなっているため、引用しようと思えばきりがなくなる。あえてひとつだけ選ぶとすれば、勘兵衛が村を要塞化するにあたり、一箇所だけ隙をつくってそこに敵を集め勝負をつけるという方法をとったことについての挿話だろうか。

この見事な戦略による勘兵衛の村の要塞化は、後に自衛隊の幹部が訪れて「誰の指導を受けて戦略を考えたのか」(「『七人の侍』ふたたび」)と黒澤に尋ねたという。「誰にも相談してませんよといったら、『えっ!?』ていうわけ。あの勘兵衛のやり方は、アメリカ軍の作戦要務令にぴったりなんだってね」(同前) (166-67頁)
そして自衛隊幹部は、作戦の教科書として「七人の侍」を使いたいと申し入れてきたという。
井上さんのように「あと○○回」とは気張らないけれども、たしかに「七人の侍」は何度観ても飽きない魅力をそなえていることが、本書を読んでよくわかる。だいたい、ストーリーを細かく語っている本を読んで、なお映画が観たくなるのだから。